毎日の補修に小テストで嫌になる。
蝉は大声で合唱を始めていて、イヤホンを耳にぶち込んでも蝉の声がかすかにしてボリュームを上げた。
将来なりたいことなんてないし、したいこともない。自分の将来像が見えないのに一生懸命になって勉強して

「楽しくなさそうだね」

凪はそういうとペットポトルの水を飲んだ。

「楽しくなんかないわよ。やりたいこともないのに勉強をするなんて」

「そうだね」

「勉強を楽しむってどうやってやるのかしら」

「好きになればいいんだよ」

適当に言う彼女を横目で見てため息を吐いた。

「そんなことできたら、苦労しないわよ」

「人生で1番無限に楽しむ方法は、学ぶことだ」

「なに?」

「有名な言葉だよ。人生で1番無限に楽しむ方法は、学ぶことだ」

「勉強は、楽しくないわ」

「違うよ。学ぶんだよ。好きなこととか、興味があることだよ。物事には学ぶとしたら底がないんだ。また、新しいことが発見されるからね」

「勉強とどう違うの?」

「好きなことをとことん追求するってことさ」

好きなこと。特にこれといった好きなことがない私にはまたも、遠い話だった。
空には入道雲が大きくそびえ立っていて、青い空に堂々と構えるその姿を私はわりと嫌いじゃなかった。

「澄乃は、好きなこととかないの?」

「そう、ね。あまり考えたこともないし」

「なにも楽しくないじゃん」

凪は、たまに失礼なことをズバリと言うことがある。イラっとはするがなにも言わない。言ってもしょうがないし、怒るのは体力がいる。

「じゃあ、凪はなにが好きなの?」

「特に」

「同じじゃない」

「いいや、違うね」

ふん。と鼻を鳴らしてみせても凪にはどこ吹く風で。バッサリと言われた。

「なにが違うのよ」

「私は、悩んでないからだよ。好きなことがないって」

「そんなの私もだわ」

「今悩んでるじゃん。私は、今言われてもなにも思わないよ。楽しければなんでもいいから」

「興味ないことだって、あるでしょう」

「あるけど、やらなければいいだけだよ」

「避けられないでしょ?嫌なことだってやらないといけない時があるのよ」

「さあ?どうかな」

青い空のような青いシュシュは、黒い髪の毛に良く映えていた。
白いシャツは夏特有の輝きを持ち、水色のリボンタイは爽やかさを出すにはちょうど良かった。
風が吹く。
緑の葉っぱたちが泳がされてなびいていた。彼女のポニーテールもなびいていた。

「なにか、楽しいことないかな」

「駆け抜けてみる?」

凪は私の言葉を掬って言った。

「どこを?」

「夏を」

「駆け抜けるって、どうするのよ」

「駆け抜けたら終わりさ。でも、楽しさなんて一瞬なんだよ」

また、わからない話をする。でも、心のどこかではなんとなくわかっていた。

「どうやってやるのよ」

「言ったでしょ?生きようって」

言ったけど。言ったが、生きてるってなんだ。駆け抜けてなにがある。終わるならばなにもしなければ始まらないのではないのか。
あの時。レアモンの誘いに乗らなければ、いや、マリイと会わなければ。いやいや、太陽のせいか。
なんにせよ、始めならば始まらない。でも、今生きているならきっと終わりがある。

「澄乃、君は生きてないよ」

凪の言葉に私はなんだかどうしたらいいのかわからなくなった。

「叫ぼうって言ってるじゃん」

ケラケラと笑う彼女。
私は彼女とは違う。私は真面目だから楽しいことをすぐに考えられないし、なにもわからない。
でも、彼女はいつも楽しそうにしてる。何かを隠してそうに見えるが、なにも教えてはくれない。

「私は、なにも考えつかないわ」

「私が考えてあげる」

神社から見える鳥居の間から街が見える。下が全く見えないから、まるで、宙に浮いたらように見えた。

「でも、誘っても断らないでね」

「むりよ。学校がある日は」

「なんで?」

「なんでって、ダメでしょ」

「なんでダメなの?」

「なんでって、」

なにも言えなかった。

「怖いんでしょ」

どきりとした

「サボるの。悪いことだもんね。でもさ、だから。澄乃は、つまらないんだよ」

カチンと来た。真面目だと言われることが多いし
私もそうだと思う。ふつうに進学してふつうに就職してふつうに生きてって。楽しくなんかないよ。わかってるけど、なにをすれば楽しいのかわからない。バカができないんだから

「だから、断らないでね」

むりだと、言いたかった。

「澄乃、悪いことじゃないんだよ。嘘をつくことなんて」

嘘は泥棒の始まりと言われてきた。

「お母さんに嘘をついて、学校に嘘をついても悪いことじゃない。嘘をいけないと教えたのは、嘘を突かれるとさみしいからだよ。でも、べつに先生なんて、君が休むと言えば休むんだなって思うでしょ」

それはまるで今までの自分の行いが正しかったからこそ、できることだというようだった。

「まあ、学校がある日はあまり誘えないからさ。夜とか親に嘘ついてね」

なにも言えなかった。嘘をつくなんて考えられなかったから。嘘は誠実さを失う。でも、嘘を全く突かない人とつけない人では愚かさが違う。
つかない人はきっと、誠実だ。きっと、いい人だ。
でも、つけない人はただのカモだ。バカだ。つまらない。私はきっと後者の方だ。
嘘をついてはいけない。でも、彼女は嘘を悪いことだと思ってない。
私はため息を吐いた。

「嘘なんて、ただのでまかせだよ」

青い空のように清々しい心を持ってる。
悪いことをしてるのに、まるでなにもしてないような。
普通の人はきっと、私のように固くないんだろうなと思った。

「楽しもうね、澄乃」

澄み切ってない私のつまらなさを彼女は助けてくれるのだろうか。


back next
戻る Madonna