相変わらず暑さは続き、熱中症についてテレビでは新しい新商品の紹介が行われていた。

「今日の小テスト」

自分としてはあまり出来が良くなかったテスト。

「てかさ。澄乃はさ。受験いつなの?」

ふと凪に聞かれて

「九月ごろね」

「大変?」

「まあまあ」

「もともと頭いいもんね」

「まあ、勉強はしているからね」

「まじめだねぇ」

凪は私が気にしていることを、なんともなく言う。気づいてないから怒れない。
夏が来ていると言うのに、どうしてこうも我慢しかしなくちゃいけないんだろう。テストをして、復習して予習して。
凪は一切してないと言った。だから、小テストもその場限りの実力でやると。
なんでこうも。楽しそうなんだろう。受験がないからかな。人生の楽しみ方を知ってて羨ましかった。あなたのようになりたいと何度も思った。あなたをみていると、何度も自分がなんてつまらない人間なのかと思い知らされた。
嘘をつくこともできない。他人を楽しませる話もできない。真面目で、評価を気にして、なんで生きてるんだろうと。

「空が青いと」

凪がふと言う。

「空は大きく感じるよね。無限に」

「そうね」

「私ね、空が好きなんだ。夏空。高くて青くて溺れてしまいそうなほどの圧倒感が好き」

空を指差しながら言う彼女。
私も空を見た。圧倒される青さに目眩がした。ムルソーはこんな気分だったのか。

「なかなかのものよね」

「いいよね。水の中とかも好きだよ」

「冷たいものね」

「なんというかね。溺れる感じが好き」

「溺れるの?」

「うん。圧倒されて、溺れるの。苦しいんだけど飲み込まれてる感じが好き。生きてるっていうか」

いつも感覚で生きてる彼女の言葉には理解できないことが多い。でも、なんだか共感してしまう。

「生きてたいって、どうしたら思えるんだろうね」

叫びたいだの、生きようだの。言っている彼女から疑問が出てくるのは珍しかったが、あまり深く考えなかった。

「なんだろうね」

私もわかりたかった問題だからだ。なにか大きなことを成し遂げたとして終わりではなくそこが始まりだと知った時。人はどうなるんだろう。

「生きれたらいいわね」

ふと漏れた言葉に彼女が反応した。

「生きて、楽しめたら。どれだけ幸福なのかしらね」

目線を下げていった。
日陰となっている足元には石の階段から石畳が並ぶ。
凪は空を見上げたまま、何も言わなかった。

「楽しめることなんて、ないよ。きっと」

ふと凪が言った。
今までの言葉と矛盾している。

「だから、探すし。生きようとするんだよ。何もかも用意されてる中で楽しむなんて。そんなの、命の輝きが無くなる」

生きることを諦めたのではなく、生きる為に死を選んだムルソーは、果たして人生を楽しめたのだろうか。終わりのために生きるなんて。矛盾するにもいいところだ。

「輝けたらいいわね」

わりと適当に返した言葉に彼女は空を見上げたまま、目線をこちらに送ってまた、空を見た。

「そうだね」

鼻で笑ったような笑みをしてから言った言葉に、私はなんだかそれが嘘に思えた。


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