ヴァイオレットは王宮内を歩いていた。
ただの言葉が180度も意味が変わってくることになってしまった彼女はやりたくない殺しも、仕事も、会話も、ドフラミンゴの世話もしなくてはならなくなった。
気がおかしくなりそうな日々を過ごしていた。リク王の安否とシェリー姫が囚われているという話。いくら目を使っても見つからない。
目を凝らしてみると、白い頭
「お疲れ様です」
彼女と接するのは初めてだった。ヴァイオレットはイヤイヤながら夕飯を共にするので会話はしたことがあるが、会話という会話はしたことがない。
綺麗にお辞儀をする頭を見て、自分が王女時代を思い出す。5年前のあの日。
苦しむ人々とリク王の悲惨な姿を思い出して、自然と手のひらに力が入る
「あなたは、」
そこまで言って口を噤んだ。なにを話そうというのだろうか。今頃仲間探しなんて。しかも、異世界人に。滅亡した国。略奪ではなく、滅ぼされた。国民たちが騙されてる状況のドレスローザとは違って、もう無い。そんな彼女になにを話したら、なにも言ったらいいのか。そもそも、あのドフラミンゴの秘書であって味方とは程遠いのだ。
この国の内情もきっと教えられている。その上で秘書になっている。
白い頭が少し横に倒れる。切り揃えられた毛先が顎先で揺れる。宝石の瞳はアジュール
「ヴァイオレット様」
清らかな声がした。
女性にしては低めの、だが心地よく届く。
「お疲れですか?」
自分を従者として、きちんと心配してくれている。微笑みながら少し伺ってくる顔は優しい
「え、ええ。そうね」
王女としての立場を思い出させてくれるかの様な佇まいにその時の癖が出てくる。その時、天井からベトンと大きな粘膜が降ってくる
「べへへー!!」
相変わらずの粗相を振り撒くトレーボル。その姿に肝が冷える。
大丈夫。別に変な事はしてない。普通に返事をしただけだ。
ーーヴァイオレットは目を使いきれてなかったことを少しばかり悔やんだ。
「べへへー・・おい、ドフィ。どこ行ったぁ?」
びよーんと効果音がつきそうなほどの伸びで彼女の目の前に顔を突き出す。こんな粗相のやつを以外に質が高いモノを見極める目を持つドフラミンゴの幹部なんだろうと常々首を傾げる。
「・・あ、若様は庭におられるかと。それか執務室です」
今日は王座はお休みです。彼女にしては珍しく引いて話す
「あと、すこし、その。近いです」
パーソナルスペースを確保したい彼女は半歩下がる
「近いけどー?べへへー」
トレーボルは言葉を残してまた消えた
彼がこちらを向くことも話すことなかったことに安堵し、少し深い息が胸から抜ける
宝石の瞳がこちらを向いているのを感じ、顔を上げる
キラキラと屈折を使い輝く瞳と光を全て反射する白い睫毛。白い眉と白い髪。自分とは異なる存在。だが、不思議と嫌にはならなかった。むしろ、なぜか彼女に縋りたくなる
「・・あなたは」
先程言った言葉を紡ぐ
「国が滅んで、大切な人たちが消えたわ。それでも、誰かに仕えるのはなぜ?もちろん、この世界に来たし、そうなってしまったのかもしれない・・。でも、自由にだってなれたはず」
そこまで言って、彼女に選択肢があるはずがなかったことを思い出す。
傷つけてしまっただろうか。その見た目に反して柔らかい雰囲気を持つ彼女を。
数だけが年上だからか、すべてを包む要領を持つ彼女は気づいたらファミリーに信頼を結ばれていた
自分は、ずっと、人質という立場なのに
「自由とは」
キリッと糸が張った音がする
「自らの選択の数を選択できるということであり、自身の根源を確固たるモノにできる空間のみ働くモノであると、私は思うのです」
白い髪を耳にかける。ひと束落ちる
「選択の数と・・自分の根源」
コクリと頷く
「人による。というのが最適であり合格でしょうが私自身の自由について述べてみました」
ふわりと笑う
「この世界は特に、富や名声を当てはめる人が多いかと思いますが。それは副産物であり。どの富を手にするのが自分の自由かということが大切です。例えば、お金。例えば愛。となると、
お金があるから、欲しいものが買えるからと言って人の心が手に入るわけじゃない。
愛があるからといって、大切な人やモノ。ましてや自分を守れることでもない。
自分の自由を守るために、なにを手にするのが最適であり。そして、それを手にするためになにを捨てるのか。を選択できる。
それを選んでいくことも、選んだ先で起こることも、それは自分の好きなことや自分自身を表すモノとしての指標となる。
それが、自分の根源」
欲は薄く、考えは深く。
「では、今。私は自分で選べる選択肢が無いから自由ではないと」
胸の上で無意識に手を握る。指先が少し赤くなる。生きている証拠だ
「私的にいうと、選択肢が無いのではなく。選択肢が足りてない。が正しいかと」
「足りて、ない?」
「少ない。わけでもない。でも、あなたは自分の野望のためにここに残り、命を紡いでいる」
リク王のことも国の過去も知っている。当然自分のことも知っているだろうと思い
「私は、自由になれないわ」
下をつき呟く
「自由になる。は誰もが難しい話です。現に、私は自由の冷たさを感じ選択肢を消してます」
宝石がカラリと動く
「自由の冷たさ・・」
「自由とは、自分でしか責任を負えない。一から何通りの選択肢を用意し、選び、捨てる。そして自分の最適な未来に行く。
私はここでの生活も、価値も、水準さえも知らない。なにも知らないまま、自由だと外に出たところで。困った時誰も助けてくれないし、支えてもくれない。独りぼっちの独立というのは、愛もなければ温かい声もそれを手に入れる富さえもない。となるならば、自由の選択肢を消し。自分の根源が根付くようにした方が生きやすい」
「その根源は?」
焦ったようにきく。彼女はヴァイオレットの声に少し驚くも、ふわりと笑った
「生きているからこその価値です」
芯がある。実に清い
「若様、じゃなくても誰かの役に立つこと。ありがとうといわれること。いわれなくても伝わること。その空間を作り育て上げ、誰かの心が安らぐならば、私の価値は自分の中で高めることができる。見た目ではなく、私自身が動き考えることで生まれる価値」
「それが、生きているからこその、価値」
心臓が動いている。そして、選択肢を生み捨て育てることができる思考を持っていること。それを行動に移せる身体があること。
「その価値を、誰のために使うかが私の価値の市場になります。その見定めも選択肢でありその先の未来が私の価値の高騰。そして、根源の増幅」
ヴァイオレットは、自分が王女であるからリク王を助けられると考えたし自分の能力を使えばそれを伸ばしてもらえると思った。やりたくないこともそのためにと我慢した。我慢してきたから、自由ではないと思った
「私は・・私は、この能力も自分のことも、父や民、みんなに酷いことをした人たちのために使いたくなんかなかった・・っ!」
口を手で塞いだ。ここは王宮。しかも先ほどまでトレーボルがいた。背中に冷や汗が垂れる
「では、ヴァイオレット様は。愛を選択したということだけが事実です」
意を返さない、澄んだ声がする
「誰かのために。と愛。そのために手を汚すことにした捨てと選択。その先の未来が今です。
自由でない。のではなく、自身の根源が揺らぐ内容を多数選択したことによる葛藤です」
なにか、救われた気がした
「その価値を捧げる先を選べなかった。愛を一方的に与えて受け取れない事による枯渇。それらの複合性が今の葛藤」
「葛藤・・」
「誰かのために。は大きいですが、大きいが故に揺らぎやすいし倒れやすい。だが、あなたはそれをやめなかったし逃げなかった。だから、ここに居て葛藤し嘆いている」
宝石が光る
「立派です」
涙が手に溜まった
「数だけが上の私が、今のあなたを評価するならば。立派。誰かのためや国のためにと己を投げ捨てる時点であなたは立派な王女であったし、人である」
鼻息が荒くなる。喉に唾が通らない
「それを選んだ未来の先がどうなるか、このままなのかわかりませんが。今、ここでやめたと言っていいのに逃げてない。その時点であなたの枝分かれしている選択の1番最初の幹は、愛。
それを貫く時点であなたの価値であり、勝っている」
能力を駆使しても、液体は止まらない
「もちろん、あなたが逃げるのならば全力で止め若様に報告し罰を与える。それが私の今の立場を作る価値の育て方です」
宝石を見る
「それが今の私の根源の上げ方」
ふっと笑う。味方ではないと伝わるインディゴブルー
それでもだ。自分はただの従者であると、媚も売らずだが信用は得る。そのどっち付かずの態度と立場がヴァイオレットには大きな支えであり、冷たさだった
「自由の、冷たさ」
不意に漏れた音に、ハッとする
底冷えするような冷たさ。身体が凍っていくような感覚。選べるけど選べないから返す。という選択
今、自分がここから逃げたとして。リク王も誰も居なかったとして、誰のためにどう生きればいいのかわからないことを想像する。彼女が背負ってしまった自由はこれか
「選択肢の数を調整することが、私たちの自由であるとするならば」
目鯨を立てずに話す
「今、あなたは」
自由なの?と口の中で音が消える
彼女は分かっているのか、やんわりと笑う
白い髪が揺れる。白い睫毛が降り上がる。宝石が覗く。
「自分が今、ここにいる原因の育て方で根源の種類なんていくらでも変わる。だから選択肢も増減するし内容も柔軟に変わる」
彼女をみる、綺麗な笑みだ
「種類こそ変われど、根源であることは変わらない。揺らいでも戻る、ゴムのように」
「自分が居る、原因」
ヴァイオレットの呟きに、クスリと笑い。踵を返す
「その原因を探れば、根源。それが自分。だから、自由」
白い髪が揺れて消える
自分があの日、捧げたから今に至る。それは愛だと長寿が言う。確かにと思う。
味方はいない。されど、わかってくれる人はいる。
ここは、愛と情熱の国だ。
その2つを綺麗に並べ持つことが自分の中の確固たるモノであるとヴァイオレットは消えゆく白を見ながら思った