氷山を砕く

降り続く雪をみてため息をつくと白い煙が上がった。なんとなくそれを見届ける
マリージョアからの帰り道、迎えの軍艦を断り自力で帰る。
海軍の軍艦はデカいが客室に押し込まれて窮屈だった。それを帰りもと思うと腹の中が気持ち悪い。空の道を辿りテキトーに島に降りて一休みすることにした。到着した島には雪が降っていて分厚い雲は消えなさそうだった。それならばいつでも帰れるから逆に安心だ。
看板のロブスターが美味しそうだったレストランを見つけて中に入る。
バターと塩胡椒で味付けされたロブスターは白ワインを誘った。プリプリに身が詰まったロブスターをナイフで切りフォークで運ぶ。弾力のある噛み堪えがあるロブスターを見るに海の幸が豊富であることがわかる。
食事を終えて、ホテルに入る。食事で気分がいいからシャワーは朝に回すことにした。
サングラスをベットサイドに置いて、寝酒に先ほどの白ワインと同じ銘柄の赤ワインを飲む。
ふと窓の外を見れば雪の粒が大きくなっていた。ワインもほどほどに睡魔が深くなったのを感知して枕にもたれかかった。
いくら強いと言っても敵の船で眠りこけることなどできなかった。会議も相変わらず退屈で寝ないようにするのが大変だった。
すー、と眠りに入るのを感じるとドフラミンゴは何も考えずに身を任せて眠りにつくことにした。

##

ぱちっと目が覚め身体をむくりと起こした。
ベットに腰掛けるようにし、サングラス探す。窓の外を見れば昨日よりも雪が積もっており寒そうだった。朝の呼吸とため息をついて、昨日パスしたシャワーを浴びに向かった
だるい身体が軽くなったのを感じて、シャワー後腰掛けていたソファから身を起こす。朝にしては曇天過ぎて永遠に夜かと思えてしまう外を見る。レセプションに向かいベリーを払う。
ドアマンが扉を開けるのを見て一歩外に出る。
雪は地面を覆うようになっていて、昨日よりも寒気がした。空を見れば白い雪がハラハラと降っている。視線を地面に戻し足で踏めば靴の跡がついた
「よろしければ、暖かいモノを用意いたします」
ドアマンがドフラミンゴに一言声をかける。
寒さゆえに躊躇した様に見えたのだろう。ピンクのファーコート以外夏島向きだ。中のシャツだって閉めてない。
「いや、いい」
短く答えるとドフラミンゴは歩き始めた。後ろでドアマンが一礼していた。
ホテルもレストランもそうだったが、新しい建物が多いが小さな町だ。
雪が降っているからか、人もそれほど出歩いておらず少し寂しく感じる。特に珍しいものもなく、すぐに観光を終えてしまった。柔らかそうな雪が降るのを背景に街並みを見ていたら潮の香りが鼻をくすぐったので、海に出向くことにした
港と呼ぶには大袈裟で、ただ海岸を整備しただけの様な道だった。ログのために停まってる海賊船を見つけた。正規港には大きな海軍基地があるからこちらに停めたのだろう。おいたができないこの町で静かに物資でも調達しながら溜まるのを待ってるいるのだろうか。
雑魚に突っ掛かれても面倒なので、港は諦めて逆方向に進むことにした。
進んでいるうちに海岸には大きなガラクタが捨ててありゴミ溜めになっている場所をみつける。始まりの土地を思い出す。懐かしみながら歩いていれば、崩壊というよりも、滅んだような広い場所に出た。何が建っていたのかわからない崩れように燃えていたであろう木々は炭になっていた。
一歩歩けばカランと音を立てる地面。急な惨状を見ながら進めば年寄りの男が1人いるのを見つける
「おい、じいさん・・なにしてんだ?」
「こんなところに、人がおるとは・・迷子かい?」
「フフフ・・質問しているのは俺だが・・迷子じゃねぇよ。散歩だ」
「散歩するような場所じゃないじゃろうに・・ここには何も残っておらんよ」
「何があったんだ。戦争か?」
「戦争か・・戦争にしては一方的な攻撃じゃ」
「なんだ、略奪か」
「そうと言われればそうなんじゃろうな・・数十年前、ここは非加盟国の島じゃった。ここには国も大きな街もあった。それを天竜人が人間狩りとしてこの地に降り、滅んだ。・・今じゃ海軍基地ができ人が移り住むようになった」
「どおりで街の作りが新しいと思ったよ。若え奴らしか見ないしな」
「わしはまだいい・・その時、わしは漁に出てたんじゃ・・戻ってみればこの有様よ」
非加盟国、天竜人、人間狩り。3つの言葉でドフラミンゴは何があったかすぐにわかった。
自分は幼く参加したことがなかったが、隣の天竜人たちが祭りになると楽しそうに開催地へ向かっていっていたのを遠い記憶に覚えている。
「そりゃ、残念だったな」
「・・わしよりも残ってた家族が可哀想じゃ・・まだ小さい。生まれたばかりの孫じゃったのに・・」
泣いているのか腕で顔を覆ったのをみて、ドフラミンゴは散歩を再開した。
天竜人にしても下々民にしても、残虐性や残忍性は変わらない。それを覆い隠すように雪が黒くなった街を覆っていった。
島の歴史がわかったところで寒くなってきたしそろそろ帰るかと海を見る。曇天を写したような海。そこに女が1人立っているのを見つける。
ブルーアッシュのミニボブにグレーのいかにも男物のジャケット。ツンとした横顔。赤い鼻が印象的だ。
「おい、女。そこでなにしてる」
ドフラミンゴの声に気づいて振り返る。やけに死んだ目をしている。ドフラミンゴの胸下に頭が位置する。見つめているとお互い首が痛くなりそうだ。
「いえ、とくに・・」
女は特に興味なさそうに海を見る
「こんな地にあなたがいるとは」
「フフフ・・俺のこと知ってるんのか」
「そりゃ、まあ。王下七武海ですし」
「俺も有名になったもんだ」
「そんなあなたがここではなにを?」
「散歩だよ・・フフフ・・そろそろ帰ろうと思ったが、深刻そうに海を見てる奴を見つけてな」
ドフラミンゴは楽しそうに笑う。女はぴくりとも笑わず海を見る
「そんな風に見ていた覚えはないのですが・・そう見えたならそうなんでしょうね」
「随分と影があることを言うな・・お前もこの島の生き残りか?」
「・・この島で何があったかご存知なんですか?」
「ああ、さっき弔いにきていた爺さんに聞いた」
「・・・彼は運が悪かったのでしょうか。独り残るだなんて」
目線を流しながら話す。曇天と雪が似合う女だ。
ブルーアッシュの髪が風に煽られる
「お前もじゃないのか」
「いいえ。あの人間狩りには生き残りなどいないでしょう」
確かにと口角をあげて答える。
「なら、ここで何してる」
ドフラミンゴの問いに、少しの沈黙
「・・失ってしまった穴を埋めるために・・散歩です」
暗い顔して冗談を言う
「フフフ・・何を失った」
「すべてを」
短く、そして深く
「家族も、夢も、希望も、意味も失いました。それでも死ねないからここにいます。
たどり着いた先が没滅した島とは、また、なんとも・・」
そこまで言って黙ってしまった
死んだ目は勝色。この曇天の空と海を全て閉じ込めたような瞳。
「なにもないならば、俺と来るか?」
なんとなく提案してみる。勝色がこちらを向く
「海賊になれと言うのですか?」
「何もないならば、何にでもなれるということだ。背負うもんがねぇなら俺が背負わせてやる」
「力もない私が、海賊には向いてません」
「じゃあ、お前はどこに行くんだ」
ザザァと海が水飛沫をあげる。
マリンブルーより深い色をした海が悲鳴をあげている。
風が強く吹く
「どこにも行けないなら、俺が拾う。俺を背負え」
「横暴な・・」
「それが、海賊」
ドフラミンゴの高笑いが雪空に響く。
「お前に武器くらいくれてやる。・・弱い奴は死に方すら選べねぇ」
勝色が揺れる。ブルーアッシュは暗がりに光るブルーベリーのように見える。小さくてすぐ潰れる。そのくせ色が残りやすく酸味が後を引く
「人くらい、殺したところあるだろう」
女の柔らかそうな手が拳を小さく作る
「好きで殺したわけじゃない。殺されそうだったから」
「お前の過去は後でいい・・その目が証拠だ。ろくな人生歩んでないのはすぐにわかる」
「・・・海賊に言われるとは」
「フフフ・・心外か?」
「まあ、そう、ですね。でも、それはそれでも楽があります」
「命令を受ける方が楽か」
「・・リードがついてた方がマシということです」
勝色がパチっとサングラスとあう。
「自由を嫌うか」
「自由の冷たさは、心臓が冷えます」
面白いことを言う。喉の奥で笑いドフラミンゴは顎を擦る
「自分で断ち切ったか」
「それができるなら、私は自由であると思うのです」
「お前に今あるのはなんだ」
ドフラミンゴの問いに、また目線を流す。
ボルドーのサングラスをゆったりと見つめる
「・・なにも。空っぽであるという認識できる箱がある。といったところでしょうか?」
「リードくらい俺が繋いでやる」
ゆっくり瞬きをする、漆黒の睫毛は長さがある
「拒否はするな、秒で頷け」
「いかにも海賊」
「いや、国王だ」
楽しそうに笑う。ため息をつく女。狙われて逃げられると思ったらその場で殺す
「なぜ、私なんです」
何もない。非力で一般人な。そう続ける女。ドフラミンゴは少し考え
「その死んだ目が証拠だといったはずだ・・お前の過去は朝食でも食べながらきく」
連れて行くのは当然であると笑うドフラミンゴ。
「着いてこないのか」
答えを知ってて聞けば
「・・行くしかないでしょうね。永遠に」
「永遠か」
「拾ったなら、最後まで面倒を見るべきです」
「お前は犬か」
「そうなって欲しいのでは?」
カチッと瞳が合う。いい女だ
軽く羽織ったデカめのジャケットが片側だけズレる
「拾ったのか?大きさがあってないな」
「拾いました。寒かったので」
「新しいのを買ってやろう。捨てておけ」
見るからに不恰好である上着を指差す。女は雪が降っているのに文句言わずジャケットを下ろし、捨てる。
「リード代わりに買ってやるよ」
ドフラミンゴは女を見る。勝色が少し光る。ここには太陽の光も届いてないのに
風が強く吹き、ブルーアッシュを荒らす。
雪が投げ槍になり、女が少し立ち揺らぐ。海が大きな悲鳴をあげそちらを軽く向く。
中に着ていたシャツが風に揺らぎ背が覗く
「大層なものを背中って飼ってやがる」
楽しそうに笑う
「シャチか」
ドフラミンゴの声がけに寒さを気にせず、白シャツのボタンを取り無言で背を向けシャツを肘まで下ろす
不健康が少し響く細い肩とくびれ。傷ひとつない青白い肌。黒く浮かぶ登り鯱
それを入れた理由は知らない。意味も知らない。これから知る。

海の王者として君臨するシャチ。
小鯨の内臓だけ食べるグルメな奴。選ぶ側だと主張する
冬の海が悲鳴をあげ風が吹く。ブルーアッシュが揺れて勝色が長い前髪から見え隠れする。
光がないのに隠れてた青が顔を出す。選ばれていたのは俺か。
お互い内臓だけ貪りあって、先に骨だけになるのはどっちだろうな