懐かしのマリージョアはいつも空気が旨くて、新鮮で、鼻に通して肺を膨らますのに最適だった。
俺を部下だと勘違いした野郎を吹き飛ばして、長い廊下を歩く。ローファー特有の踵音を拾わないほどふかふかの絨毯は争いなんて起きないと確信を持っているようで嘲笑いたくなる。
外に出てゴンドラで下界に向かう。夢のような時間は終わりか。
蟻のような海兵どもが立ち並ぶ。俺を警戒するには力不足だ。船に案内され用意された軍艦を見上げ確認。ふと、港外に人の気配を感じる
「誰だぁ?」
海兵の前でおいたなんて。笑って近づけば
「お勤めご苦労様です」
少し視点が合わない女。一般人じゃない。世界政府のお使いか
「どこ見てやがる」
「視点合わせが不慣れでして。ご勘弁を。戦争の名残です」
目が悪いくせにタバコは一丁前に吸う。俺がいるのがわかってるのに
「吸いますか?」
ポケットからシルバーに光るシガーケースを取り出す。
「フフフ・・結構だ」
そうですかと目を伏せてケースをポケットに戻す。
「CPにしては、装いが違うな」
「CPではないので」
「じゃあ、なんだ。一般人か?」
「ただ世界政府所属なだけです。たいそうなものではありません」
「そんな立ち位置聞いたことがない」
「ただの下っ端です」
口から紫煙を吐き出す。こちらを見ているのかいないのか。視点が合わない
「このあとは、ドレスローザに?」
首を傾げる。タバコを吸い終わったのか、短くなったソレを携帯灰皿に押し付ける
「ああ、まっすぐ帰らないとうるさいんでな」
「子守りも大変ですね」
冗談を言うのに嫌な気がしない。口角が上がる。
「まっすぐ帰ってください。今年は世界会議です」
世界会議を気にするあたり、そうとう深いところで動き回ってるのか
「会えるの楽しみにしてます」
よく見れば目には真珠のような白内障が小さくある。戦争の名残にしては大変だな。
「そのとき、わたし。あなたの担当になりますよ」
軽く話す。声を出さずに軽く笑って船に向かう。船に乗る道までついてきた。健気にお見送りか
海兵が多いこの場所をぶつからずに歩き、きちんと見送り海兵たちと同じ位置に立ち、ひらひらと手を振る。
見事な見聞色の覇気使いだ
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麦らわと執念に駆られたローに敗れて、ファミリーものとも監獄船に乗せられる。
10年。たった10年されど10年。おれが費やした時間も力も何もかも手から滑り落ちていった。
おつるさんが囚人服に着替えて海楼石に巻きつけられた俺をレベル6まで護送する
床に膝をつかされ横になった体に鎖がまかれる。まったく。結構なもてなしだ。
ここは光がない。何もわからない。マゼランがたまに話し相手になるが、他の看守どもは一言も発さない。会話厳禁か?
しばらくして、急に独房に移される。何も言わないから聞かされてない。俺が話しかけても誰も話さない。
「フフフ・・なぁにを焦ってやがる。おれがあのサークルにいるのがそんなに厄介か?」
「・・・」
「フッフッフッ。なあ、あそこにはサウシスコ・ノックフィールドがいたろ。あいつは元気か?」
監獄の檻からオレに飛びかかろうとして、マゼランに溶かされた俺が使い古した億越え。上から来た刺客は誰が食べたんだろうな。
コツンコツンと踵の音がする。光が薄いここでは音が頼りだ
サングラス越しに人を見ると、いつか見た女
「フッフッフッ!!まさか、ここで会うとはな!」
あの人は違い看守服を着こなす。ショートパンツからは細い足が伸びる。ハイカットブーツが床を擦った
「ほんとに、まさかですよ」
腰についた手には新聞。
「新聞係か」
「あなたの担当ですよ」
世界政府所属とはよくいったものだ
「俺を殺すか?」
高笑いを出せばとんでもないと首を振る
「目を見張るだけです」
そういうとサングラスをとる。なるほどタペタムか
「なんの能力者だ」
俺の質問に答えずに笑う。新聞を檻の隙間から差し込む
「お使いなのは間違えなかったか」
「ほぼ奴隷みたいなもんですよ」
ため息を楽しそうに出す
「フフフ、奴隷だと」
「敗戦の名残です」
同じ言葉を言う。
「焼印でも押されたか」
「いいえ。押される前に転がり込みました」
この見た目では優しくされますからね。人の心理をつく話だ。
新聞を受け取る。ぱさりと開いた場面は世界会議。今年の世界会議はとんだ波乱ものだ
「なにか楽しそうなことでも書いてありますか?」
女が疲れたのか、しゃがむのをやめ床に直に座る。新聞の裏面を覗き込む。
「その眼じゃ、読めねえか」
「タペタムはただの補助です。元の眼が使えなければ意味がない」
困ったように笑う。
「アラバスタの王が、革命軍に殺されたとよ」
読み聞かせてやれば、興味なさそうな相槌
「興味ないのか」
「ただの情報です。真意はわかりませんし」
何かを知ってるのか本当に興味がないのか
時間だからと立ち上がり、あの時のように手を振る。
新聞係はあれから何度もやってきてはお目付役をこなして帰っていく。
だが、今日は少し焦っているようだ。そりゃそうだ。おれが海楼石を無視して覇王色を展開したんだから
「なにか、ありましたか?」
新聞を受け取りハラリと落ちる手配書と新聞の見出し。憎いふたつの帽子が俺の足元に落ちる
「フッフッフッフッフッフッ・・!!」
笑いが止まらない。サングラスを左手で押さえる。覇王色は止められない。眉間に皺がよる。俺の全てを消し去った奴ら。外の世界は大盛り上がりだ。俺が作った、俺がもたらした、俺が整えた新世界のシステムを一つ残らず壊していきやがった
「フフフっ!四皇だとっ!!」
爆発したような覇気が出た。きっとマゼランが焦り倒れた看守や倒れた囚人が溢れているだろう
抑える気もない覇気に触れたのは、冷たい手
ハッと手を見れば、檻の中にいる新聞係。なぜそこにいる
「興奮しすぎて気を失います」
ふうと大きく息をついて俺の隣にしゃがみ込む。
「よく、耐えれたな」
「耐えてませんよ。さっき死んでました」
冷たい手が興奮で熱い手を冷ます。
まったくと手が離れる。隣に腰掛け手を後ろにつく。壁に背をもたれれば、ポケットからはいつかみたシガーケース。初めてここに光が灯る。おれの了承くらい取れよ
「敗北者にはキツイですか?」
タバコか新聞か。後者だろうな
「わたしも、敗北者ですから。思いは違うでしょうが、腹の中は分かります」
小さな赤い光が灯っては消える。呼吸に合わせるその光を見てればこちらの息も揃ってくる
「お前にか?」
「自分の世界を失うことは誰でも腑が煮え繰り返りますよ」
なんてことないように話す
「自分の世界か」
「でも、ソレを作る力があったから失った」
タバコの煙の匂いがする
「作る力もなかったら、負けることもなかった。でも、失ったから私たちはきっと、ずっと、勝っていたんでしょうね」
タペタムがタバコの光に反応する
始まりの地より前を思い出す。全て失い地に落とされた。それを忘れることはない
吸い終わったのか携帯灰皿に押し付け、頭を壁に委ねる
「面白いことを言う」
こちらをチラリとみる。視点はわからない
かさりと落ちた手配書を拾いテキトーに眺める。見えた人物は麦わら。姿がおかしい。こんなやつに30億。
興味なさそうに麦わらの一味、ルーキー、そしてロー。とめくっていく
「字は見えないんじゃないのか」
ふとした問いに
「見えないとは言ってないですよ」
軽く返してきやがる。ポイと手配書を足元に投げる
「ずっと見えてますよ。あなたのことくらい」
頭の包帯が取れてよかったです。だなんて笑って言うから調子が狂う
「見てたか」
「見てます。ずっと、お目付役ですから」
ふふと笑いたばこをおかわりしようとシガーケースに手が伸びる。その時、イヤホン型の電伝虫に通信が入ったのか手で軽く抑える。
ため息をつき、ひと呼吸。立ち上がろうとする腕を新聞を捨てた手で制する
「新聞、まだ読んでねぇだろ」
読み聞かせてやるよ。なんて笑えば、少し考えるような顔して座り直した。
「カイドウの話ですよね?それなら、世界中で話題沸騰中ですよ」
どっかの誰かが果実園やめるから。なんて。お前、ほんとうにただの下っ端か?
諦めかけたシガーケースから一本抜き取り、慣れた手つきで火を灯す。
フウとタバコの匂いを俺の部屋に散りばめる
捨てた新聞を拾い俺の手に重なる。触れた指先は平熱。
新聞を広げる。横目で見れば、こちらの呼吸を整える軽い点滅。太陽も音も風もないここに、全てある。名を呼べるには、なにに勝てばいいんだろうな