トレーボルの勤務範囲はドレスローザ王国の地下である。
ここは表沙汰にできないジョーカーの仕事を大きく担っており失敗がひとかけらも許されない。
おもちゃを生み出すシュガーの護衛を担いながら、今日もおもちゃと人が円滑に回っているか確認する
「モネ」
珍しい客だとトレーボルが身体を粘りながら近寄る。シュガーは姉に会えて嬉しそうに見える
「珍しいな」
「たまたまよ。書類を受け取りに来たの」
幼いままのシュガーに微笑みかける
「若様は?」
「元気よ。あとでトレーボルに会いに来るって」
姉妹揃ってドフィにアツい。ドフィが来るのはもちろん、トレーボルだって嬉しい。王がくるならアレやコレや決めていたいものだ
話をしていると、船が到着した音が響く
なるほど。降りてきた理由はこの船か
「あれ?モネ様?」
珍しいと船から覗くのは黒いキャップを被った女。こちらの返事など聞かずに引っ込み、着岸後の指示を出す。
降りてきたかと思えば、バインダーに紙を何枚も挟み黒い革手袋の指先で指示を出す
「久しぶりね」
「お元気でしたかー?・・シュガー様、お土産ありますよ」
楽しそうに笑う女の首には大きな火傷の跡。皮膚を絞ったような腫れは鎖骨から首筋を通り耳の裏まで伸びる。髪の毛が少し不自然に生えてない箇所が小さくあるから、きっとそこまで焼けた
痛々しい見た目とは反して、明るい声と笑顔を出す
「この前運送した島に美味しいフルーツがあったんです。グレープじゃないんですけど、美味しかったから」
バインダーを近くの積み上がった木箱に置くと、フルーツを取りに行く。
黒皮から差し出されたのは薄いピンクがかかった拳くらいの果実。
「切らないといけないんですけど。夕飯後のデザートにでも召し上がってください」
気に入ったらまた買ってきます。シュガーは感謝を軽く述べて近くの下っ端にキッチンにお願いをするよう伝える
「今回の収穫は?」
「ジョーカー様の予想通り。と、プラスで追加購入希望。それからカイドウ様からスマイルを少し多めに運べないからという話です」
ウェイターズがたくさんいますからねぇ。バインダーを捲りながら淡々と話す。
「べへへ、お前は食べないのか?」
「食べませんよ。海入れないんで」
キャップこら除く瞳は薄暗いここじゃ真っ黒だ
「あと、シーザー様から物資申請届いてますか?あれからもう1ヶ月ですか。早いもんだ」
パンクハザードへの貨物船は月に一度。シーザーから依頼の電話を受け取り、それをまとめた表と荷物。その船に出発を促すのは彼女の仕事
「モネ様が向こうに行くのも、もう少しですね」
「そうね。あちらで会えるの楽しみにしてるわ」
「うまいもんとあったかいもん持っていきます」
使い終わったバインダーを腰に当ててリラックスする。
会話中、女がふと港への入り口に目をやる
「よぉ。カイドウは元気か?」
随分な挨拶をして現れたのは我らが王。ピンクのファーコートを揺らしてゆったりと歩く様は実に優雅
「わぁ!ジョーカー様!元気ですよー!」
ご主人の帰宅に喜ぶ犬みたいな顔してドフィを迎える
「フフフ・・元気でなりよりだよ。ワノ国は整いはじめたか?」
「順調そうですね。といっても、ワノ国内には入ってないのでよくわかりませんが」
貨物船の運送業を担う彼女はうちのファミリーじゃない。いつの日かそこにいて、いつの間にか運送部門のトップにいる。仕事ができるということか。
武器に詳しく、営業が上手い。大きな傷を恨むことなく火力が強いものを好む。
ドフィは楽しそうに笑う。うちの運搬幹部は優秀だ。この港を管理しているトレーボルはこの女の腕を確認したことはないが、滑らかに仕事が進む毎日を支えているのは彼女の力だということくらい参謀にはわかる。だからこそ、能力でも得てうちにどっぷり浸かって死ぬまで働いて欲しい
「お土産です」
そういった目線の先にはバズーカ型の銃口が何個も並ぶ台車を下っ端が運ぶ
「簡単に増産できる型を手に入れたので、それで作りました。海楼石ではないので単価は安い。ベリーを払う代わりに手に入るのは、誰でも扱える大きさのバズーカ。戦争の火種と勝ち筋と飛びつく愚か者」
ふふんと笑う。その顔を見て、ドフィは口角を釣り上げる
「フッフッフッ!!戦争が長引くな」
「心痛い話ですね」
痛む良心などないような口調で笑う。武器屋の癖に。どの口が言うんだ。
「あと、いつもの報告書です」
モネに手渡す。受け取ったモネは、ドフィと話してる間に受け取った書類を女に渡す。
「パンクハザード便はいつ出るの?」
「そうですね・・」
ペラリと読み込む。めくり上がった表紙には『パンクハザード 取寄せ希望表』
「三日後ですね」
「なら、私のモノも少し乗せようかしら」
「どうぞどうぞ。なんでもお持ちください。わたしが降ろしますよ」
ニカッと笑う。
「スマイルの件ですが。荷物を増やすとなると、少し旅費が嵩みますね。ほぼ、スマイルだけで運搬してますから。兎丼の川船とは訳が違います」
「海楼石を積んでる船か?」
「遠出となると、生活も伴いますから。人を減らすのもねえ」
「じゃあ、連絡船増やすか?」
「まあ、そうしかないでしょうね。船買ってください」
「フッフッフッ、無茶言う」
「お手頃でしょう」
「俺のことなんだと思ってる」
「国王様ですよ。天下の」
キャップのせいで瞳はよく見えない。
「お前が前に壊した船があればな」
ドフィが意地悪く返すと、舌を出す
「大砲に勝てない船が悪い。いっそ鉄の船でも作りましょう。エンジンを積んで、モーターを回すんです」
「シーザーにでも作ってもらえ」
「シーザー様は科学者で、エンジニアじゃないですよ。作るならDr.ベガパンク」
話がやむとバインダー片手に他の船に向かう。進行方向にはドフィ
「あとで、お茶でも飲むか?」
ドフィの誘いに大きく頷く。
「ソッコーで終わらせます」
その割にはプラプラと歩き、行く途中行く途中で下っ端に指示を出したり、片手あげて反応したり
キャップの下からは、腰まであるネイビーの髪をひと束。毛先が腰で揺れてる
歩きやすそうな黒の厚底スニーカーは割と傷だらけだ
##
地上に上がり夕飯が近くなりドフィを迎えに執務室にいくと
「あれぇ?モネだけかぁ?」
執務室の扉を開き閉じる姿が目に入る
「あ、トレーボル」
「ここじゃないとなると、自室から?」
「そうね。なんのよう?」
「夕飯だ。迎えにきた」
「そう、私もよ」
ふふと綺麗に笑う。隣になってドフィを迎えに行く。外の空はネイビーが大半占めるグラデーション。追いやられたのは黄緑に近い黄色
自室のドアまで行くと、モネがノックする手を出す。向かいの壁側にくっつように立ったからその行動に首を傾げる
「モネ?」
扉に近寄れば話し声。モネはトレーボルの質問を無視して扉を3回。中からのドフィの返事に扉を開ける
「夕飯よ」
ニコりと笑う。中を見れば、キャップを抜いだ武器屋。まだいたのか
「ああ・・・それで、どう動くんだったか?」
自室のチェアに腰掛け、デスクに足を乗せ足首を組む姿。トレードマークのピンクコートはコート掛けに
向かいのソファにはちょこんと座る武器屋。コーヒーを飲んでたから、ドフィの言葉に少し遅れる
「ん?・・ああ、そうですそうです。だから、こちらから仕掛ける必要はなくて、あくまでもあっちが動いてくれないと意味ないじゃないですか。なにも上が動く必要はないかと。威厳が薄くなるし、あなたの影が消えてしまう。よろしくないでしょう?」
なんの話をしてるかわからないが、2人で作戦会議とは。いつから仲が良いんだ
「ジョーカーはそこにいる必要も見る必要もない。今見てるから、あとは勝手にやりますよ」
「フッフッフッ、お前の考えはわかった。でも、その武器を誰が操るかで大きく変わる」
「能力者なんて、海楼石でできたものの前には無力ですよ。逃げ出すくせに強がるんだから。
能力だって、立派な武器です。それが逃げちゃ商品にならない。それを撃ち殺す弾を誰を扱うかです」
「その手はいくら捕まえた」
「金に換算するならば、何億ベリーか。カイドウ様、様々ですよ」
背もたれで見えなかったが、コーヒーカップを持たなかった左手は肘から下がなかった。正確にはテーブルにある。嫌な気がする
「海楼石で作る義手には敵わねえだろ」
「重くて敵わないですけどね」
ふふんと笑う。キャップがないせいで、火傷がもっと目立つ
「捕まえて欲しいやつでもいます?行きますよ」
軽く言って、腕を取る。ほんとうに重そうだ。腕と手全体の装甲を全て石で覆う。中に見えるのは被せるためのベルト。
「たくさんいるぜ。お前も獲ってきたらいい。船首に掛けてやる」
「要らないから、金に換算してくださいよ」
人の首なんてなんの武器にもならない。嘲笑うように笑う。
「よく言うぜ。人の生首に手ぇ突っ込んで、お人形遊びしてた癖に」
大きな高笑いがドフィから流れる。えげつないと顔を顰める
「遊んでたなんて人聞の悪い。あの生首持って帰ったら換算してくれたんですよ」
金だけ信じる女は特に気してない顔して淡々と話す
「武器は誰でも扱える。扱い方と人が違うだけで。立場がそこなら妥当な扱いです。
武器が人を変えるなら、拳を握れば簡単に変わるということになりますよ」
「残忍性は人間とは切り離せだろう」
ドフィの苦い声をなんともない顔で受け止め、コーヒーを一口
「離せますよ。その場にいるかどうかです」
ドフィが楽しそうに笑う
「お前、さっさとこっちにくれば良いのに」
モネの温度が少し下がる。雪は出すなよ。色んな意味で
「きてますよ。船が動き、守るものがあれば」
守るもののためにみんな武器を持ってる。微笑みは綺麗だ
「あなたが望む先を叶えるために、船を出すんです」
「俺の目先を行くか」
「リーダーは前を行くものです。私は後ろからそれを見て察知して届ける」
「軽口だな。カイドウにもそう言うか」
「いえ、キング様」
楽しそうに笑い、立ち上がる。まとめた頭頂を手で撫でキャップを被る。その左手は海の力。
「あ、そうだ。欲しがってたCP達に新作の試作品渡しました。受けは上々。パンクハザードの帰り道。ヴェルゴ様経由で新作お渡し予定です。
あと、欲しがってたロザメオ島のサランマンダー王国との契約結べてます。それから、ウザがってたシールガンズファミリー。解体済みです。獲物はあと30分後、Cの25番に着岸予定の船にあります。お好きにどうぞ」
また来ます。と部屋を出る。夕飯は食べない。でもそばにいた。一礼もせずプラプラと歩き出す。
「ウ〜〜、やってくれるぜ」
フッフッフッ!と楽しそうに笑うドフィ。
やはり手に入れたいと笑う姿に、モネが静かに中庭を吹雪かせる。ドフィの後ろの窓は一瞬で雪景色だ。
ドフィがお茶に誘うもの、勧誘するのも、褒めるのも。気が張らない姿を知っているのは、誰よりもアイツなのかもしれない。
「これは?」
モネの目線を追えばドフィにしては珍しい白湯
「ああ・・・ひと呼吸だ」
ドフィの言葉に首を傾げる。ふと、ドフィの雰囲気が和らいでることに気づく。
雪が消えドレスローザの夜が綺麗にうつる。窓を見る顔は柔らかい。いつもと少し違う雰囲気に白湯の温さを感じる
少し楽しそうなドフィをみて、モネを見る。
窓から見える空には深い青に押しつぶされた黄緑は、もういなかった