「ほんとうに!許さないんだからっ!!」
ベビー5。ベビーが涙目を堪えながら、カートの持ち手を強く握る
思い出すと悲しくなる。ワナワナと震え、今にも身体を武器に変えてしまいそうだ
「ベビー様は、見る目ないから」
ボソッと呟かれた言葉を拾う。バッとみると先ほど連行した使用人。ドレスローザを占拠してから入ってきた彼女。我らがファミリーに解体された組織で働いてた。特に使命感もなく。でも、イヤイヤと首を振りながら若様に糸で引かれて連れてこられた。こちらの内部も知ってるから、おもちゃになるか死ぬかの二択。迷わず死にますと選んだ彼女を止めたのは若様の糸。それから2人は仲が悪い
婚約者をまた殺された。殺し損ない、横腹を掠めるようにグラディウスで撃たれたので痛みと怒りで若様の部屋を綺麗にする気が起きなかった。
そこに通りすがったのは、やっと見慣れたメイド服を纏う彼女。何か言う前にカートを押させた。嫌そうな顔とオーラを出すが仕事は断らない。見上げた従者だ。
「なんですって!?」
「だって、また、イケメンでもない。金もない。若くもないような男でしょ。なんでそんなに結婚したいんですか」
バカにするようなため息をつかれる。
「だって、私のこと必要だって」
「ほんとうに必要かなんて、見たらわかるでしょ。口にしないのが良い関係ですよ」
カートを横に、壁にもたれ話を聞く。目線はこちらに投げずにベットのシーツを剥ぎ取り、こちらに投げる。受け取ってカートに入れる。新しいシーツを張り替えるのを見て、手伝いに行く
「それこそ、国王様なんてベビー様がそういう感じだから殺すんでしょ」
ここにきて、内部を知っても。その呼び名は変えなかった。違和感のある呼び名を耳にしながら目線を飛ばす
「大切に思ってるから、殺すんでしょ。しょうがないって」
「だからって、街ごと吹き飛ばす?!」
「あの巨体と脳なら、吹き飛ばすという単純で力のある方向にいくでしょ」
終わりと枕を定位置に置き、布団を整え軽く叩く。心地の良さそうな音がする
ベビーの愚痴を流しながら、床の掃除に向かう
「そんな事言ったら、シュガーが結婚した時も吹き飛ばすじゃない」
「シュガー様にはしませんよ」
「なんでよ!」
「ちゃんとしてるから」
こっちの話をテキトーに聞いてるくせに、返事は謎めいててイライラする。
「そもそも。国王様が用意するような奴と結婚したら良いのでは?必要とされるでしょ」
デスクに近寄り、使って下げてないグラスをカートに乗せる。
「え、いや、それは。そうだとしても違うでしょ」
「というより、ベビー様。恋したことあるんですか?」
恋?と首を傾げる
「結婚。なんて契約みたいなモノなんだから。まずは恋して。好きだなぁとかそれが苦しいなぁとかやって。お互い言葉にしないけど必要だよね。ってなった時に結婚するモノであって。初対面で結婚するなんて。天竜人の妻じゃないんだから」
ため息をつきながらモップを手にする
「してるわよ」
「してないです。それは恋じゃなくて、ただ自分の承認要求を満たそうとしてるだけです」
難しい単語にまた首を捻る
「必要とされたいというのは問題ないですが。相手も自分に対してのみの承認要求もするのが対等です。
ベビー様だけ、認めて欲しいって言ってても。向こうが認めず、またあなたの意思はいらないと態度ならそれは、恋ではなく。ただの疑似恋愛を用いた商売です」
なにやら難しい。ベビーはため息をつく
「じゃあ、彼は私のこと必要としてないってこと?必要って言ってくれたのに」
「結婚してって言われただけでしょ。あなたの何に惚れたって言ってたんですか?」
ベビーは都合が悪くなり唇を閉じる。その表情をみて、ため息をつかれる
そう言われてみれば、彼の名前も知らないし住んでる場所も家族形成も知らない。グッと言葉を詰まらせる。
「じゃあ、なによ!あなたは恋したことあるの!?」
「人間ですから、ありますよ」
何言ってるんですかと冷たい視線を投げられる。
「え?あ、そうなの?ど、どんな人が好みなの?」
予想外の返答にベビーは頬を染める。
「別に。会話がスッキリしてて、行動も悪くない。過度なイタズラ好きでしたが、さらに付き合える度胸を備えていたので楽しいで終わる」
「相性良さそうなのに。なんで、一緒じゃないの?」
「合わなかったからですよ」
「合ってたのに?」
「合ってたのに。もう、良い歳ですから。人並みに別れも出会いもしてますよ」
大人な恋をしているようでなんだか胸が高まる
会話が得意で、いらずら好き。勝手に動いている。なるほど
「若様みたいね」
ゲッと顔をする。動きが止まる。
「やめてください」
「なんでよ。若様だって、人でなしだけど人気じゃない」
「庭のマーメイドたちと同じにしないでください」
「そうじゃなくても、スパイダーマイルズから女の人が断ってるのなんて見たことないわ」
「断れないでしょうよ。殺される」
「あなたは断ったじゃない」
「国王様につくなら、死ぬと言ったんです」
「なんでよ。前の組織だって別に慕ってなかったくせに」
「ジョーカーが嫌いだから」
自分たちの王を悪く言われたのに嫌な気はしない。犬猿だから。仕方ないとベビーはため息をつく
「何がそんなに嫌なのよ」
「逆に、なんでそんな良いんですか?必要だから?」
バカにしたような口調にムッとする
「私自体には問題が降ってこなかったけど、世界を裏で回してる奴に恋焦がれるなんて。気分一つで首が飛ぶのに」
「意外にも殺しは少ないわよ」
「あなたたちにさせてるんでしょ」
「あなたはしなかったの?」
「してましたよ。だから、まだここにいるんでしょうね」
「あなたの能力は珍しいモノ」
「武器人間に言われたくない」
「メイド服を着せられてる時点で、あなたの仕事は従者でしょ」
「それが趣味なんじゃないですか。あなただって、男受け良さそうな装備と服装じゃないですか」
よくそんなミニスカで動けますよね。彼女のスタンダードな長さの丈を見て、自分のを見る
「だって、足が綺麗だって」
「そういうフェチなだけでしょ。気持ち悪い」
「若様が言ったんじゃないわよ!」
「誰でも良いですよ。ろくでもないんだから」
喋りながらテキパキと部屋を綺麗にしていく。慣れたもんだ。仕事が早いのは本当だった
「ジョーカーは、誰にも心なんて渡さないでしょ」
「そりゃ、そうだけど」
「安心なんて求めてないくせに安泰が好きなんだから、その対比が気持ち悪い」
べ。と舌を出す
首を傾げれば、ため息をつく。そんなにつかなくても良いのに
「安心なんて。感覚が鈍りそうで嫌いなのに。国王について6年も維持するなんて。おかしいじゃないですか」
「それは、世界会議に参加したいからで」
口を滑らしたか?。ハッと息を飲んだが気にしてないようだ。胸を下ろす
「世界を壊したいのは勝手ですが、私の世界を壊されては困ります。責任も取らないくせに」
「そばにおいてるじゃない。ファミリーには優しいわよ」
「どの口が言うんだ。私はファミリーじゃない」
いつも見える境界線は今日も濃く引かれる。そんなことしても、意味がないのに
「若様のお気に入りのくせに」
「冗談じゃない。モネ様に殺される」
本気で嫌がるから面白い。確かにモネは気に入ってなさそう。
「じゃあ、なんで。逃げずにここにいるのよ」
「羽振がいい」
簡単に返す。見つめ返せば
「それ以外に何か?」
キョトンとした顔で淡々と話すから調子が狂う
「みんな、若様に惚れてるのに」
「カリスマ性は否定しませんが、私はイヤだ」
首を軽く降って仕事を再開する。モップが終わり、カートに戻しにきた
「終わりましたよ」
ほぼ1人で掃除した部屋を見渡す。相変わらず完璧。嫌いなのに
「仕事は仕事です」
「若様、また気に入っちゃうわね」
やめてくださいと眉間に皺を寄せる
ガチャリと扉が開けば、ピンクのコートが揺れる
「掃除中か?」
若様が帰ってきた。少し時間をかけすぎたか
「いいえ。今終わったわ」
視界の隅には嫌そうな顔
「様になってきたな。その服も」
「光栄です」
イヤそう
扉からデスクに向かう。コートを途中で落とす。床に落ちる前に彼女が拾う。ナイスキャッチ。
「ベビー5とお勉強か?」
「そうですね。おもにベビーの恋愛について」
なんだそりゃ。若様が楽しそうに笑う
退却しようとカートを押させて扉まで行く。彼女が振り返り若様を見る
「ワインですね」
急なセリフに首を傾げる
「ああ」
「昼間ですから、西の海産の。年代は?」
「任せる」
「承知」
それだけ呟くと一礼もせずにカートを押して出ていく。
その姿を見て、ベビー5は首を大きく傾げるのだった