祝杯をあげる

はじめてカイドウに会った時もインパクトがあったが。それよりも、こいつに目線が流れたのはしょうがないことだと思う。
カイドウの部下たちのようなパンクファッションもせず、ワノ国のような着物も着ず。白い白衣を纏う。ブラックマリアやうるティになにか声をかけられながら頷き微笑み返す。
ペンを握る左手だけ手袋をしていた。左利きかとカイドウとの会話を聞きながら視界の隅で確認した。
「問題ありません。ジョーカー」
様をつけないあたりがカイドウの部下であると語っている。
久しぶりにワノ国からの使いが出るとのことで城は少し騒がしかった。地下の港に案内してトレーボルとシュガーが引率してきたのが彼女。
相変わらず、白衣を身に纏い左手にはあの頃とはデザインが変わった明るい茶色の革手袋。
こちらの書類を見ながら会話をする。ナンバーズなど訳のわからないバケモノや古代種と動物系だけをかき集めるにしては華奢で戦闘の文字が見合わない女だ。
「商品には問題ないでしょうか?」
カチリとナポリ色の瞳とかち合う。
「ああ。ワノ国の技術は世界一だ。特にこの前下ろした長距離砲がいい」
「お気に召したようで嬉しいです。またのご注文お待ちしております」
座った状態で軽く頭を下げる。
誇示することなく謙虚に下がるところは下がる。いい感を持ってる。そりゃ、カイドウも気にいるだろうよ。力こそあれど、貿易力なんて皆無そうだ。ワノ国じゃなくても上手く流れそうだ
「スマイルはどうだ?」
「はい。カイドウさんも大変気に入っております。動物系を簡単に集めることができると喜んでおります」
「フン、雑魚を増やしたところで意味なんてなさそうだがなぁ」
「実力があるものにはスマイルではなく、オークションにて買った動物系を与えております。
数も集められないようではこの先足元を掬われます」
「寄ってたかったって、無駄なもんは無駄だろ」
「無駄を上にやらせないための、スマイルです」
ふふふと笑う。柔らかい顔をしておきながら残酷な意見だ
「お前は、その上か?」
「中間でしょうか。戦闘だけが力ではありません」
「参謀と言ったところか」
「クイーン様の研究施設で動き回ってるだけです」
「フフフ、シーザーみたいなもんか」
「マスターは、自分から検体にはなりませんよ」
おかしな単語に首を傾げる
「身体のサイボーグ化は、驚きの連続で飽きません」
左手の手袋をゆっくり引っ張る。見えたのは皮膚じゃない。骨じゃない。手でもない。メタルでできた手の形状をした、ソレ
「ロボットか」
「左腕だけです。昔吹っ飛んだので代用です」
手の平と甲を交互に見せる。動かす気はない
「変身はお預けか」
楽しそうに笑い曖昧な返事をよこす
「また、今度」
また今度があるのか。そう思わせる時点でお前の勝ちだろう。営業トークの上手さは百獣の中で群を引くんだろう。戦闘能力の高さは見えないが、肝が座ってるいることはわかる
「そもそも、お前は能力者なのか?」
ゆっくり瞬きをする。返答はない、曖昧な笑みを一つ。境界線だ。欲しくなる
「隠し事が多いとは、大変だな」
「伝えられないことが多くて、申し訳ないです」
「とぼけた野郎だ。嘘つきとは取引する気はねぇぞ」
高笑いすればやんわりと笑う
左腕だけといったが、それか本当なのかもわからない。ズボンの下は生足なのか機械なのか。他の身体は変わっていないのか。疑問が深まるが、こちらを見つめる瞳は嘘ひとつもないほど綺麗だ。ナポリ色が映える
「心配無用です。こちらもそのつもりですから」
一瞬ピリッとする。覇王色は無くとも己から発する気くらいは固められるか
「伊達に百獣海賊団員ではないか」
「四皇と過ごすというのはこういう事です」
四皇以下と俺を見るか。バカにしてはない、立場を示した。これは、ビジネス
「王下七武海くらいは簡単か?」
茶化してやれば降参と笑みをこぼす
ゆったりとしかし重く進む会話は、とろみがある砂時計のようだ。サラサラと落ちるのにどこか滑らかに落ちる。落ちた音さえせずに山を織りなす。
「四皇様が癇癪おこさねぇようにスマイルの質でもあげておくか」
「企業努力。感謝します」
楽しそうに笑いやがる。立ち上がるのタイミングを静かに揃える。
「なにも、蜻蛉返りしなくてもいいだろ」
「長居は無用です。ドレスローザは心地がいい」
下を見ればなんて事ない顔。笑みが深まる
地下の港に案内して、出港準備をさせる。荷物は確認済みだ。船に乗るために桟橋を上る。目線がはじめて俺と同じになる
「お見送りとは、光栄です」
「気まぐれだ」
その時知る、桜の澄んだ甘い香り
「長期的なご利用を願っております。ジョーカー」
境界線だ。橋と端。
「ああ、また今度だ」
革手袋を直した左腕が上る。少し重そうな気配。
これで最後かもしれないとお互いわかっているからこれ以上何も言わない。会えた時は会えた時だ。それが船乗りの宿命
挨拶はあげない。両手はポケットの中。船に帰る姿を見て出港のため開港させる
甲板から覗く瞳を見つめる。ナポリ色は海の色だ。空になった砂時計はいつひっくり返そうか