朝から雨が降っていて、窓越しで曇天を眺める
賑やかな街も今日は静かだ。まるで世界が終わりを迎えたよう
今日はなかなか仕事を進める気にならない。トレードマークのコートもコート掛けでお休み中だ。他の幹部たちの声もしないから、きっとみんなも同じようなことを思っているだろう
そこに聞こえてくる軽い足音。見聞を使わなくてもわかる。ノックをしてくるからそれに返事をする用意を口の中でする
「入っていいぞ」
ノックが3回。デスクにあげた脚も組んだ指もそのままの姿勢で答える。ドアから入ってきたのは思っていた彼女。
「若」
ふふと嬉しそうな顔をする。いつものことだ。曇天の中、動き回っている彼女は天気による気分など関係はないだろうか
彼女と会ったのは割と昔で、でも最近だった。スパイダーマイルズを出る少し前。ベビーがブキブキの実を食べ、少し慣れてきた頃。勝手に集まってきて兵隊が増えてきた中に居た。といってもあまり記憶がないから覚えてない。バッファローがそう言っていた。悪魔の実を食べているからか力がなさそうに見えて殺傷能力は高そうだ
「以上です」
ディアマンテのコロシアム報告書からベビーの城管理の報告まで、全てを把握して渡してくれる。モネの下に配属されていたからか、手際がいい。今はグラディウスだったか。
時間と約束に煩い奴が爆発せずに会話をしているところを見たことがある気がする。
「なにか?」
首を傾げてオレを見る。下っ端が着る服はなんかアンバランスに見える。背中に背負う刀だけは血の香りがする
欲しいと言った首を取れるまで帰ってこない。そうトレーボルが呟いていた。それから1ヶ月と2週間のどこかで血を染み込ませた麻袋を嬉しそうに持ち帰ったと言っていたのも覚えている。
女のくせに右頬と鎖骨下まで縫った後がデカデカと目立つ傷を負って帰ってきた。その時、初めて認知してそれからずっと覚えている
「オレが欲しいって言ったら、取ってくるか」
「誰かの首ですか?」
主語がなくても勝手に拾ってくれる。楽だ
「首か。欲しいものはたくさんいるが、それじゃあ。味気ないな」
オレの呟きに首を傾げる。報告書を挟んでいたバインダーを腰に添える
「欲しいものがあるんですか?」
子供に聞くようなことを言う。
やってることもやることも残酷なのに、瞳だけはキラキラしてて朝陽を浴びる黒曜石に似ていた。
「ああ、あるぜ」
「ひと繋ぎの大秘宝とか?」
面白いことを言う。取って来れんのか
「フッフッフ。それもいい。オレは世界が欲しい」
どう出るかとサングラス下で見る。間も置かずに
「とっくに得ているかと思ってました」
なんて驚きながら言うもんだから、笑いが溢れる
「国の主で、七武海。富も名声も力もお持ちなのに。まだ、欲しいんですか?」
まだとは。首を少し動かす
「程々が一番いいですよ」
海賊のくせに海賊らしからぬことを言う
「程々だと」
「溢れすぎると価値が下がりますから」
黒曜石が落ち着く。相変わらず微笑むその姿に靄がかかる
「若は、付加価値の大きさを知っているはずです」
「付加価値だと」
「海楼石の銃を持っていたとして。それを餓鬼が持っているのと、若が持っているのだと脅威が全くと違う」
ふふと笑う。
「若はもう、他人の世界を指一本で壊すことができるでしょう」
楽しそうに笑うから、少し呆気に取られる。なるほど、モネが部署替えで指名してきたわけだ
「お前の付加価値はあるのか」
オレの問いを受け、黒曜石がキラリと光る
少し考えてるようにして、思いついたのか笑う
「今です」
首を傾げる。口を緩ませる、愛おしそうに
「今、ここで。若と会話を許されることが私の付加価値です」
若は私のようなものに雑談などしなかったでしょ。なるほど、オレ有きの価値か
「この関係に名でも付けるか」
笑って答えてやれば、首を振る
「名はつけないでください。付けてしまうと過去になる」
進行形で。欲張りな奴。
用は済んだと一礼して出ていく。グラスを傾けたら空だったからデスクに戻して窓を見る。
雨はいつの間にか上がり窓に、雨の跡が残っていた。