日記帳を破る

なぜか昨日は眠れなかった。やけに目が覚めてしまって本を読む気にもなれず、酒も欲してなかった。昼夜逆転というわけでもなく、ただ朝の心地の良い風が窓から吹いてきて肌触りのいいシーツに身を委ねてしまいたかった。
「若様?おはよう」
ノックもせずに扉も開かずに入ってこれたのは、壁に設置されたペットドアのおかげ
丸顔に丸い眉麻呂、丸い尻尾。ハアハアと舌で体温調節してやがる。笑ってるように見える柴犬特有のあほズラをオレの顔面に晒す。
朝の挨拶もほどほどにオレの返事も待たず、腕を組んで頭の後ろに置いて枕にもたれてる胴体の隙間に体を埋めてくる。オレで暖を取ってるな
猟犬としての犬であるからオレの欲しい首を取ってくるのがうまい。でも、本人があまりやる気ないから戦闘能力も殺傷能力も、覚醒さえしてない。オレの体の横でグースカ寝ている犬。片腕をといて尻尾を撫でる。ぷるりと左右に揺れる。全く、メスのくせに飼い主に肩を向けるなんて。ため息をつきたくなるが、抗えないらしい。好きなやつにする犬の好意行動。かわいいやつ
気持ちよさそうにちょっと伸びてる。体力だけはあるからほぼ一日中犬の姿で寝てる。主にオレの部屋。毛が舞うからやめろと言っても来るんだから怒れない
「なぁんですかー」
尻尾を触られるのが嫌なのか、ゆったり人に戻る。丸い眉麻呂も耳も尻尾も消える。眠たそうに目を擦る。顔をオレの腹の上に置く。眠たそうな目と合う。頬骨から目尻にかけて親指で撫でてやる。気持ちいいのかうっとりする。オレの指を舌先で舐める。ちょっと噛む。構って欲しいのか?
腹に頭を戻してうとうとする。
「若様、暖かくていい匂い」
なんて。オレ以外の身体には乗らない。従順なやつ。髪の毛を梳かすように撫でてやればニヤニヤと嬉しそうに笑う。そのうち寝息が聞こえる。夜寝れなかった分なのか、瞼が落ちてくる。心地の良い風と柔らかなシーツ。昼寝をするのにはぴったりだ。その外も城も騒がしたくなってきて1日の始まりを告げる。仕事だとトレーボルらへんが起こしにくるまでに何時間寝れるだろうか
腹で寝ているこいつはまた、オレの邪魔してと怒られるんだろうな。その度に犬になって逃げるかオレの足と間に入り込んでくるからつい甘やかしてしまう。撫でて耳を飛行機のようにする仕草が一番可愛い。
今日くらいサボっても怒られないだろ。笑った拍子で腹が揺れて彼女の目が開く。寝ぼけた瞳のままオレの腕と横腹の隙間に体を埋める。人型として寝るのは久しぶりか。骨盤らへんに腕を回してオレの身体に近寄る。
「あったかぁい」
なんて呟いてまた寝る。そのうち体温調節のために足元に移動するだろうな。次の癖が見えてて笑っちまう。可愛い限りのペットを撫でて、一緒に二度寝をする。怒られたくないとオレに逃げ込む次の癖を想像すると愛しさの温度で入眠はすんなりできた