8日目

夕方
珍しく雨が降った。グラディウスは鬱陶しい雨雲を見ながら武器の手入れをする
銃を磨き玉をこめる。もっとも自分で鉄を爆発させた方が早いのだが、能力外での力だって必要なのだ
今日は雨。庭も静かだ。永遠に夜にいる気分になる分厚い雲を窓越しで見ていると桃色の見慣れた姿が映る
「若」
椅子から立ち上がる。ドフラミンゴは片手で制する
「武器磨きか」
癖のある笑い方をする
「ええ。いかなる時も使えるように」
「さすがだ」
ドフラミンゴの褒めにグラディウスは軽い羽が生えたように思えた
その時、ドフラミンゴの顔が少し動く。何かに気づいた様な表情に首を傾げ後ろを向く
曇りの世界に白い光りが浮いてるように見える
先日ドフラミンゴが連れてきた、よくわからない奴。それがグラディウスの認識だった
異世界人という嘘か本当かわからない存在だが、その容姿。宝石の瞳に白い髪、白い睫毛、白い眉。本当だと思わざる負えない姿
警戒心が誰よりも高いグラディウスは、モネの後任であることに少しーーというよりもかなり不満を持っていた。いつドフラミンゴを裏切るか、嘘をついているのではないか、悪魔の実だって攻撃能力が高いやつだ。煮え切らない思いを胸に締めドフラミンゴを見る
どこか嬉しそうな顔をするボスに何とも言えない気分になる
「今日は休みか?」
心なしいつもより瞳の鮮明度が低い
「いえ、先程まで一緒に」
ふわりと笑う。濃紺のジャケットを片手にもつ。従者の証であるシャルピーナが首元でネクタイのような形をしている
自分よりも無知であるが歳上。それもかなりの。そこがまた扱いづらい。ここ数日間の動きを見れば『良い従者』であることはわかる。
動きもいいし人当たりもいい。仕事も早ければ思考も深い。
だが、ドフラミンゴに忠誠を誰よりも深く誓い誰よりも想っている(とグラディウスは自負している)自分からすればその悪魔の能力を最大限使うべきだろうと声を張り上げたくなる
グラディウスの目線があまりにも熱かったのか、青い目線が自分に刺さる
特に用事もないので声を掛けず、目線を自分から外す。そこでふと自分に向かった目線が自分の手元に写ったことを感知した
「お前の世界にもこれくらいはあっただろう」
ドフラミンゴがその目線先の話をする
「はい。あります。形も色味も違いますが」
「お前の世界のはどんなやつだ」
「チャコールに近い黒です。形は・・四角くて重い。全て鉄で出来てます」
うーんと口を少し尖らせながら話す。思い出しても伝わらない
ドフラミンゴは興味深そうに顎に手を添え親指と人差し指で摩る
「威力が強そうだ」
「幾度か発砲しているところを見ましたが、こちらよりあちらの世界の方が強いように思えます」
少し興味が湧く話だ。グラディウスは銃をテーブルに置き腕を組む。グラディウスの前に腰掛けたドフラミンゴは脚を組み仰反る
「どんなやつがある」
「武器に関しては無知に近いです。護衛用もなかったので。発砲するだけのもの。火を吹くもの、爆弾を飛ばすもの。ベビー5の身体によくまとわりついてるあの機関銃。アレが手持ちサイズになった。と言えばわかりやすいでしょうか」
威力の強さがわかりやすい。大きいからこその威力と抹消能力。それを手のひらに。なんとも惹かれる。グラディウスは深く腰をかけ話をきく
「銃が強いか」
「まあ、飛び道具という利点と不利はこちらと変わらないかと。ただ、こちらには無いと思ったのが乱射鏡です」
聞き慣れないワードにドフラミンゴとグラディウスは首を傾げる
「我々宝石族は屈折や光の加減で生活をします。当然日常にも光を駆使する時が多々あります。それは武器も同じ。難しい内容はなく、ただ光を使った武器ということでしょうか」
「どんなことができる」
「光を駆使して玉を飛ばす。屈折を使えば飛距離や乱射に使えますし、集めれば大砲代わりに。細めればレーザーです。形を変えることなく同じ物で全てできる」
何と魅力的。グラディウスはつい欲しさに指に力が入った
「そんな、とんでもねぇ武器があったのに負けたか」
ドフラミンゴの意地悪そうな声と笑い。彼女は気にせずふっと笑う
「魔法には勝てません」
自国を滅んだ相手の強さを想像する。魔法と言うからにはきっとそれよりも強い武器があったのだとグラディウスは深く頷いた。実際には本当に魔法であることを彼は知らない
「フフフフッフフ、魔法に勝てない光か」
「光りがないところでは無意味です」
肩をため息と共に降ろす
「フフフ・・夜襲か」
ドフラミンゴの言葉に、微笑む
「夜の準備をしてなかったのか」
「月夜で動くものもあります。が、夜は魔法族のナワバリです」
魔法族という単語でグラディウスは本当に魔法なのかとマスク越しに見開く。ピクリと動いた様子に気づいた彼女がグラディウスを見つめる
「・・魔法族の武器は何だ」
自身の好奇心を悟られるのが恥ように思えたが背に腹はかえられない。ドフラミンゴは楽しそうに笑う。きっと全てお見通しだ
「杖。と言っておきます」
絵本の中だと肩を落とす。その様子を見て彼女が笑うから気になる
「杖が全てでは無いようですが、杖です。振りかざし何でも作る」
異世界ならばこちらのフィクションが現実でもおかしくないのだろう。現に目の前の彼女は人間離れしている
「負けたあと、お前の国はどうなったんだ」
ドフラミンゴが遠慮なく聞く
「まずは王族の殺害から。そのあとは捕虜というよりも獲物の国民を。殺すもの生かすものを分ける。魔法族は頭がキレる。魔法族が立派な種であるのはひとえにその力とそれを駆使する思考回路と能力。長寿の私たちは彼らにとって永遠に流れる水源。生きてようが死んでようが全て資源」
暗い色を落とす瞳。永遠の夜に感じるこの曇天を表す様なアイアンブルー。血の味だ
「死んでも価値があるか」
「魔法族には」
微笑んで返す。だが暗い
「燃える炎。響く雷と悲鳴、生きたまま目をくり抜かれる老人。死んだ身体からアク抜きをする黒い血。若い女と男は生かす。サイクルのために。好きな個体を持ち帰り、実験に用する。血を抜かれ髪を切られる。元気を取らせるためだけの日光直視。それを観察。自身の魔法に要する」
彼女の話にグラディウスは先程まで抱いていた感情を疑った。驚くくらい壮絶な過去を歩んできていた。居場所がないとドフラミンゴがたかを括り置いていた様に彼女には戻るという選択を自分から選ぶことはあり得ないのだ
「そりゃあ、随分な話だ。それで、お前はどうした」
「魔法族はあなた方と同じ様な月日を生きています。そうなると私たちと大きく欲の順位が違いスピードも違う」
笑みが消える。下を向く。白い睫毛が揺れる
思い出すかのように目を瞑り、寝言のように話す
「体を弄ぶのはふたつの意味で。欲の違いに彼らは満足しなかった。昂る彼らと全く動かない私たち。恐怖や嫌悪とは違う、感じ方の問題。それがわかればもう一つの方で遊ぶしかない。血を抜かれ年老いた実験体から目を使う。生きることに諦めがついたのは捕まってからより国が滅んでる途中から。
瞳に光りが宿らなくなってきた私たちに奴らは不満をこぼす。暴力は優越感を持たせる」
彼女の最後の言葉にドフラミンゴはニヤリと笑う。自分の信念はそこにあると
「使い物にならなくなってきたとき。血を抜かれすぎて頭はまわない。あまりの空腹感に耳も機能しない。視界が定まらない。自分の価値を証明できない。ならば、その価値を壊すしかない」
目線を上げるドフラミンゴを見つめる、インディゴブルーは少し揺れてる
「整う。は私の仕事。ならば汚すは180度の位置。よくわからない鍋をひっくり返し、机の上のものを床に叩きつける。杖の先で自由をなくされるならいっそのこと死んでやると部屋を壊しました
杖を振りかざす時、片目を失った老人が飛びかかって私に告げる『欲は薄く、だが忠実に』と振り返らず助け出さず杖の先が届かないように走りました。
裸足の足には木屑が刺さり岩で切れる。貧血で視界も定まらないのに身体は動きました」
「逃げた先がここか」
ドフラミンゴの言葉に笑う
「視界が悪く何もわからないまま進み、そこが崖で下が海と分かった時と後ろからの杖。複数の呪文、重なる雷。ぶつけられた私はそのまま海に落ちました」
プルシャンブルーが揺れる。白い睫毛が濡れているように思える。白い前髪はそのまま
この世界に来た経緯をグラディウスは最後まで聴き、それでもなお。己の価値を証明することに努める彼女に抱擁感を抱いた。
ドフラミンゴは口の端を下げ難しい顔をしていた
「そうか・・」
なにか思い込んでいる姿にグラディウスは何も言わなかった
「・・・片目の老人はきっともう居ない」
彼女の冷たい声が届く
「お前の支えか」
今もこの地で、この異界の地で立ち、動き、生きる。それの糧はもう居ない
ドフラミンゴの言葉に悲しく笑う。寂しい色をした瞳は儚く美しかった
「・・紫です」
その単語にドフラミンゴは片眉をぴくりと動かした
「最後の王族か」
グラディウスには知らない知識だったが、重要なのは分かっていた
「本来はこちらが護り癒し支えるはずが、最後は守られた。その意味を間違えることは許されません」
悲しくだが、強く笑う。従う者とはよくいっあものだ
ドフラミンゴは下げていた口角を最大限にあげ
「その意味をお前はどう使う」
ドフラミンゴの問いに彼女は少し考え笑った
「私の価値を証明し続けることです。あなたの元で」
その答えにドフラミンゴは高笑いを起こす
「フッフッフッ・・フフフフッフフ!!」
ドフラミンゴの笑いにグラディウスは心が昂まる
「よし」
淡白な声がする
「結べましたか?」
楽しそうに聞く
「ああ・・・・信用だ」
嬉しそうに呟くドフラミンゴを見つめる瞳は王族のロイヤルブルー
お互いに向かい合って笑っているのに、膝をつきこうべを垂れるように見える彼女の姿に感動を覚え身体が震えた
永遠の夜の中、光を宿すその瞳に。ドフラミンゴは微笑んだ