昼
ドフラミンゴはジョーカーとしての仕事で久しぶり。いや、初めて失敗をした。
賭けに負けたのだ
戦争をする国に武器を売買する業務で、自分が渡している国がまさかの敗北寸前。それに伴い『ジョーカーがいるから』という大きな理由で賭け金を譲渡してくれたお得意様たちからの苦情が少し沸いた
今回の原因は、武器の不足ではなく。革命軍という大きな手札を向こうが出してきたことだ。国によっては国民の考えも違うというように、国同士が長いこと戦争をしていると、お互いに嫌うか。一周回って興味がなくなるか。だ。
今回の場合、革命軍という切り札のせいでこっちの国と向こうの国が戦争をやめない上の奴らを抑えてしまい。そして国民同士で仲直りするというまさかの展開。
ドフラミンゴも今回ばかりは頭を悩ませる。青筋が消えないがそれをムキに出すのは得策じゃない。今お得意様を無くすわけにはいかないのだ
鳴り止まない電伝虫たち。モネやジョーラなど比較的対応できるものに任せ、ドフラミンゴはそれらを束ねる中央となった。
「んねー!んねー!ドフィ、どーすんだぁ」
悪事には意外にいい案と思考を持っているトレーボルが近寄る
「フッフッフッ・・全くだ。革命軍だと・・っ!」
鳴り止まない電伝虫たちが己を責める。
人の形を真似るカタツムリたちが叫び、ジョーカーとしての仕事場はカオスとなっていた
夜
夕飯はみんなで。をルールにしているため。どんなに機嫌が悪くても、どんなに気分が悪くても(風邪以外)夕飯はみんなでだ。
実のところドフラミンゴは朝から機嫌というより何か不安が渦巻いてて嫌な予感はしていた。
朝から頭がのんびりしておりコーヒーで火傷をしたし、書類は文鎮を置き忘れて風で散らばった。ため息をつきながら拾う時に自分のファーを少し踏み後ろにつまづいた。イラっとした時にモネのお使いとばかりにシュガーが執務室を開けてきて、昼の怒涛の電伝虫コールだ。
嫌な予感は当たるものだ。頭が重い、肩も重い。
「ワインはいかがされますか?」
白い髪がゆれる。そういえば、モネがこちらにいたが彼女はこっちに居なかったと思い出す。正確には居たのだが。モナの指示の元、書類整理などに追われていたので視界に入らなかったのだ。バタバタとしていたのにも関わらずディナー隊に合流するのを見て、タフな奴だと思う
「ああ」
たった二言。だが、ドフラミンゴの機嫌が低いことを知っている彼女は少し身構える。覇気が漏れているのかもしれない。
従業員たちは国民であり海賊などではない。覇気には耐えられないし、血が苦手やつもいる
覇王色が漏れ出さないよう慎重になるが、それさえもストレスでもっと漏れそうになる
いつも通り彼女はワインを注ぐ。その様子を見て覇気が漏れていないことを確認。少し息を出す
大好きなロブスターもあまり喉を通さない。とにかく疲れたし終わってない。あまりのむかつきに自ら出向いて国を吹っ飛ばしてやろうかとさえ思う
モネもジョーラ、ベビー5もどこか疲れた様子だ。俺に代わって鳴り響く電伝虫の対応をしてくれていた。優秀な部下たちで鼻が高い
ワインを飲みひと息。鼻から抜けるワインは相変わらずいつも通りの好みの味だ。
深夜
どこかの住宅の壁に、10歳くらいの子供が吊るされている。
下からは炎と槍の嵐。一筋の矢が子供を貫く。
殺せと、殺すな苦しめろと大人の雄叫びが響く。身体の自由は聞かない。子供の泣き叫ぶ様子が見えるが、ここからは声が一切聞こえない。その代わり大人の罵声が聞こえる
誰も助けてくれない。子供が叫んでいるのに。
吊るされた子供はいつのまにか走っていた。その後ろからは大きな槍を構えて先端をこちらに向け追いかけてくる大人。剣が大きく振りかぶる。子供は走る。汗と涙で顔はグジュグジュになってて、身体中血の赤と打撲の紫。痛いと言っているのに。やめてと言っているのに。なんでと聞いているのに。誰も答えない。子供を殺せと叫ぶ大人たち。やめろ!と叫んだ
息を呑むように起き上がり、視界が定まらない。ここを認識するのに時間がかかる。だが、身体中の冷や汗は止まらない。起きているのに子供の声が反響する。言葉と武器で攻められる
もう見てないはずなのに、ふっと目を手で覆い瞑った時。人の大きな、異様に大きな手がこちらの頭を叩き潰そうとする映像が見えた
咄嗟の払いで何か割れた音がして手を退かす。
自分の糸で切ってしまったテーブル、その上にあったワインが落ちて割れ。赤い液体が溢れているのが匂いで分かった。綺麗な5本線が壁まで続いている。建物を壊さなくて良かったとどこか冷静な脳が言う。肩で息をする
両手で顔を覆い息を深く、深く、深く。深呼吸は何度しても自分のことを慰めてくれない。落ち着けと繰り返すたび、焦り、呼吸が荒くなる
ドアが三回叩かれる。
ハッとしてドアを見る。また間を開けてノック音。扉を開ける気はしなかった。ドフラミンゴは見聞色を駆使しようとして、今部屋中に覇王色を撒き散らしていることに気づいた。
またノック音。
扉の向こうで首を傾げるのを察知。だが、ここから動く気にはなれない。なんとなくサングラスをかける。そのとき、少し溶け出した鉄の匂い
ガチャリと扉が開いた。白い髪が揺れる
「失礼します」
了承も得ず入ってくるのは珍しい。だが、賢明だったかもしれない。ドフラミンゴは返事ができない
「若様・・白湯です」
ドフラミンゴを呼び、部屋を見る。傷ついた壁と床、キレイに切れたテーブルとワインボトルとグラス。確認だけしてドフラミンゴにカップを渡す
もう夜更けだ。ミッドナイトブルーとネイビーブルー。白い睫毛が震えた
ドフラミンゴは肩で息をしながらカップを受け取る。ガバっと飲もうとしたが白湯で少し慎重になる。それでも、勢いつけて飲もうとした時、ふわりと手が触れる
「水、3口です」
変わらない口調で諭す。ドフラミンゴはイラつきもせず、ただ口に含み、飲む。含む、飲む、含む、飲んだ。少し深呼吸する。息が整いつつある。
ベットの横を見る。薄青のノースリーブのワンピース。グレーのカーディガン
「落ち着きました?」
塩が効いているのかわからないが、落ち着いた。頷かなかったが読み取れたのか彼女が笑う。意思の疎通が便利で助かる
「シャワーを?」
「いや、いい」
クリアになってきた視界で宝石を捉える
「なぜここへ?」
彼女の部屋は従者の建物だ。ここじゃない
「息詰まっているように見えたので」
ディナーのとき、ため息だけで状況を判断したのか。あの時、モネから彼女がまとめた書類と渡されたからあの場にいたのがわかった。
主人の顔色を読むだけではない。がそれだけの大きなことを彼女はすんなりとできる
「大丈夫ですか?」
暗い宝石が揺れる
ドフラミンゴは声を出さなかった。イラついてあったいけと言う気もなかった。ただ、いることに安堵した
「おかわりを」
そういってカップを受け取り戻ろうとした体を糸が引いた
ぴたりと止まり、不思議思った彼女がこちらを向く。ベットサイドの窓からはキレイな月の青い光が溢れていた
ドフラミンゴは何も言わなかったが、彼女は身体を戻しそばに綺麗に立つ。ドフラミンゴの行動にも何も言わずにそこに立つ。青白い光を白い髪が掬い上げる。瞳は相変わらずネイビー
お互い何も話さない。だが、気まずい雰囲気はない
彼女か動く。ドフラミンゴのベットを遠回し窓に手をかける。何を言わずに窓を開ける。
夏島特有の風が吹く。ベットの上で軽くあぐらをかく。膝に肘をつき手をひらで額を少し覆い汗を拭う。もうほぼ乾いている
夜のカラッとした風が吹く。ベットのシーツが少し動く。月明かりが全面的に広がり白いベットに薄青に染める。彼女のワンピースと同じだ
窓を開けて先ほどとは反対のベットサイドに立つ。姿勢は綺麗だ。ふと、彼女をサングラス越しで見る。濃い紫のサングラスからは目の動きなどわからない。
不思議な顔をせず嫌な顔もせず心配が少し配合されたような笑みを浮かべる。どこかでその笑みを知っている
「・・・」
夢のせいか、遠い記憶からその顔をしている女性がチラリと脳裏にうつる。そっちの顔の方がなんだか泣けてくるくらいの安心感を得るが目の前の顔もまたなにか込み上げてくるものがあった
「・・嫌な夢を、みた」
不意に言葉が口から漏れる。
「左様ですか」
柔らかい口調で返してくる。度合いを測っている
お互い姿勢は変えない。彼女も同じ夢を見るのだろうか
「・・嫌な夢を見ることはあるか」
「あります」
「どんな」
思い出させるようなことじゃない。そう思ったが
「滅んだ時です」
彼女の返答の方が早かった。彼女からの空気は重くない
「詳しく細かく言えば、逃げている時。助けを求める宝石の眼を捨てて走っている時の風景。仕えていた紫の瞳が壊れた時。まだ幼い・・姫が泣きながら連れ去られるところ。親の死体を搬入される時にチラリと見えた時」
苦しそうな声に変わる
瞳は相変わらず暗い。月夜を集めることをしなかった。ずっとただドフラミンゴを見つめる
「・・俺は、自分が天国から地獄に落とされ。大人どもに壁に吊るされ矢で刺され炎に焼かれた時だ」
ドフラミンゴの重い言葉に彼女は何も言わない。無言が響く。彼女を見れば考えている顔
「かわいそうと思ったか」
自虐的に呟き口が笑う
「思います」
ツンと張った声
「主人が辛い目にあったのなら、こちらも辛くなります」
庇われることが、情けを見られたことが、嫌にならないのは初めてだ。
気を引かず、前を見て、辛いと。あなたが辛いなら私も辛いと。素直に告げる
「夢は、脳の処理とも言われてます」
風が吹き、薄青のワンピースが揺れた
「記憶を深く処理できてないことを脳裏に浮かべ、改めて認識させることで処理とする。トラウマとは少し違いますが、近しいことやものに反応するのは脳からの拒絶反応が大きいと。
嫌な夢は、自分が忘れたくない。怖かったこと。怖いけど忘れたくない。だから脳に蘇る。完璧に処理させようと」
ネイビーの瞳が揺れる。白い睫毛も暗いとただの黒だ。青白い光を背に背負っているとまるでただの人だ
「お疲れですね」
ふわりと笑う。少し月を見る。横顔が月夜にあたり瞳が少し光を得る
「お疲れなのです。そういう時です」
柔らかく笑う頬に、額の指先を移動させる。触れる前に距離が少し遠くてとまる。彼女は微笑んだままだ
欲は薄く、考えは深く
「必要ならばそうします。ですが、いま若様に必要なのは休息です」
慈愛の瞳はサファイア。
「・・・疲れた」
のか?と自分に自答しそうになったのに、答えが口から出た
「疲れたんだ」
一回出て仕舞えば、怖いものはなかった。ただ、その認めるということがなぜか心地いい。ドレスローザの風と同じだ
「はい。お休みしましょう」
少し下がった腕を柔らかく掴み手のひらを上に向かせ、親指と小指に差し込むように両手で掴む。
「疲れる。は人において大事な行動制限です。無理をすると壊れます」
手のひらを柔らかい親指2本が揉む。
「寝ない動物はいません。魚も寝ながら泳いでいます」
面白いことを言う。ふっと笑うと彼女は顔を少しあけた。目が合う
「ほんとうですよ。私の世界ではですが」
ちなみに、私の世界にいる鳥で飛びながら寝るのがいます。なんて嘘みたいな話をする
柔らかい雰囲気をドレスローザの風がなでる
「ひとつ、結びだ」
マッサージを少しやめ、反対の手を促す彼女にいう
パチクリとサファイアの瞳を白い睫毛が覆う
「結べたでしょうか?」
「ああ、十分だ」
反対の手を渡す。同じようなマッサージをする
無言で揉む。なすがままになる。だが心地よかった
「整った」
ドフラミンゴの言葉にマッサージの手が止まる。そっと離れる離す
「よかったです」
記憶の奥にしまっていた同じ笑みをしたサファイアをみて、ドフラミンゴは同じような微笑みを返した