カモミールに似た紋白蝶


*現パロ

寝室に入ると、目に入ったのは彼女が使うようになったドレッサー。そこに綺麗に立ててある黒塗りのリップケースが目に入る。
手に取ってみると黒塗りのケースは切り返し部分がゴールドになっていて、キュポッと開けてみればあまり使われてないような綺麗さで真っ赤な紅がそのまま残っていた。
「ミホークさん?」
寝室前で掃除をしていたのか、掃除機を持った彼女が立っていた。綺麗な紅があるのに今の彼女はすっぴんでアディダスのジャージを履いてスウェットを着込んでる。あれは俺のスウェットだ。いつからか彼女の冬用の部屋着になった。入籍して3年も立てばお互いそのくらい気にはならない。彼女は掃除機を壁に立てかけて俺に近寄る。手元の口紅を見つめて、あー、と懐かしむような声を出す。
「それね、ペローナちゃんにもらったの。誕生日だったかな?入籍祝いだったかな?忘れちゃったけど、いいブランドのやつだよ」
DIORだったかな。首を傾げながら呟く。俺の手元からソレを奪ってクルクルと回して中身を出す。やはり減ってなくて、ほぼ既存のままだ。
「お主にしては、珍しい色味だ」
真っ赤なのをつけてるイメージがないのでそのまま伝えれば、そうでしょと笑う。
「いい女になりそうだよねって、ペローナちゃんと買い物中なんとなく呟いたら買ってくれたの。つけてみたけど、やっぱり浮いちゃってて。赤は使い方が難しいから」
照れたように話す。そうなのか。色の使いというのが男の俺にはよくわからない。じっと紅を見つめていれば、俺の視線に気づいたのかくすりと笑って
「ネクタイを選ぶ感覚と同じかな。色味を拾うでしょ?」
なるほど。それならなんとなくわかる。おしゃれに気を使う方ではないが、身嗜みなら別だ。
「これね、使いたいけど。勿体無くて」
紅を出したりしまったりして細い指が動く。真っ赤な紅に反して黒塗りのケースと白い指が、なにかの広告のように見える。
「使う場所もないしね。会社にはちょっと、つけて行きにくいから」
彼女の友人であるペローナは毎度違う服を着込んでメイクもしているのを覚えてる。有名なアパレルブランドで働いてると彼女から聞いたことがある。困ったように話すにしては、惚れ惚れとした瞳で紅を眺める。下の方にはブランド名が彫刻されていた。なるほど、それは使いにくいのかもしれない。
「そろそろ、秋だから。服やメイクも衣替えしてもいいかもね」
彼女自身もおしゃれというよりも、身嗜みには興味があるような人で。俺のスーツ姿をいつまでも素敵と誉めてくれる。自慢の夫なんだと会社で話していると自分で話してくれた。
「ふむ。ならば、今から買いに行こう」
俺の提案に驚いた顔をする。夜遅くまでの仕事であまり構ってやれてない。
「お主にぴったりな口紅を買いに行こう。そういえば、カーディガンを新調したいと言っていたな。それも買おう」
「いやいや、いいよ。自分で買うし、でも、デートは嬉しい。準備するね?」
謙虚な姿勢の彼女に笑みが溢れる。セットしてない滑らかな髪の毛を撫でる。いつも俺のためにと好きな夕飯やおつまみを買ってくれる気の利いた素晴らしい嫁だ。久しぶりに彼女のために貢がせてくれと伝えれば顔を赤くするもんだから、いつまで立っても彼女への愛おしいさが尽きない。目があって微笑み合えば嬉しそうに抱きついてくる。
「ふふ。ミホークさん。今日も大好き」
このままベットで過ごしてもいいかもしれないと甘い誘惑をグッと堪えて、頭を撫でてやる。上目遣いに膝が揺れながら彼女に似合う色を、色を知らない俺の脳で探し始めた。



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