揺らめく砂糖水を瓶に詰める


パチリと音を重ねながら1000ピースのパズルをはめていく。潜水が続く航海中、ベポと立ち寄った島で完成図が綺麗なパズルを見つけた。暇だからやろうと声をかけるとベポはワクワクしながら首を縦に振ってくれた。完成したら私の部屋に飾るか寂しいこの食堂に飾るつもりだ。
海上中は敵船に会うしペボも航海士の仕事をしに行ってしまうからなかなかできずにいた。やっとできたのは2日前。それでも、なかなか時間が合わなくて全く進んでない。選んだ絵柄は深い海の中に白いイルカのようなものが地上の光に向かって泳いでるやつ。白いイルカに魅せられてたらベポも興味を示してくれた。同じような青が続くこのパズルは割と難解で。特に会話もなくパチリパチリと小さな音を響かせながら進めていく。あれ、この青。同じと思ったけどな。
何度も重ねては違ってて、なんとなく隙間に入らなくてと繰り返してたらペボがいつのまにか休憩してる。うーんと、悩ませる眉間の皺が可愛くてつい、ふふと笑ってしまう。笑った時、ベポと目があったのに、ベポは私に何か言う前に私の奥を見つめてちょっと瞳が明るい。さては、キャプテンだな。
「なんだ、パズルか」
トレードマークの帽子と鬼哭をもったキャプテンが後ろに立つ。眉間の皺が濃いけど、それはいつも通り。ドカリと私の隣に腰掛けて長い脚を組む。ふーんと呟きながらパズルピースをひとつ手に取るとパチリとはめていく。一緒にやってくれるみたいだ。
「キャプテンがいたら、すぐできちゃうね!」
ベポの可愛らしい言葉に笑って返す。横目でみたキャプテンは全く気にしてなくて、黙々とパズルを探してる。肩にかけてた鬼哭も私とは逆のテーブルに立てかけて頬杖突きながら本気モード。集中力が高い彼なら、1日でできそうだな。3人もいるのに誰も喋らなくて、パズルの厚紙が擦れたり台紙に置かれる音が響く。ふと、白い手が見えないと思って顔を上げれば、船を漕ぐシロクマ。
「ベポ。ベポ」
声をかけてあげれば、とろんとした瞳で私を見る。かわいいなぁ、もう。付き合ってくれてありがとう。また、今度続きしよう。そう声をかければ、あまり開いてない口で、うんうんと呟きそのまま壁と一体化してるベンチに横になる。そこで寝るの?落ちちゃうよ。つい溢れる笑みを向けていれば、隣でパズルの音が少しやんだ。目線を隣に動かせばいつのまにか帽子は脱いでて真剣モードのキャプテン。鋭い瞳がパズルの台紙を見つめてる。声をかけても意味ないな。ベポには悪いけど、キャプテンの気が済むまで完成させちゃおう。2人になったのにまだ誰の声をしなくて、パズルを漁る音だけして台紙に落とす音がとうとう鳴らなくなった。
「キャプテン」
なんだと姿勢は崩さず目だけで反応される。頬についてた指先をこみかみに移動して肘をつく。
「疲れない?そうだ、アレ。一緒に食べよ」
席を立って、戸棚から隠してたお菓子を取り出す。ついでにキャプテンのコーヒーも。テーブルにセットしたのは砂糖菓子。なんだこれはと見つめてくる。
「この前、島で買ったの。キュベルドンって名前のお菓子。賞味期限が短いから早めに食べないといけないんだけど、美味しいよ」
三角の形をした砂糖菓子。中はシロップが入ってると伝えると口先を少し尖らせる。
「甘えのはいい」
だと思った。予想してたから軽く笑う。なんだとコーヒーを啜りながら見つめてくるから、隣に座り口に放り込んだ。うん、甘い。疲れてるからちょうどいい。
「モノは試しだよ。これね、薬剤師さんが誤って放置した喉のシロップが由来なんだって。ね、興味湧くでしょ?」
「わかねぇよ。薬を放置するなんて、医者失格だな」
「薬剤師さんね」
「どっちでも、変わんねえだろ」
うーん、食べてみたらいいのに。そう思うけど無理強いしたいわけじゃないから私だけ一つ味わって一緒にパズルを進める。なかなか終わらない青のパズル。テーブルに散らばるそれを眺めてるけだ、全部同じに見えてきた。脅威の集中力を誇るキャプテンは細い物騒な指先でパズルをパチリとはめていく。隣同士で無言でパズルを作っていく。しばらく無言でいれば、残りの青が半分になってきた。さすがキャプテン。頑張って続けてたけど、自分の腕は止まってきて。なんならちょっと眠たい。ペボが気持ちよさそうに寝ているのを頬杖突きながら眺める。左指先でパズルピースを摘んで、トントンとテーブルを角で叩く。あくびが出そう。ピースを左指先から離してキャベルドンを一つ。今度は黄色のやつ。摘んで目線に持ってきてなんとなく眺める。口に入れる時にキャプテンの視線を感じたのと同時にキャプテンの細くて物騒な指先が私の口に向かってくるから、ちょっと慌てる。なんですかと口に入れたタイミングが微妙にズレて一筋にも満たないシロップが唇に出る。キャプテンの褐色のいい指先が私の唇を滑ってシロップを拭う。若干の蛍光灯を反射させてる指先がキャプテンの口に消えていった。あっけに取られてる私に、よくわかんねえけど、甘えって呟くから。いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけど、そうじゃなくて。固まってる私に目線だけ寄越して、またパズルに集中する。なんと切り出していいのかわからなくて、誤魔化すように口の中のキャベルドンを飲み込んでパズルに集中することにした。



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