ベールを下げたピンクネイル


西の海はドレスローザに比べて乾燥気味である。
夏島であったドレスローザは爽やかな夏風が吹いていたが、花ノ国ではやや乾燥っぽい風が吹く。
新聞で麦わらが去った後、若様たちは海底監獄に幽閉されたと知った。自分だけがのうのうと生き残り、こうして結婚までするなどあっていいのか。今日が晴れの日であるというのに、心の折り合いが全くついてない。愛する旦那様はそのことを知ってか、あまりドレスローザのことを口にはしないが気になっているのは伝わってくる。ほんと優しいんだから。
あれからまだそんなに経ってはないが、人の見方が変わってきた。彼に平手打ちをされてから、人に必要とされるという意味合いが深く考えられるようなった。というのも、彼の平手打ちも含め、花ノ国の国民が彼に対して信頼を置いているのが何となく伝わってくるのだ。言葉にしてないものの、彼が話さないことを頷き彼が見てないことを見ているのだ。そして、私はそのみんなの動き方に見覚えがあった。今、あのピンクのネクタイをつけた従者はどこで何をしているのだろうか。
「支度はお済みですか?」
ドアの向こうで花ノ国の従者が声をかける。それに反応する従者たち。今日は晴れ舞台なのだ。私のしでかした事はきっと消えない。でも、私の中にあった不要物はこれで消える。それでいい。
彼とのお揃いである紅い裾に金刺繍の模様がつくドレスを纏い鏡の前に立つ。
「わあ、美しいです」
花ノ国の人々は私との結婚を祝ってくれて、褒めてくれる。その言葉が嘘ではないというのを肌で感じる。褒められた事はないから、顔が熱くなる。紅い花を拵えたヘッドアクセをつけてもらう。待ってる間、タバコを吸って入れば入場ですよと声をかけられる。
咥えタバコのまま彼の元に進む。彼のお父様や弟、彼を慕う全ての人が今日を祝っている。私の登場に一層声が増して心が浮く。ああ、こうやって結婚というのは喜ばれていくものだったのか。いつも若様に婚約者諸共街を吹き飛ばらせていたから知らなかった。抑えても浮き上がってくる口角を素直にあげて手を振ってくれるみんなに振替しながら彼に向かう。相変わらずの仏頂面。でも、嬉しそうなのはわかる。照れてるのよね。高砂で迎えてくれた彼の腕にしがみついた時、おめでとうと周りのみんなから祝福される。ああ、幸せであるというのこういう事なのだと、絡め取った腕の持ち主を見れば目が合って気まずそうに目を逸らされた。でも、それが悪い意味じゃないことくらい、今の私にはわかる。
「幸せね」
そう呟けば、そうやいと癖のある返事を小さくしてくれるから、攣りそうなほど口角が上がった。
その日の夜、遅くまで宴会がありドレスを脱げたのは月が上に登った時だった。従者たちが手伝ってくれてお風呂に入り寝巻きに着替える。従者たちが去る前、1人が届きものであると荷物を渡してくれた。受け取るが宛名がない。宛名のないのになぜ私とわかったのか。
「直接渡されました。ベビー5様にと。見ればわかるとのことで」
少し焦り気味の彼女に首を傾げながら荷物を見れば見慣れた羽が一つ。なるほど
「ありがと」
「はい、おやすみなさいませ」
一礼してドアが閉まる。見慣れた羽。若様の郵便鳥。ドレスローザで空撃をしていたがいつのまにか居なくなってた。きっと鳥籠が消えた辺りから。中を開けてみれば、私の愛用のタバコとシルバーリング。中央にはピンクの石が一つ。見たことある、彼女のネクタイピンだ。それでも、その石よりは濃いピンクで。どちらかといえば赤く見える。人差し指に嵌めたけど違うのか上手く進まなくて、全ての指に通した時綺麗にハマったのは右手の薬指。光に翳せばやはり赤色だった。
箱を見れば1通の手紙。
「欲しいものがあれば、ここまで」
電話番号が書かれたメモ。郵便鳥という会社のようなロゴのハンコが押してあるから企業したのか。もう一つの手紙はきちんとした手紙で封筒を開けてみる
「あの時の約束は無くなったけど、貴女が幸せなら従者冥利に尽きます。
自由を手に入れた貴女はきっと美しい。
お幸せ」
見たことある文字、そうか、生きていたのか。鳥と同じところにいるのかそうじゃないのか。全くわからない。自由を怖がっていたあの子はどこにいくんだろう。ふと、いつの日か彼女とした。というよりも、彼女から一方的にしてきた約束を思い出す。あの裏庭の、タバコを吸い合った日。
優しい彼女の筆跡は文字までも優しくて、手紙にしては短い文が全てを伝えてくれてて気づいたら涙が流れていた。
必要とされてない、必要とされたかった私をいつも見ていた。見てくれていた。あのドーンピンクのネクタイという首輪を誇らしげにかけていた彼女。くだらない会話をタバコを吸いながらしていた日々を。あれが幸せだったのだとわかった今、会いたくてしょうがない。
口を手で押さえるけど嗚咽は止まらなくて、涙は滝のように流れる。生きている。でも、彼女はどう生きていくんだろうか。
今すべてがわかるようになって、彼女は私にとっての友達であって姉のような存在だった。今気づいても遅いのに。
ポロポロ流れる涙、薬指の冷たいリングが赤く光る。
私も貴女の幸せを願ってる。



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