久しぶりの下船が許されて散歩から帰船すれば昨日しまったはずの刀の道具が甲板のベンチに置いてあった。船も動けば動画も勝手に動くのか。芝生を踏みながら近寄った時、あ。と短い声がして振り返れば自分よりも背丈が倍ある薙刀を両手で担いだクルーの姿。
「ごめんね、ゾロの少し借りたの」
眉山を下げて近寄る。一言くらい言えよと睨めば、ごめんねってまた謝る。
「少し研ぎが足りなくて、昨日島に降りた時探したんだけど取り扱ってるお店はないみたいで。ちょっと、その、借りたの。急いでて」
黙って開けてごめんなさい。俺より年上のくせに律儀に頭を下げてくれる。
薙刀の刃を見れば、綺麗に整えられている。急だった理由は昨日の戦闘でのことだろう。覇気でまとった黒刀でも傷が入りそうな強敵だった。さすが新世界。船長が四皇になろうが、強い奴は強い。
とりあえず片付けようとベンチ前に屈んで箱にしまっていく。トスンと隣に音が響いて横目で見れば薙刀が隣に立っていた。こいつの上半身くらいの長さの刃部分は太陽の光を浴びて先端が星のように光っている。口で刀を構える俺も俺だが、重たい獲物を使わないナミや能力者のロビンと変わらないほど細い腕でよくあんなにも大立ち回りできるな。たまに手合わせを人気のない海岸でのみしているが、その威力といえば閻魔で無ければ折れそうになるほどだ。2年の修行もあって強くなったこいつは俺よりも先に黒刀を掴んでいた。
「ごめんね。でも、ゾロくんのは使いやすくていいね。手入れ道具も手入れしているの、素直に尊敬するよ」
薙刀を杖のようにして俺の道具を見つめる。薙刀の特徴で鞘にしまう事はないからフランキーが薙刀をかけるスペースを2階に続く階段付近に作っていた。立てかけに行って俺の方に戻ってくる。
「そうか?普通だろ」
「うーん、ゾロくんってわりと几帳面だよね。大雑把な私からすると君のそういうところは尊敬に値するんだけど」
柔らかく微笑みながら話す。振り返ってみるが、俺がこいつよりも几帳面である場面が思いつかない。風呂だって毎日入ってるし、食べ終わった皿たちをシンクに運んで必ず水をかけておくし、なによりも髪とか肌の手入れとか、よくわかんねえけどそれを毎日するのだって大変だろ。
「几帳面というか、ルーティンを守るのが上手だよね」
よくわからなくて首を傾げる。胡座をかいた俺の隣に座り込んでくる。ベンチをテーブルみたいにして俺の道具箱を覗く。
「筋トレというか、鍛錬とかも欠かさないし。食べる順番だって決まってる。本気出す時は手拭いを頭に巻くし。そういった自分ルールを崩さないから、君は強いんだろうな」
自分で話して納得したのか、うんうんと頷きながら俺をみる。自分でそう思ったこともないから首を傾げる。ふふと溢れた笑い声を横目で見れば、楽しそうな顔。
「ゾロくん、名前呼ばれたら絶対返事するでしょ?遠くで呼ばれて人を探す前に、必ず返事するじゃない。それ、すっごく几帳面というか礼儀正しいと思うんだよ」
返事は無礼だけど。なんて俺が気にしてないことをスラスラ話すから、空を見つめる。というか、俺のことよく見てんな。
「なんで、そんなこと知ってるんだよ」
疑問に思ってそのまま問うてみれば、ちょっと驚いた顔して瞬きを一つ。
「返事することもルーティンのことも。俺は俺のしたいようにするし、俺が決めたからやってることだ。それが几帳面につながるのがよくわからねぇ」
俺の言葉を聞いて少し考える。うーんとか呟いて腕を組む。唇が少しとんがるのはこいつの癖。
「三日坊主ってあるでしょ?でも、君はない。それって自分の決めたとかよりもすごいことじゃない?継続するって大変だなんだよ」
「毎日やってりゃそのうち日常の一つだろ。箸持つのと同じだ。飯食う時に箸を持つ。それと同じだろ」
「でも、箸持つのは苦労しないよ。辛くもないし痛くもない、疲れないし。辛いことを進んで日常にするのがすごいんだよ」
ねー。笑って完結してくる。よくわからないが、こいつの中でなにかが収まったならそれでいいか。ため息ついて道具箱を持ち上げ立ち上がるとこいつも一緒に立ち上がる。
「2年前に比べて君はすごく強くなったよね」
続きを話すこいつを見下ろす。
「隻眼になって帰ってくるし、腹巻と手拭い以外変わってるし。覇気だって全然違う。でもね、ゾロくんの日常は変わってなくて、それを見ると安心するんだぁ」
ふふと楽しそうに手を後ろに組んで笑う。
だからお前の話は難しくてよくわからないんだよ。
「みんな変わってた。変わるのってちょっと怖いけど、でも、やっぱり同じなところを見つけると安心するじゃない。帰ってきたんだなって」
お前の不思議感覚だけは、昔から理解できなくて頭を捻ってもわからない。わからなくてもいいことをわかってからは聞き逃してる。でも、一つ、俺にもわかることがあった。
「そんなこと言ったら、俺もだ」
俺の発言に首を傾げるから、ちょっと鼻を鳴らして口角を上げた
「お前のその感覚の話は昔っから変わってねぇ。サニーに帰ってきて、お前から俺の覇気の話を聞いた時に全く理解できなかったが。確かに言われりゃ、そうだな。お前の話を聞いて俺はお前に安心したよ」
俺より20センチも低いところから見つめる瞳は薙刀の先端のように輝いてて、俺の言葉を理解した瞬間ちょっとムッとして「バカにしてる?」なわて怒ってない口調で話して、そのうちフッと自分から笑い出す。お前のそういうところ、変わってなくて俺は地に足を付けれるんだ。