どこかで汽笛の吹く音がする。
海列車が走り出す音が聞こえてきて、音の方向を見る。勇ましい音を立てながら走り去る海列車を視界の隅に入れた
「大活躍だな」
隣でサボくんが手のひらをサンバイザーが代わりにして遠くを見る。青い海の向こうには島が一つ。大きな革命をしてきた帰り道に寄ることになった島は観光島で、大変賑わっている
トレードマークのハットを飛ばされないように掴む。その下は大きな火傷跡。ラフな白シャツが彼の爽やかさを演出している
島に降りると人がたくさん居て、ガヤガヤしている。はぐれるなよと呟かれ、サボくんがねとコアラちゃんに怒られてる
束の間の休憩で、自由散策に出る。お店を見て周り適当に街並みを拝見する。コアラちゃんたちのように欲しいものも買い物する気もなかった。
人を鼓舞するというのは、自分が正常に動いている必要がある。少し心が疲れた。
「何してんだ」
声の方を見れば、お肉を食べているサボくん。
「街の観光。山を削って建物を建ててるから、家が山みたいで面白いなって」
へぇと呟きながら背にある山と化した街を見る。お肉そんな頬張って、逆に噛みにくそうだ
「買い物はいいのか」
「買いたいものはないから」
私と同じというか、ちょっと違うけど。ドラゴンさんに連れてこられたサボくん。記憶が戻って色々あったけど、彼は彼だ。それが一番安心できる。戦争孤児の私が悪魔の実の検体として生きていたところをイワさんに助けてもらった。らしい。幼すぎてきちんと覚えてないが。助けてもらった嬉しさと実験の苦しさは体に染み付いている。それを許さないと怒るには少々若すぎた。
悔しさも悲しさも知る前に終わった。
今一番それが当てはまるのは、仲間が怪我した時くらい。だから、鼓舞するのは少し苦手。内緒だけど
「でも、お昼だし。お腹すいたから何か買い行こうかな」
「ん。おれも」
さっきまで手元にあった大きなお肉はいつのまにか骨だけになっていた。
「まだ食べるの?」
「まだ足りない」
私の横を通り過ぎるから、追いかける
街にはカフェとかレストランとか屋台とかも並んでる。座って食べたいけど人が多くてやめた。昼時はどこも混んでそうだ
屋台を見てサボくんが買ったお肉を自分用に買って食べる。食べ歩きができない私は街の隅に行って立って食べる。サボくんが黙ってついてくる
「別に好きに見てていいよ?」
「いいよ。オレもゆっくり食べたい」
そうかと向き直って食べるのを進めた。食べ終わって骨を捨ててぶらぶら歩く
美味しそうなフルーツがあったからデザートに買う。サボくんも食べそうだから多めのを買う
人通りを避けて街を見渡せる場所を見つけ、そこに向かう。塀がになってる狭い角みたいなところ。塀にサボくんが腰掛ける。同じくらいの目線になった彼にフルーツを差し出す。爪楊枝を摘んで一つ刺してヒョイと口に運ぶ
塀に肘をつく。昼間の風は少し温い
「さっき何見てたんだ」
さっきとは。屋台で買い物中目に止まったものがあったが買わなかった
「べつに。かわいいなぁって」
「買えばよかったのに」
彼の目と私の目が合う。別にと続ける
「なんでだよ」
「買ったところで使わないでしょ」
私の言葉に何か思うのか黙って食べる。まったく、私の分がもうない
「まあ、まだログが溜まるまであるし。他にいいのないか見てみる」
私のそういう言葉と一緒に最後の一口が消えていった
「使わないのか」
モゴモゴしながら話す。
「使わない。かな。飛ばす相手も飛ばしてくれる人もいないし」
街を見ながら話す。ゴクンと飲み込んだサボくんは爪楊枝を容器に戻す
「そういうもんか」
「そういうもんだよ」
サボくんはご馳走様と呟いた。
##
ログが溜まった3日後。お昼にはここを発つから、最後の買い物に出る。食糧物資を積んで、ちょっとした散策にみんな出る。
買うものもないからと船番を買って出た。
みんなが楽しそうに船から降りていくのをなんとなく甲板から見下ろす。手すりに腕を置き顎を置く。あくびを一つ。暇だし、夕飯の仕込みの手伝いに行こかなと思いながら身体は動かず頬杖をつく。風が潮の匂いを運んできて、ため息をひとつ。隣に炎が舞う
「船が焼けるよ」
私の言葉を無視してサボくんは手すりにしゃがむ。シルクハットのつばをはさんでちょっと下を向くから顔が見れない。白いシャツの裾が風で靡く
「ほら」
手元には私が眺めてた便箋。薄いミントグリーンの台紙に赤や青の小さな花が刺繍したみたいに浮いてる。珍しくて目に留まったやつ。
驚きながらも受け取る。中に手紙が入っているのが手触りでわかる
「わざわざ書いてくれたの?」
少し向き合って聞けば、少し帽子を下にずらした
「渡す人がいないんだろ」
ミントグリーンの封筒には名前も何も書いてない。
「そうだけど。なんで?」
野暮だろうかと思いながら聞いてみると、少し目が合う。
「俺の遺書」
冗談か冗談じゃないのか。また目を隠されて分からずじまいだ。
「それは、私じゃなくて、麦わらくんでは?」
「じゃあ、あんたが読んでルフィに渡してくれ」
表情が読めないから分からない。それでも、あの時のことを思って買って書いてまでくれたのだと思うと少しニヤける。サボくんが私の緩んだ口に気づいて、何ニヤニヤしてんだって言ってきたけど、返事はしなかった。
「ありがと」
素直に伝えれば、少し間があってから、おう。と返事だけくれる
中身が気になるが開けるのが怖い。それでも、もらうまでの過程を思えば可愛い手紙だ。
この手紙を開けることは、一生ないだろう。