雨の匂いがして空を見上げた。
夕立でも降りそうな雲を見つけて窓を閉めた。閉め出された部屋は彼の葉巻に寄ってすぐに煙たくなった。
優雅に何も気にしてないように吸っては吐く彼をなんとなく窓の反射越しに見つめる
「なんだ」
視線に気づいた彼は苦情と紫煙を一緒に出した。特に何もないが、彼の元に歩き出し腰掛けているソファに近寄る
サイドテーブルには蓄音機が動いてて、クラシックを流している。ウイスキーの氷がカランと音を立てた。少し薄暗い部屋は灯りが一つしかついてない。寝落ちするにはちょうど良さそうな暗さ。口に咥えてた葉巻が終わったのか、銀色の灰皿に押し付けられて炭が滲み出る
蓄音機も灰皿も彼の腕も、天井からの灯りが反射してて眩しかった
1人掛けソファに深く腰掛ける彼の前にしゃがんで、その膝に腕を乗せて顎も乗せる。彼を見上げるような形でコテンと首を倒す。硬くて太い太もも少し目線を下にすれば、高そうなベルト。その下が気になる
「おい」
静かに呼ばれて視線を彼に戻す。
特にこちらから話すことはなかったので、彼の話題振りを待っていたが、彼も話すことはないようだ
窓にはコツンと雨が当たる音がしてきて、曇天が広がり、部屋がもっと暗くなる。ほどよい眠気はソレに似てる。脳がクラクラして、ちょっとお腹がキュンとする感じ
彼の香水が鼻腔に広がり、脳がもっと揺れる。肘掛けに置いてる手を見る。撫でてくれないかな
「あの鳥野郎が、心配しねぇのか」
彼から出たワードに瞬きひとつ。
「お使いにしては、随分と長いこといるが」
先程まで晴れていた空から飛んできた、飛行郵便は雨が降ったから帰るのをやめた。
私から受け取った彼は、中身を見て少しラベルを見たらグラスを取りに行きすぐ嗜んだ。それが、サイドテーブルで琥珀色を奏でてる
「若は、心配するかな」
「しらねぇよ」
ぶっきらぼうに応える。少し考えるけど、雨が本降りし始めたからどちらにせよ帰りたくない。
いくら悪魔の実だとしても、羽が濡れるのは嫌なのだ。
暗いく静かな部屋に響く音楽は、新世界。
有名なフレーズが流れる。新しい世界を見たロジャーはこんなふうにドキドキしていたのだろうか
「丁寧に花も添えてきやがって」
眉間に皺を寄せながら、テーブルに雑に置かれた花を見る。ウイスキーの木箱の中に詰めていたドライフラワー。それ、若様からじゃなくて商品の飾り
「夜になるぞ」
早く帰って欲しいそうな彼を見上げる。新しい葉巻を取り出して、先端を切る。火をつけて煙を吐いた。若様はタバコ吸わないから少し新鮮。
「止んだら帰る」
彼は嫌そうな顔をして黙る。止まなそうなことくらいお互いわかっていた。だって、濡れたくないんだもん
ベルトの金具が光を反射する。その粒を何となく見つめる。新世界は故郷を思うシーンに変わる
私はこのフレーズの方が好き
「夜になっても帰らないなんざ、悪い子だ」
「悪い子は撫でてくれない?」
悪い人なのに悪い子は嫌いなの。見上げて伝えると、少し間を置いて指輪がついてる大きな手のひらが私の頭に乗る。口の端が上がったのを見て、ゾクゾクする
「初めましてにしては、上質だな」
フッと笑う。身体を持ち上げて彼の膝にまたがる。首にかかるファーを腕で撫でて首に回す。
登るのを見つめながら、彼はまだ吸える葉巻を灰皿に押し付ける。匂いが濃くなる。甘い若様とは違う、苦い香り。継ぎ接ぎの顔を見つめる。鋭い瞳は楽しそうに揺れた
「上手にできたら、これやるよ」
鍵が3個ついてるホルダー。ひとつは嫌な気がする。ジャラと音を立ててテーブルに置かれるのと深い香りが染み付くのは同時だった。
違う香りを身につけてたら、若様嫉妬してくれるだろうか