タンゴ調に合わせて


至る所に硝煙がたつ。世界の安永のためと闇で動き裏で整えるこの仕事は別に好きでも嫌いでもない。殺しを許していると言っても過言ではないような仕事は、案外性に合っているのだ
崩れかける残骸を踏み、黒から白に変わったスーツに汚れがないかつい確認してしまう。面倒だから黒のがマシだった。裾の汚れを屈まず目線だけでチェックしていると、ふと人の気配を感じた。
「猫か」
俺の呟きに重なる瓦礫の隙間から黒猫が現れる。全く街に染まり過ぎてる。ネコネコの実。モデル黒猫であるCPの1人。所属は特になく。五老聖からの直接のお達しや調べた先の回収や諜報を依頼する側である。上司と言えばそうだが、直属でもなければ仲間とも違う。下でも上でもない関係。俺の声がけに、ミャアなんて返事するくせに返信は解かない。任務中か?それとも、簡単には姿を見せない姿勢か。見上げた諜報部員だ
「今回の依頼も、無事完了だ。他に見るものであるのか」
縦長の瞳孔が動く。特に何も言わずにこちらを見る。シャーと音を立てながら前を伏せ、尻を上げ飛びかかれるよう臨時体制をとる。首を傾げれば、ハットリが肩に戻ってきていた。猫に初めて会った時に鳥が嫌いだと言っていた気がする。猫ならば攻撃するような気もするが。攻撃する気はないと身体で伝える。猫に変身中だから感覚も研ぎ澄まされるんだろう。俺もそうだ
「依頼のモノなら相棒が取りに向かっている。そのうちそっちに届くだろ」
相変わらず俺の声がけをシカトする。警戒はやめたが俺を見つめて動かない。腹でも空いてるのか
「それとも、新しい依頼か?」
無言が続くので、片足折って近寄ってみる。少し後退りしたが、ネコネコ同士だからだろうか。俺の指先の匂いを感じとり近寄る。
昔いたサーベルタイガーの能力者を思い出す。でかいミスをしたと聞いたことがあるが、何のミスかは誰も知らないし教えてくれなかった。こいつなら知ってるのかもな
「獣人ではなく、そのものになるとは恐れ入った。アンタ、ずっとその姿なのか?疲れそうだな」
能力だって体力消費分だ。元気がなければ姿は解けるし出来ない。それをずっと変えずに猫の姿でウロつき情報を得てくる。影になじみ、街に溶け込み、人から猫から情報を集めてくる。猫にぴったりな能力だ。戦闘自体は見たことも聞いたこともない。単独主義。猫そのまんまだ
「何もないならば、こんなところに何しにきたんだ。必要なものがあるなら取ってきてやる」
指を動かすが、それ以上近寄らない。むしろ一歩下がる
「この前も海軍を経由せず、直接海賊どもを海底監獄に送り込んだそうだな。ハンニャバルが泡を吹いていたらしいぞ」
俺の言葉を聞いているのか、どうなのか。気にしてなさそうにされど自慢するように軽く鳴く。目を細めるから会話が成立している気になる。ほんとうに構って欲しかっただけか
猫はその場でしゃがみ毛繕いを始める。痒かったのか?それとも、ここは砂煙も立つから毛に入り込んだのか
あとで、シャワーにでも入ればいい。シャワーの間に紅茶とクッキーくらいは用意してやる。上司への気遣いだ。ダージリンでいいだろうか
構っていると空が明けてきて、薄いオレンジと薄い水色が混じり硝煙が朝日に照らされる。もう朝かと立ちあがろうとして動けば猫がスクッと綺麗に立つ。
「一緒に行くか?」
俺の呟きをまた無視して目線を変える。俺を見ない姿にため息をつき、今度こそ立ち上がる
ダージリンはお気に召さないか
足元を素通りしていくのをなんとなく目線で追いかける。ことごとく俺の言葉を無視するから少しため息がつまる。だが、別にそれを気にはしなかった。後ろ姿を何となく軽く見送り
「気をつけろよ」
怪我なんてしないだろうと思いながら伝え、身体の向きを直そうとしたら、瓦礫が崩れる音が小さくなった。視線を送れば黒猫。そして、その奥から人の脚。猫だ
「・・・今、誰に話しかけてたの?」
猫の足に黒猫が擦り寄る。触れようとしていた手を握り沈黙。ミャアって、おい。俺には寄ってこなかっただろ。何笑ってやがる、変な事伝えるんじゃない



HOMEtop prevnext戻る