*現パロ
君とちゃんとはじめて喋ったのは移動教室のとき、みんなに逆らって逆方向に行く姿に疑問を持った時。
どこ行くの?と声をかければ案の定、次の教室先で。首を傾げながらそっちじゃないと言えば少し黙って私の方向に歩き出す。またすぐに他のところに行こうとするから呼び止めて一緒に行くことにした。話したことなんてないに等しいのに、私の名前を覚えていたから驚いた。
「ゾロくん」
いまだに武道館を迷うという彼を今回も連れってあげる。もう3年になるのに彼はずっと迷子だ。うちの学校は2年と3年は同じクラスだから、この関係もずっと一緒。
「部活頑張ってね」
「おう」
登下校が一緒じゃないから、武道館までの道のりでくだらない話をする。わりとこの時間が好きだったりする。
剣道部の彼は今年の夏で終わりだ。つい先月一年が入ってきた一年の後輩たちは彼を見て深々と挨拶してる。畏怖じゃなくて尊敬。口下手な彼でも大会で準優勝してるから後輩たちの目はずっとキラキラしてる。ゾロくん、普通にイケメンだしね
「ライバルがいるんだ」
「ああ、すげぇ強いぞ」
強いと認めるとは。剣道の世界を知らないからそれがどんなにすごいことなのかよくわからないけど。一年から優勝してるというライバルさんは去年引退して勝ち逃げされたそう。
「最後まで倒せなかったからな」
「それは、悔しいね。ゾロくんも引退したら剣道やめるの?」
「いんや、やめねぇだろうな。そいつは日本大会で優勝したそうだからそのうち会うだろ」
進路先が警官なのが彼らしい。警察の中にも剣道部があり、日本大会にも参加してるそう。ライバルさんは先にそこで優勝してるらしい。個人で優勝とは恐れ入る
「ねぇ、次の試合。見に行ってもいい?」
武道館が見えてきた。雨が降ることが多くなった6月。君の引退が迫ってきた。部活ではなくとも、自己研鑽のために足を運ぶ予定だという彼。
彼の活躍を一度も見たことがないので、なんとなく聞いてみると、少し首を傾げながら
「別にいいが、見てて楽しいか?」
ルールも知らないのに。彼の言葉を確かにと頷く。雨音がピロティに響く。今日は強い
「また、ルール教えて?」
お願いしてみれば、軽く了承してくれる。なんだか嬉しくなって笑顔で、頑張ってねと送り出した
「意外にルールちゃんとあったんだ」
「あるだろ」
剣道のルールを教えてもらったけど、割とあることに驚いた。そりゃそうか。元は剣士のモノで、所作など心を大切にしているんだから。
「怪我する?」
「しなぁこともないが、しないよう鍛えるんだな」
彼の前の席に今回もお邪魔する。机に置かれた手を見つめる。ゾロくんは気になるのか片眉をあげる。そっと彼の手に触れて手のひらを見る。少し驚いている気がするけど何も言わないし、何も言わずに触れたから驚いたのかもしれない
豆だらけの手のひら。ゴツゴツデコボコしてる場所を指でなぞる。山みたい
「くすぐってぇ」
「すごい。硬い。努力の結晶だね」
自分にはないモノだからついついゆっくり噛み締めるように触れてしまう。スッと手が引かれてしまって目線と左手から消える
「今週、楽しみにしてるね」
勝手に決めた予定も彼は何も言わずに、短く返事だけくれる。無口だけど私のくだらない会話に付き合ってくれるから優しい。みんな怖がるけど、話したらそうでもないのになぁ。
「メタボシャチがいてね」
「なんだ、その生き物は」
「かわいいよ」
「かわいいのかよ」
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彼の試合は息を飲むことが多かった。一礼からの一礼で終わるその美しさに武道という伝統を見つけることができた。
今回の試合は三年最後の試合に出るための、予選大会だそうだ。彼の応援に行くと、彼の友達のルフィくんやウソップくんもいて3人で見ることにした。2人も剣道には詳しくないみたいで、子供のような感想を述べながらゾロくんの勝ち進む試合を見ていた。
予選会は優勝。優勝といってもシード権を得ただけらしい。予選会なのでメダルもトロフィーもない。でも、次が生まれた大事な試合。
彼の元に3人で行けば、ルフィくんの大きな呼び声でゾロくんがこちらを向いた
「やったなぁ!ゾロ!優勝だってさ!」
「おう。ありがとな」
「次の試合で優勝したら、全国一位だな」
「高校生のな」
「それでもじゃない?すごーい!かっこいいなあ」
「まだ勝ってもねぇだろ」
でも、ゾロくんが優勝じゃない?と3人で見つめれば当然という態度。さすがです
挨拶もそこそこに彼はみんなの共に戻ってしまったので私たちも帰ることにした。彼が最後の試合でパッと決めた時の胸の高まりをどう伝えたらいいのだろう。7月に入っても曇っているこの空を一瞬で吹き上げるような。そんな風を彼の竹刀から感じた。ダンッとキュッという裸足から奏でる体育館の床の音。そのリズムと回数の少なさで彼の動きがいかにすごいのかがわかる。いつも眠そうで。実際授業を寝ていることが多い彼。気だるそうに歩く移動教室。お邪魔して会話するくだらない話をあくびしながら聞いてくれる姿勢。スローペースな彼が俊敏になる姿は、目が冴えるものがあった
翌日、早速彼の前の席にお邪魔して早口に伝える
「ゾロくん、昨日すごかったね。私、剣道の試合って生で見るのも見ること自体初めてだったから、びっくりして。ルールも教えてもらったからわかることが多くて楽しかった!!
ゾロくんの最後の試合ね、パッと一瞬で短くスマートに決めててね。拍手するの一瞬みんな遅れてて。それくらいすごくてね。あと、剣道着っていうの?袴みたいなやつ。あれもすごい似合うのね。ゾロくん、背ぇ高いしイケメンやから似合うんやろうなぁ。あとね、竹刀の音がね」
「まてまてまて、ゆっくり話せ」
矢継ぎばに話すからゾロくんが手のひらを私に向けて落ち着くよう伝えてくる。
ごめんごめんと笑って、ひと段落。ふふと笑ってゾロくんを見る。癖で片目を瞑るのは去年から変わらない
「カッコよかったよ」
短く伝えれば、そうかよと短く返ってくる。
いつの間にか雨は止んで蝉がなく。もう少しで夏休みだ。私は大学に行くための受験がある。彼は警察学校に行くから部活の成績を高める。
彼の引退試合はお盆明け。
「次も見に行っていい?」
聞いてみれば、好きにしろと返ってくる。いいよと言わない彼のもう一つの癖。じゃあ、行くね。日にちは?と聞けばスマホを取り出すから。連絡先がないことを思い出した。
「LINE交換したい」
してないことを彼も思い出して、好きにしろとまた言う。彼からスマホを奪って勝手に登録。友達の少なさも彼らしい
「いつでも会話できるね」
「今でも十分だろうが」
「夏休みとか?」
「そこまでして話したいことあんのかよ」
「ないけど、さぁ。よく考えたら、夏休み終わったら学校なんてあっという間なんだよね」
ゾロくんのLINEへ私からスタンプを送る。ゾロくん勝手に操作されてるのに何も言わないし興味なさそう
「私は受験が待ってるし、なんか。ちょっと、ね」
適当さ加減が心地よかったのに、なんだか距離を感じる。夏と共に終わって自由になる彼と自由が終わる私。ゾロくんは私の手からスマホを抜き取ると画面を見つめる
「別に話せばいいだろ。教室でも、電話でも」
なんてことないように言う。というか、電話していいんだ。嫌がりそうなのに
「いいの?」
「別に、かまわねぇよ」
好きにしろ。ゾロくんの癖を聞いてちょっとニヤける。好きにしていいんだ。嬉しい
「なに、ニヤニヤしてんだ」
「嬉しい。ゾロくんとお話しするの好きだから、終わるの寂しいなって思っちゃうことがあるの。ゾロくんの隣居心地いいし。なんなら、ずっとそばに居れたらいいのにね」
スマホにつけるメタボシャチを揺らしながら話す
何も言わないからゾロくんをみれば、なんか少し固まってて、口を開けるのか閉まるのか微妙に動いてる。
「お、おま。そういうのは」
なにか言おうとするから首を傾げる。ゾロくんは口を閉じると視線を外してくる。
「え、なに」
「いや、そういうのはオレが言うから何も言うな」
だから、なにが。眉間に皺がよるのがわかったけど。ゾロくんも眉間に皺を寄せるからよくわからない。口を開こうとしたらチャイムが鳴ってしまった。またねと手を振って席に戻る。なんの話してたかも覚えてないけど。怒ってはないからいいかな。スマホの画面を落とす時に見えた彼とのトークルームには私がテキトーに送ったらクマがハートを飛ばすかわいいスタンプが見えた
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今年の夏が終わってオレの部活動も終わった。
鷹の目が勝ち逃げしたのが死ぬほど悔しかったが、日本大会と世界大会の記事で最年少と鷹の目が写っていたからこの先も戦えることを知れて腕が鳴る。部活は終わったが好きに使っていいと監督から許可をもらった。警察学校への道も決まって。あとは剣の道を磨くだけだ。
今年から変わったことといえば、オレの剣道を応援する奴が1人増えたこと。変わったやつでずっと喋ってる。だからか国語の点数がいつも高い。数学は壊滅的。生まれつき数の概念がわからないと言う。数の概念というのかよくわからなかったが、あたりの計算ができないって言われた時計算下手かと思ったが枚数分買うこととか人数分分けることとか掛け算割り算使えばいいのに使えない様子を見てなんとなく納得した。数がダメなだけであとは普通なやつ。手作りクッキーがうまいのとビターチョコで作るガトーショコラがうまい。チョコが嫌いでも食えた。
引退試合をかけた予選会後。教室で受験が始まる苦しさを少し浮かせた
「そばに居れたらいいのにね」
なんて、少し悲しそうにやわらかく呟く。そうか、もうあっという間に卒業になるのか。どこの配属になるのかも。どこの警察学校に押し込まれるのかもわからない。そう思った時のこいつの言葉。そばに居れたらいいのに。『いれたら』じゃなくて『おれたら』。たまに出る関西の言葉を聞きながら眉を顰める。こいつ今なんて言った
自分が何を言ったのかわかってない顔をするから、余計に腹が立つ。いや、まて。別にそういうので言ったわけじゃないことくらいわかってる。わかってるけど、想像してしまった自分を嫌になる。このままLINEも動かなくなって。疎遠になっていくんだと思ったとき、胸の奥の奥に鍼がつついたような気がした
だとしても、お互い無意識だとしてもだ。そういうのを女から言わせる趣味はねぇぞ
「オレが言うから何も言うな」
口止めしたらところで、何言ってんだと眉を顰めてくるから、同じ動きでお返しする。なんで言ったほうがわかってなくて、言われた方だけわかってんだ。チャイムが鳴る。またねと手を振る。またねじゃねぇだろ。心の中で突っ込みながら開きっぱなしだったスマホの画面を落とした。好きだと言っていたクマの形をしたキャラがハートを両手から放つスタンプを見て画面を消した。ため息が出る。数学の授業は苦痛なのか前の方に座るあいつの顔は困惑してる。
廊下が動くこのミステリーな学校でいつしかオレのそばで道案内をしてくれるようになった。
お前が数が苦手のように、オレだって苦手なことくらいある。受験で死にそうな顔してたらオレが吹き飛ばしてやるから、お前はずっとオレのそばでテキトーにくだらないこと話して笑ってればいいんだよ