海の青さをなんと表したらいいのだろう。
様々な青を見せる海を甲板の上から見つめる。白いツナギがスカイブルーを泳ぐ。
久しぶりの海上はみんなが浮かれる要因だ。すぐ乾きそう。
冬島が近いここで先に洗濯物を乾かしてから雪の降り積もる島に着くことになった。青に冴えるような黄色の艦は偉大なる航路にぷかんと浮かんでいる。甲板ではシャチやペンギンたちがカードゲームをし始めた。少し寒い海域。冬島特有の海域前に停泊したからか、みんな鼻の先が赤い。ベポだけが黒い。イッカクちゃんは久しぶりの洗濯物だと鼻歌を歌ってて。せっかくだからねとみんなの枕カバーも洗濯した。
冬特有の青空は薄くて、雲がひとつもない。呼吸をすると冷たい空気が肺を侵して底冷えする。こちらから見る太陽は白く、影は青い
洗濯物を干し終わって、夕飯まで時間がある。読みかけの本を手に取ってドアを背もたれにして座る。斜め前にはカードゲームで負けそうなシャチの声。楽しそう
「混ざらないのか」
珍しい声がけに首を持ち上げる
「キャプテンは、行かないの?」
少しみんなを無言で見つめる。あ、シャチが負けた
「カードゲームはよくわからないから」
カードじゃなくてもだ。簡単な指遊びさえ知らない。じゃんけんくらい。この本だって、子供が読むような。絵本を卒業した子たちが読むようなやつ。文字も書けない。何も知らない私をキャプテンは拾い上げた。消してくれた背中の刻印は、今じゃ歯を見せて笑うジェリーロジャー
「教えて貰えばいいだろ」
「今、盛り上がってるから後でいいかな」
拾ってくれたこの船は私より年下が多く、何も知らない私の方が1・2歳年上なんておかしな話だ
「何を読んでる」
「海の戦士、ソラ」
文字の勉強にとペンギンが貸してくれた。面白い。憎たらしいジェルマ。がんばれソラ
「懐かしい」
「北の海は有名みたい」
「ああ、よく読んでいた」
「ネタバレしないでね」
鼻で笑う。今いいところなのだ。もう一試合しているらしいみんなは耳まで赤い
「雪ははじめてか」
「そういえば、そうかも。なんだかんだで、雪に遭遇したことない」
冬島があっても、風が強いとかそんなんで雪が降り積もるのはなかなか出会えなかった。雪か。白いやつ。池とかいろんなもの凍らせちゃう気温。触れたことも体感したこともないソレに思いを馳せる
「キャプテンたちは、雪は慣れてるもんね」
「まあな」
「白い世界かぁ。私のところもそうだったなぁ」
キャプテンがこちらを向く。白い壁、白い天井。白い光。消毒の香りが広がる部屋。白いシーツはたまに赤が多くついてる
「白は、ちょっと。怖いよね」
純白って、なにか得体の知れないものの気がして怖い。知らない無垢の心って、好奇心で猫の目玉とか抉り取ってしまいそう。虫の手足を一本ずつ取っていくような、そんな気がする
なににも犯されないって、あまり良くない気がするんだよね。
1人で色々と考えていると、上から目線を感じて目をむける
「白は、思い出だ」
キャプテンの白が何を指すか、よくわからないけど。検体の死体の中にに白い肌の人がいて、それについて身体が動かなくなるくらい怒っていたからなにか結びつきがあるのかも知れない。町がどうたら言ってた気がする
「思い出かぁ」
あまり思い出にしたくないんだけど。でも、忘れらないよね。生きてきた場所だ。
同じ白でも違ってみえるんだろうか
「碌でもねぇけどな」
「はは。たしかに」
私の薄ら笑いにキャプテンも鼻で笑う。また、シャチが負けてる
「雪、楽しみ」
「食うなよ」
「食べれるの?」
「今、食うなって言ったよな。話聞いてんのか」
食べるものとは知らなかったからそう答えたんだけど。食べちゃダメなのわかったよ。触るなとかならわかるけど、さ。
キャプテンのジト目はちょっと居心地悪い。本当に一つ下なのかな。あの白にいた子たちはもっと子供っぽかったけど
カードゲームが終わったのか、イッカクちゃんが私の方に飛んでくる。かわいい。妹みたい。でも、文字を教えてくれるのは彼女だから逆かも
「そういえば、まだコートとか持ってないね」
上着を他の船員に借りることが多い私はまだコートを持ってない。
「島に着いたら、買おうね」
イッカクちゃんは笑って買い物の話をしてくれた。それが出来そうにないくらいの雪の積もる島であることをこの後知って、泣く泣く諦めたイッカクちゃんを励ましながら彼女が入れ替えて捨てる予定だったお下がりをもらった。
##
初めての雪は冷たくて、ずっと触ってるとちょっと痛い。ベポにも食べちゃダメだよと言われた。そんな食べるように見えるかな。でも、ちょっと食べてみたくなる。ジャリと雪特有の足音がする
「キャプテン!」
アイアーイとベポがキャプテンに近寄る。ベポはシロクマだから他の船員にずっとくっ付かれてて嫌そうだった。キャプテンは黒いロングコートを身に纏ってて暖かそうだ。特に帽子。頭が寒い。いいなぁ
イッカクちゃんからもらった灰色のモコモココートを地面にはためかせながらしゃがんで初めての雪を堪能する。冷たく白い、顕微鏡で見れば結晶という美しい形をしているそうだ。
ペンギンが教えてくれた図鑑でみたそれは、なんとも綺麗で。様々な形があった
「霜焼けになるぞ」
キャプテンの声で手に盛り込んだ雪を捨てた。
「霜焼けって?」
「寒さによって血流が悪くなり、それを動かそうとして痒くなる。掻きすぎて薄皮が捲れることもある」
「雪って、大変」
歩きにくいし、吹雪いてる視界は悪すぎる。吐く息は白く、みんな鼻も耳も真っ赤だ
島に降り立ってから、キャプテンはずっと不機嫌で。首を傾げる
「なんでもねぇ」
私の目線に気づいたのか、こちらを見て小さく呟く。なんでもないことないと思うけど
ジャリジャリと歩くけど、みんなより歩くのが下手でうまく前に進めない。
一番後ろで歩いていたから、みんなの背中が小さくなる。ため息ついて、足を持ち上げる。ふぅと視点を雪から空に移したとき。見えたのは賊っぽい輩。他の港を使用していたのか。銃口が彼らに向く。雪の音でベポは拾えてない。吹雪いてるせいで視界も使えてないんだろう
わかる、その先はきっと、キャプテン。億越えだ
動け!と力を入れると身体が飛ぶ。検体で手に入れたジャンプ力。悪魔の実がなくても同等の力を持てるか。その題名通りの力は獲れなかった。でも、一般人よりは力はある。成功した私はお気に入りで。治癒系の能力をエキスで流し込まれ、水に入れられ、能力者の弱点克服の検体になってたところを助けてくれた。私の恩人
飛んできた私に目を開いてるのか、撃たれた私に目を開いてるのか。キャプテンの合言葉が聞こえた
「おい」
聞こえてます
「まだ寝るな」
ボヤけてて今どこなのかわからないけど、消毒の匂いがする
さっきの雪についた血は、私の記憶の再現みたいだった
「聞こえてるか」
切実に聞こえるキャプテンの声。聞こえてるってば。なんとなく、霜焼けになる予定の指先を持ち上げる
「動くな」
大丈夫だよ。私の能力知ってるでしょ。
治っていることくらい自分でわかる
「寝るな」
心臓を打たれても、私の能力は忙しなく動く。掠めただけかも
キャプテンの名前を呼びたいけど、口がうまく動かない
「ろー」
これなら言える。いきなり名前で呼んだから嫌だったかな
「ろー」
寒いんだけど。なんだこれ。めちゃくちゃ眠い
「いる。いるから、寝るな」
わかったって。寝ないから、指握ってよ
カチャカチャと音が忙しなく響く。シャチたちの声が届く
霜焼けの指に熱いくらいの体温が触れる
「眠い」
素直に欲を口にするとキツく握られる
「まだだ」
許可が降りないから、寝れない。
寝かせてよ、君の体温、心地いいんだ
握ってくれた温度はあの時と同じ。芯から和らいでいく感じ。君が話してくれた夏を体験して、汗の出る気温をおぼえた。海の心地よさを知った。春の強い風も、花畑の美しさも。秋の日差しの柔らかさも。全て教えてくれた。
雪って、食べれないんだね。美味しそうだったけど。連れ出してくれた君の広い背中をずっと見ていたかったな
どんな旅も覚えても忘れちゃいそうなのが怖くて、イッカクちゃんに文字を習って日記を始めたんだよ。君たちとの旅はいつも煌めいてて。あの場所で死んだ人たちを連れて行こうと思ったんだよ
「にぎれ」
指示が出る
「にぎれ」
握ってるってば
「にぎれ!」
切羽詰まった君の声。聞こえてるよ。大丈夫
心臓がすごいスピードで動くから、逆に体力が削れる。ああ、止まりそう
「だから、雪は嫌いなんだ」
私の耳元で呟く君の弱音。きっと私しか聞こえてない。嫌いなんだ。でも、わかる
「頼む、寝るな」
キャプテンの声に応えたくて、指を動かすけど、動いてるのかな。霜焼けで腫れちゃったかな
「もう少しだから、寝るな」
ベポとイッカクちゃんの声が反対から響く
「ろー」
短く呼ぶ。なんだと指に力を入れらる。
あったかいね
言えてるかもわからない。でも、指に再度力が入ったから聞こえてる
「ろー、も、い、」
眠い。ねむいよ。君の温もりが子守唄になってて、心地よくて寝たいんだ
キャプテンの指が少し離れて、私の手全体を握る。優しい。包んで褒めてくれる感じ
「ああ」
「もう、いいぞ」
やっと許可が降りた。心臓のスピードが治ってきて、ちょっと耳鳴りがとまって視界に光が入ってくる。ボヤけてて何もわからないけど、キャプテンの帽子くらいはわかる
帽子が手に触れる。額かな。ため息が耳元に届く
何か言ったけど、聞こえなくて。今度は握り返せたのを確認した。それを見て握り返してくれる
寝るね、おやすみ。起きたらそこにいてね
頭の中で伝えたのに、わかったのか優しく握りしめてくれる
何もかも聞こえなくなって、暗いのに。見えたのは青い海と白い雪。そこに冴えるような黄色
ドライな船長は夏よりも暑くて。溶けちゃいそう。
起きた後。汚してしまったコートをイッカクちゃんに、なんて謝ろうか