ログのためにたどり着いた島は割とのどかで騒ぐ馬鹿どももいない。キラーと買い物に行って、用があるとそれぞれ分かれた。
自分のカマを研ぎ出しをお願いして、予備のナイフを忍ばせる。いつもの武器がないから少しざわつく。誤魔化すように指の骨を鳴らした。
船に向かって歩いていれば、見慣れた姿を見つけた。分厚い本を片手にベンチに座って読み込んでいる。
「おい」
声をかけたが、聞こえてないのかこちらを見ない。もう一度呼んだが、やはり返答もなし。いつものことだ。彼女に影を落とす前にこちらを見上げる。
「キラーくんだ」
お買い物?と聞いてくる。研ぎ依頼のあと立ち寄ったお店の紙袋を持ち上げる。
「お前は、本か?」
画面越しだが視線を本に飛ばせば、彼女も膝に広げた本を見る。しおりを挟んで閉じる。表紙は航海術について。さすが、航海士
「いいものを見つけたの」
表紙を眺めながら微笑む。嬉しいそうでならよりだと伝えれば、もっと嬉しそう。
相変わらず海賊に見えない。他の奴らと違ってパンクっぽさはなく、淡い黄色の服を好む。ピアスも可愛らしい花が揺れる。俺と出会う前からキッドと共にいる。所詮幼馴染といったところらしい。キッドが航海術を持たずに海に出れたのはこいつのおかげだ。
「他にもね、買ったの」
ふんわりと笑う
「これは?なんの本だ?」
見慣れない表紙の本を見つけて首を傾げる。
彼女は聞き取れなかったのか、同じように首を傾げる。ゆっくりと、「なんの、本、だ?」と聞けば頷いて説明してくれる。聞いてもらえたの嬉しいのか楽しそうに話しをする。白い花のピアスが揺れた。
生まれつき、左耳が聞こえない。
そんなハンデを負った彼女をキッドから聞いた時、海賊に連れ出すなんてとつぶやいた気がする。全く気にしてない本人たちをみて、変に扱ってないのを確認した。俺の仮面と相性が悪く、たまに聞き取れないらしい。聞き返す仕草も仕方ももう今じゃお決まりの会話になってる。
片耳が聞こえないから、目がいい。というわけでもないそうだ。泳ぎは普通だし、感覚も普通。戦闘向きではないけど死体をみるのはもう慣れた。
「キラーくんも、読んでいいよ」
彼女が見つけてきたのは、珍しく恋愛小説。古本だからか少し色褪せている。味があると言えばいいのだろうか。
「恋愛は、興味ないな」
「だよね。でもね、これ。昔からあって純文学の代表格なの。だから読んでみようかなって」
古すぎてちょっと安くなってたの。なんてまた嬉しそうに言う。昔からのベストセラーとなるならば少し興味が湧く。
「キラーくんは、きっと気にいるよ」
未来予知でもできるのか。ハッキリと決めつけるような口調で言うから首を傾げる。ふふんと楽しそうに鼻を鳴らす
「顔が醜くて。それゆえに心を閉ざして冷たい侯爵が、目の見えない女の子に恋をするの。目が見えないのに、会う勇気がなくて仮面を被って毎回声をかけるの」
「よくある恋物語だな」
「ここからの派生だよ。教訓としては、仮面を被ったまま人と接することはできない」
表紙を見つめながら話す。俺の顔というよりも、仮面を見る。
「君もいつか、仮面がなくても関われる人に出会えたらいいね」
柔らかく笑う。海賊なのに海賊に見えない女。そうだなと笑ってやればまた嬉しそうに笑う。
仮面がなくても俺は俺だと言える時が、割と近いのを俺たちはまだ知らない。