潮風が頬を掠め髪がすこし靡く。手で押さえていると、風の音とともに聞こえてきたのは知らない歌。
「船長さん、なんの歌?」
真っ赤で上質な髪色をもつ船長さん。知らない間に片腕をなくしてた。朝日がまだ目覚めきらない早朝。赤髪海賊団の傘下であるうちの船は並行している。昨日は久しぶりに合流して赤髪海賊団の船で宴だった。弱いモノが多い赤髪の傘下であるがうちはその中でも強い方だったが、商船上がりのうちの船は海賊じゃない。力が全ての世界では傭兵レベルの力は赤子も同然だった。安全に航海をするには強いモノに縋るのが1番だ。
たまたま私たちが荷卸しした飲み屋で船長さんが声をかけてくれた。ジェリーロジャーだけ借りてあとは自由に商いをする。売上のパーセントも取らないというから、ソレは流石にとバブルカードをもらって近ければ寄り。商いで詰んだお酒や食べ物をプレゼントする。彼はいいのにと優しく笑う。柔らかい声をお待ちだ。凪に似ている
「知らないのか?ビンクスの酒だよ」
酔いに酔っ払い二日酔いにはならない。が、フラフラはしている。楽しそうだ。もうみんなくたばって甲板に雑魚寝している。正常なやつだけ部屋に戻っていた。
「いつも後片づけしてくれているな」
知っていたのか。お酒に弱い私はあまり好んで飲まない。みんなの航海の話を聞いている方が楽しくてちびちびと飲んでは、半分になったジャッキを強い誰かにあげている。今回はマンダラ。隣に座ったからあげた。
「お酒を中途半端に飲んでいるので、目が覚めるのが早いんです」
みんなを起こさないように皿を重ね、残骸を袋に詰める。骨付き肉の骨はそのまま残して釣りに使ってもいいかもしれない
「そうか。てっきり見えているのかと思ったよ」
なにが。とは言わなかった。
「漏れているのがわからなかったのか。うちの傘下にしては、随分と強い奴がいると思った」
3本傷がこちらを向く。背筋が張る。
「別に、何かしようとしたわけじゃない。隠しているつもりなんだろうなとは思っていたが」
四皇であるあなたに隠し事なんてできるんですか。とため息をついた。
「隠していたつもりも、出していたつもりもないです。ただ、そこに在るみたいな」
「覇気を自覚できないとは、とんだお嬢さんだ」
もう、レディというとしてはないのだが。彼から見てそう見えるのだろうか。
傭兵上がりが多いこの船では私は特別強いというわけじゃない。彼のように覇王色も持ってない。素質があるわけではないのだ
「仲間になるんだから、漏れ出している人物を警戒しない方がおかしい」
確かに。目線をすこし下にずらす。
「あなたに敵わないことくらい覇気を持ってなくともわかることです」
「オレじゃなくても、他の仲間にあっちゃ困る」
「私が仲間に手をかけると思いで」
「無いとは言いきれんだろう」
ピリッと空気が張った。無意識に抵抗してしまったのは生物としての性であると思う。
彼が放つ覇王色。でも、体は耐えているから調節してるんだろう。そこまでできるなら、あなたは一体何に負けるんだ
彼が持つグラスが張り詰めた空気によってヒビが入った。
「冗談だよ」
フワッと笑う。やっといつもの彼だ。心臓を下ろす
酔っ払いフラフラと立ち上がり右舷の手すりに肘を置く。片方サンダル履いてない
「悪かった。試すようなことをして」
柔らかい声でお詫びを告げる。感謝と謝罪を伝えれる人ほどカッコいい人はいないと思うのだ
「いえ、大丈夫です。気をつけます」
「いや、丁度いい。その覇気で守れたモノもあるだろう」
彼の目線を追い、うちの船員たちを見る。スヤスヤと眠る姿を見る。そうだろうかと首を傾げる
彼は私の横顔を見て笑う。コトリとグラスを手すりに置く。
「それに。こんなにも凪いている覇気は久しぶりだ」
嬉しそうに告げる。よくわからないと首を正面に戻すが、微笑んだまま何も言わない。それならそれでいいかと私も気にするのをやめた。潮風が吹く、髪が揺れる。手で押さえようとして見えた欠けたグラスに透ける朝日。まだ空に灯る一番星を見つめるから目で追う。確かにそこに在るというのが特別であるのがなんとなくわかった気がした