唾が溜まった頬


ガチャリと電伝虫が鳴けばドフィとの定期連絡が終わる。今回もそう異常がなく安心だ。
ドフィの日常は恙無く進んでいることに安堵する。オレがいない間何かあったら困る。電伝虫を引き出しに隠したとき、ドアがノックされる。声をかけるといつもの彼女。
「あー、また。食べたお皿下げてない」
G-5で秘書をしてくれる彼女。書類を片手にオレのテープに重なる皿を見つめ頬を膨らます
「油が固まっちゃいますって」
まったく。とため息をくれる。オレを慕うよう活動しているはずだが、なかなか彼女は尻尾が掴めない。懐いてるのはわかる。だが、どこか確証がない
置かれていく書類を見つめながら、彼女の報告に耳を傾ける。こちらも異常なし。相変わらずうちの部下どもは海賊いじめを楽しんでるらしい。上に怒られない程度にしてもらいたいところだ。
「ヴェルゴさん。今日は食堂行かなかったんですか?」
なんの話だと紙から目線を上げれば、彼女は自分の頬を人差し指で突き何か知らせてくる。頬に触れてみればクロワッサン。ほぼ食べかけの
手にとってそのまま口に運ぶ。視線に気づいて彼女をみれば首を傾げてる。
「最近、クロワッサンなんて出ましたっけ?」
しまった。これはドフィからの荷物に入ってた美味しいパン屋のクロワッサンだった。小腹が空いて先ほど食べたものだ。どう言い訳しようと少し沈黙。
「買ってきたんですか?私も食べたいです」
勝手に解釈してくれるから、それに乗っかる。また今度買ってくると伝えれば、喜ぶ姿はやはり懐いてる気がするのだ。バレないようにため息をついたのに気づくのだから頭が上がらない。
「お悩みでも?」
特にないから首を振る。彼女はまっすぐオレを見つめて動かない。何か気になることでもあるのか。
「ないんですか?てっきりあるのかと」
呟く彼女を一目見てから書類に移す。今度配属される中将の情報。お供に大佐か。スモーカー、最近話題のモクモクの実の、感がやけに鋭いから要注意か。
「スモーカー中将。楽しみですね、仕事楽になるかも。でも、彼言うこと聞かないらしいから大変かも」
どっちだと顔を上げれば、少し笑ってる。
「今度、みんなでクロワッサンでも食べますか?」
特に返答をしないでいると、首を傾げる
「みんなは嫌ですか?じゃあ、私のだけでも。物資便に乗せるには割と大変ですもんね、食べ物なんて」
確かにパンでもクロワッサンなんて乗せてもおいしく届くのは難しいはず。オーブントースターで焼くだけで食べれるように送ってもらうドフィの気まぐれなプレゼントはいつもオレの腹の中。
「ドレスローザからなんて、遠い旅ですもんね」
空気が張った。いや、張らせた。楽しそうに笑ってる
「いいなぁ。ドレスローザ、美味しいもの多いらしいですね」
喋るこいつに対して何を切り出そうか迷うオレ。サングラス越しに目が合う
「秘書ですから。知ってます。なんて、ね」
デスクが境界線。書類が音を立てる。スモーカーのはもう要らないだろう
「王様、元気です?」
覇気が出る。モノともしない飄然とした態度。何者だ
「内緒話は意味がないですよ。私の耳は、とてもいいんです」
覇気を出すオレに近寄りデスクに乗り上がる。
「何もすることないです。ただ、私のこと、無関心すぎましたね」
デスク上で四つん這いになって、オレの顎を人差し指で撫でる。顎に触れる。噛んでやろうか
「いつか、あなたの王様にも会いたいなあ。内緒なんですけどね。私、あなたの王様に興味あるんです。いい意味で」
使えますよ、私は。なんて、トロリとした瞳でつぶやく。お前の瞳が溶けた毒みたいな鮮やかな緑をしているのを初めて知ったよ。
油が固まった皿が振らずに割れる音がした。



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