淡いピンク色のカーテンの向こうで


若様にまた婚約者を殺されて下瞼がふやけるんじゃないかと思うほど泣いた。あの野郎、絶対許さないんだから。イライラしてつい咥えてたタバコを噛んでしまう。ああ、葉がダメになってもう吸えない。裏庭に続く扉を開けて日陰になってる階段を手すりを伝いながら降りる。階段の壁に背を預けながら新しいタバコに火をつけた時、細い指先が私の口からそれを奪う。上を見上げれば手すりにもたれる彼女。ドーンピンクのネクタイを黒シャツの胸ポッケに入れてる。少し位置が高くなったネクタイピンに光るはモルガナイト。
私のタバコを自分の口に添えて味わってる。口に挟んだまま頬杖ついて私を見下ろす。
「また、怒ってるの?」
楽しそうに笑うから、ムッとする。
メイドの私と違ってスーツが制服の彼女。ジャケットを羽織ってないからベルトが良く見える。シルバーの金具なんだ。知らなかった。ネクタイピンはシャンパンゴールドなのに。手すりの柵から見える黒のパンプスの爪先を地面に鳴らす。私が付けた赤い光は昼間にはよく見えなくて、紫煙だけ微かに見える。
「だって。あいつ、私の婚約者をっ!」
悔しくて涙が出る。私のこと必要って言ってくれた優しいひとなのに!!下を向いて涙を堪えていると、上からため息なのか煙を出したのか息の音がする。チラリと見れば呆れたような瞳
「なによ」
タバコを口に咥えてため息をつく。
「もう、やめなよ。結婚するの」
だって、したいって彼が
「しないって決めておけば彼も死ななかったでしょうに」
私のタバコを味わいながら呟かれる。飄々とした態度が気に入らない。ムッと睨むとめんどくさそうな顔。
「じゃあ、私と結婚します?」
「ふん!イヤよ!」
「なんでよ、必要としてるのに」
してないことくらいわかる。何でもかんでも引き受けると思ったら大間違いよ。私だってそれくらい見極める目はあるわ。
「わかってないなぁ」
また呆れたように呟く。タバコの息なのかため息なのか、どっちかにしてよ
「ふんだ。揶揄ってることくらいわかるのよ。いつもそうやって私のこと茶化すんだから」
腕を組んでそっぽ向く。
しばらくタバコの音が聞こえなくて、彼女の方をチラリと見る。なによ、急に黙っちゃって。
私の口に差し戻されるタバコ。もう半分も行ってる。歯で受け取って途絶えないようにタバコを吸う。差し込んできた黒シャツの細い腕を辿れば緩やかな眼差しの彼女。
「じゃあ、今度婚約者殺されたらさ」
差し込んだ人差し指と中指がタバコを離れて私の口元、頬先と上に上がるように撫でる。
「私と結婚しようか」
約束ね。と頬を離れる指の温度が妙にぬるく感じるのは彼女があまりにも柔らかい瞳をしていたから。腐っても海賊の従者なのか。柔らかい奥に揺るぎない弦を見つけてしまった気がする。こちらが答える前に帰ってしまって、ゆったりとしなやかに過ぎ去った出来事が、一瞬の風のようでポロリとタバコが落ちた。



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