ユートピアで溺死する


歩き疲れてため息をつき、朝日に晒されてる石階段に腰掛ける。手元に何か当たったので見てみれば、血で錆びた鈴がコロン。ところどころ血が飛んでいる階段に手で撫でると、血はとっくに乾いててシミになっているだけだった。石特有のザラリとした手触りが伝わった
どかりと隣に腰掛けたゾロからは刀が三本音が鳴った。腰掛ける時に抜かないといけないなんて、大変だな。それが3本もあるなんて
「んだよ」
私の視線に気づいてこちらを見てくる。別になんてことないけど、なんとなく見つめる。隻眼になってしまった瞳は何色なんだろうか。
「その目って、どうなってるの?」
素直に思った疑問をぶつけてみれば、ハア?と声を出してすこし考える
「別に、どうもなってねぇよ。もう痛くもないしな」
「じゃなくて、その中身」
ゾロはよくわからないと首を傾げる。チョッパーが座れるくらい空いてた距離を積める。石を撫でてた右手をゾロの頬に滑らす
「片目になって世界ってどう見えるのかなって」
「なにも変わんねぇよ。って、近ぇぞ」
少しのけぞって私の伸ばした手首を刀を持ってない手の甲で押す。左耳に連打しているピアスが揺れた。それでも、興味がつかなくて右手を硬い太ももに乗せて身を乗り出した。黒い着流しの下に巻いてある腹巻に指が少し触れる。こんなにも変わってないのがあるのに、それだけ変わっているんだから、変わってるんじゃないかな
弾いたゾロの手の甲を無視して再度触れる。今度は人差し指で傷を撫でてみた。少しボコッとしててザラっとしてる。瘡蓋とは違う確かに切れて戻らない跡。頬骨あたりまで伸びているそれを横に触ったり何往復かする。ゾロは驚いたのか身体がピシリと固まっていた。動かないなら、いいかなって。よく見たくて顔を近寄せる。いつも20センチくらい身長差があるから近くで見るのは新鮮だ。前面や足首などたくさん大きな傷があるからきっとこれもその一部なんだろうけど。片目なるってわりと障害だし不具合も多いはずだ。それをモノともしないんだから興味が湧く。
「だから、近けぇって!!」
ゾロが大声をあげて私の肩を押す。勢い余ったのか私の身体はバランスを崩し階段から落ちそうになる
「・・わりぃ」
咄嗟に押した肩を掴んで私の体を一時停止させた。その力が思ったより強くて眉を軽く顰めた。ゾロはちょっと居心地悪そう。
「ううん。私が無遠慮だったから」
少し腹筋に力を入れて身体を固定する。ゾロはため息をついて私の体を元に戻した
「痛くねぇか」
ゾロは力が強いからしょうがない。大丈夫だよと伝える。大きな手。片手なのに私の頭を握り潰せるくらいの厚さ。肩に触れたままの手をなんとなしに見ていたらゾロも肩に気づいて手を離そうする。それが名残惜しくて左腕に巻かれてる黒い布に指を伸ばした。
「だいぶ、古くなったね」
色褪せて茶色が目立つようになってきた布をゾロも見る。見てもいい?と聞けば、ああ。と短く答えてくれたから腕から解いて目の前に広げてみる。端々は褪せた茶色が響き、ところどころ傷や血の痕跡がある。
「ねぇ。新しいのあげたらもらってくれる?」
布を膝に置いてゾロを見る。隻眼と目が合う
「好きにしろよ」
「しまわないで、使ってね。でも、これはさよならしにくいよね」
いろんな思い出が詰まったモノだ。手放す方がおかしい
「じゃあ、これ。私もらっていい?」
名案だと提案すれば、ハァ?と眉を顰められる
「んでだよ。そんなキレぇなもんじゃねぇぞ」
「ん。でも、ほしい。ゾロのだから」
普通の黒い布なんていらないけど、ゾロが大切にしてきたモノだから欲しかった。膝に置いてたのをちょっと皺がよるくらい握る
「好きにしろよ」
ため息をつき、同じセリフを言う。じゃあ、好きにするねと笑えばまた、ため息。
それなら、今から買いに行こうと提案して立ち上がる。珍しくゾロは船番じゃないんだから一緒にお出かけしたい。迷子対策で特に用もなかった私だけど逆に良かったかもしれない
ゾロはなにも言わずに刀を腰に戻して立ち上がる。ゾロの布を畳んでポケットにしまう。あれ、私のハンカチどこいったんだろう。船降りた時は入れてたのに。でも、アレが入ってたらゾロのが入らないからまあ、いいか。
ゾロは先に歩き出してて、好きな秋島の秋を感じているようだった。刀ない左側に並んで名残惜しかった手のひらに自分のを重ねて握った
「おい」
以外と女の人が苦手なゾロはちょっと嫌そうな。というよりも、どうしたらいいかわからないような声色で呼ぶ。迷子対策と言えばよかったけど、それはなんか惜しいより違う気がして
「こうしたかったの」
素直に告げれば、そうかよと黙ってそのままでいてくれる。厚くて熱い手の平は豆だらけで、私の手じゃ繋ぎ切れない。力加減を考えてくれてるのかそっと握り返してくれる指のなんと愛おしいことか



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