塩と胡椒とコリアンダー


小腹が空いて厨房に向かえばコトコトと音がした。いい香りというよりは薬草みたいな香りで首を傾げる
「あ、キラーくんだ」
厨房の小さな灯りを頼りになにやら鍋を煮詰めている。沸騰してる鍋を見ながらそこに浮かぶ草を眺めてる。
「なにしてるんだ」
「薬草の実験」
ふふーと笑う。小さな灯りを左耳のインダストリアルが拾う。小さく反射するその光に引き寄せられるように近寄ればちょっと香りに顔を顰める。マスク越しに顰めたはずだが、体の動きで察知したのか。腰に手を当てたまま、また笑う。
「ちょっと匂うでしょ。薬草だからねー」
インナーカラーが映える髪の毛を束にしてまとめてる。下を向いて作業することが多いからか、あまり髪の毛を広げてるイメージがない。
沸騰で踊る草を眺めていると、綺麗な浅瀬色みたいな青い瞳を向けてくる
「どうしたの?」
お腹空いた?と聞いてくるから、頷く。俺の頷きを見て、柔らかく笑い座っててと言ってくるから、素直に座る。
棚を開けて何やら準備してくれる。何をしてるかわからないが、ちょっと楽しそうに動いてる。あまり勝手に使うとコックに怒られるぞ。
包丁やまな板を取り出したから、そこまでしなくていいと伝えそうになってやめた。楽しそうにやってるんだ、任せたほうがいい。
何を作ってるのかわからないが、香りが良くなってくる。小腹が空いてたのに、本格的に空いてきそうだ。
「何を作ってるんだ」
腕を組んで聞いてみれば、んー?と間延びして下を向いてる。草を煮ている隣でフライパンで何か炒めてる。実験にも似ているのか鼻歌付きだ。
「お待たせ」
目の前に出されたのは見たことない料理。簡単そうだが、見たことないから難しそう
「これは?」
「即席だよ。味の保証だけついてる」
イタズラしたみたいにカラカラと笑う。マスクをとってスプーンですくい口に運ぶ。
「美味しいでしょ」
「ああ、うまい」
食べたことあるような無いような味がする。濃い味付けだから食欲が満たされるのが早く感じる。甘辛いソースを使ったこの料理はなんていうんだろうか
「それね、キッドくんも好きなんだぁ」
洗い物をしながら呟く。置いておいていいのに。何から何までありがたいな
「夜食として、ちょうどいいでしょ。簡単だし、うまいし」
確かに。普段より少ないと感じるこの量で小腹は満たされるな。逆に多くは必要ない。
口に頬張ったまま頷けば、洗い物を終えて手を拭いている。俺のスプーンと食器がぶつかる音とガスコンロの音、またに微かに聞こえるコポっという音。それだけで作られるこの空間。夜長にはちょうどいい。
食器を持っていけば、鍋は役目を果たして火はストップしていた。煮た草を丁寧に水気を取ってすり鉢に運び手際よくすり潰す。
「手慣れているな」
使った食器を洗いながら伝えれば、下を向いたまま楽しそうに笑った。汁が出るようになって、擦るのを止めた。ふぅとため息を一つついて、こちら見る。
「君たちがよく怪我をするからね」
テキパキと使った鍋も洗って、帰る支度をする。パサリとゴムが解かれて長い髪の毛が自由になった。こんなに長かったか?知らなかった
おやすみと呟いて俺の横を通り過ぎる。グレーの髪に紛れるインナーカラーとインダストリアル。鼻につく独特な香りと濃い味付け。それと一緒くたにしてて知らなかったが前髪が以前見かけたより短く整えられていたのは、俺だけが知っていることだ。



HOME┃top prevnext戻る