陽の目を浴びなかったニューシューズ


鬼姫様と呼ばれていた時期があったが、僕と名乗りおでんだと言い出した後いつからかみんな僕のことをヤマト坊ちゃまと呼ぶようになった。
「鬼姫様」
なのに、ただ1人僕のことをいまだに前の名前で呼ぶ奴がいる。
「ご飯ですよー」
僕よりも10歳くらい年上の彼女は、僕が小さい頃。まだおでんが生きていた頃に僕の従者として現れた。なかなか懐かない僕に手を焼いてて、その姿は特段子供が得意とかそういうのじゃなさそうだった。別に彼女が嫌いなわけじゃなかった。ただ、彼女のことを好きになってしまったらクソ親父が殺すに決まってるから。遠ざけた。
おでんが死んで、おでんになると言い出した時はもう仲良くて呆れた顔して鼻で笑われた。
「僕は自由になりたい」
コトっと机に料理が置かれる。いい香りだ。いい食材に透き通った水。ワノ国で作られる栄養豊富な食べ物たち。国民を奴隷にして作ったものたち。顔を背ける。
「私に言わないでください」
僕の脱走も止めないけどきちんと報告だけはする。従者としては完璧な立ち位置にいる彼女は、親父が拾ってきた孤児だった。スマイルを口にすることもなく、能力も戦闘技術もない。ただただ、僕の世話をするために生きている。
「君は、ここを出たいと思わないのか」
「思いません。安全です」
たしかに、四皇の親父の元にいれば安全だろう。争いに巻き込まれることもなく、美味しいご飯を食べて。でも、この島からは出られない。
「海を渡ってみたい」
「私は永遠にベットで寝てたい」
話の腰を折る彼女を睨む。君は外から来て海の広さを知ってるだろうさ。でも、僕はこの国の全てすら知らないんだ
「ご飯、冷めますよー」
僕の従者という割に、ブラックマリアやページワンたちと会話しているのをなん度も見かける。
あの無愛想なキングだって、彼女との会話は普通にしている。
僕のみたことないものを見てきて、感じて、考えて、ここにいる。それがどれだけ羨ましいことか。君にはわかりっこないんだ。
「広い海を見たいんだ」
彼女にも秘密にしてるおでんの航海日記。そこに書いてある冒険の数々。空島、魚人島、島の形態、人種、見たことないものばかりでいつも想像してる。ジャラジャラと手枷を見つめる。重たいそれはいつだって僕を閉じ込めるんだ
「何度でも言ってください」
親父とは違う言い方をする。
「私は何もできませんから」
諦めたような、でも冷たくはない口調。
冷めつつある料理の前に、緑茶を用意する。全てを諦めたような君と諦めきれない僕の壁は想像以上に分厚い。それでも一緒に育った仲だ。
「僕は自由になりたい」
遠征に出て鬼が不在のこの瞬間でさえ、僕は動けない。手枷にしかり彼女にしかり。僕が動けない理由が増えていく。
「だから、」
作業しているから顔が俯いてる。伸びた髪が顔に垂れる
「私に言わないでくださいよ」
いつもの台詞にいつもの返し。窓の外は曇天。
燃える炎に会っても、その燈が消えても、この返しはきっと変わらないんだろう。



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