ドアベルは必ず鳴らして


ガチャンッと音がして急いで振り返った。そこには今日帰るはずのない恋人がいて、驚いていると向こうも驚いた顔してて、気まずそうに目を背け頭の後ろに手をやった。
「あー、すまん。連絡したが出なかったもんじゃから」
黒いジャージを口まであげてるから、下を向かれるとちょっとくぐもって聞こえる。
「あー、あ、ああ。お風呂、入ってて」
まだ湿気てる髪の毛の先を指で遊べば、盛大にため息をつかれる。玄関でしゃがむからちょっと焦る。とりあえず、こっちおいでと彼に近寄り手を差し出せば素直に握り返してくれる。
立ち上がって私に手を引かれながらリビングのソファに誘導される。
「コーヒーでいい?」
私の問いかけに、短く答える。気が滅入っているのか、ソファの背もたれに頭を乗せで天を仰いでる。持ってきたコーヒーをテーブルに置くけど、こっちを見ないからとりあえず隣に座る。
「何かあったのかと思った」
同じエニエス・ロビー勤務だけど、役割も役職も違う。CP9になる前の訓練生だった彼に猛アタックされて折れたのは最近。訓練生育成プログラム作成や日常的なサポートを行う所詮庶務の私になぜ、そこまでして惚れたのかよくわからない。理由を聞いても理解できなかったから、まあ、ありがたいことに私じゃなくても成立しそうな理由だけど、私じゃないと嫌だったと言うことだろうか。CP同士の恋愛なんてよくないと思ってたし思ってるから、彼の猛アタックを交わしながら進んでたのに、訓練生卒業後に出会った彼にまた猛アタックされて、悪い気起きなかったのと、ちょっとずつほぐされてしまってたのか頷いてしまった私も私だ。
彼が麦わらにやられた時いた時は肝が冷えたが、生きていることがわかって何よりだった。
「大丈夫だよ。ごめんね」
困ったように笑えば、チラリと視線を飛ばして、大きなため息というか安堵をしてから首を元に戻した。
「わしのせいかと思ったんじゃ」
「あなただけではないでしょう」
「それでもじゃ。つぎ、わしがどこの部署に行くと思うてるんじゃ」
イージス0になるのは前に聞いていた。聞いた時は呆気に取られすぎて固まってしまって、彼の昇格を素直に喜べなかった。事の大きさが全く違う。
「不安にもなるわい」
「それ、そのまま返すよ」
私から連絡はしない。それが私が決めたルール。元々連絡が薄いのもあるけど、悟られたくないから。お互いがお互いに人質なのは百も承知だ。
私の入れたコーヒーを飲んで喉の動きが止まってるのにカップを置かないから首を傾げる。
コトリとカップを置いて、腕を組み下を向いてる。考え方してるのか、何かしてるのか。ツバが煽ってしまってわからない。動かないでいると、彼の口から厚いため息。ため息というより、ひと呼吸
「よし」
膝に手をついて、ちょっと前屈み。え、なにと狼狽えていると、彼の大きな瞳がこちらを向いた。目が合うと彼の大きな手が私の手を取る。走ってきたからか、暑い
「この先、わしは本当にどうなるかわからん」
急に話し始める。ちょっと困惑しながら話を聞く。ああ、訓練生のとき。いつもこうやって向き合って彼の話聞いてたな。落ち込んでそうな時も怒ってそうな時も悲しそうな時も。いつも「そうな」時。先に言わないと話せない彼。あの頃と違うのは、彼が大きくなったのと、髪の毛が短くなったのと、手を握る間からになったこと。
「でも、わしはここに帰ってきたい」
ん?ちょっとアンテナが張る。彼の瞳がキャップに隠れる。
「わしには家族がおらん。仲間はおる。じゃが、帰る場所はここにしたい」
飲んだツバが意外にも大粒で喉が鳴る。
「明確な言葉を言えんのは許してほしい。じゃが、あの時感じ取った感覚は本物じゃとわしは思っておる」
強く握られるから握り返す
「今以上に帰ってこんし、いつ死ぬかわからん。連絡も、恐らく届かんじゃろう。それでも、わしのこと、待っててくれるか」
いつも自信満々な瞳が不安そうにこちらを見つめる。ああ、泣きそうだ。
「おかえりをいつまでも。いつでもしたい」
涙を我慢して伝える。あなたに伝わりきれるだろうか。この胸に宿る熱さを、愛しさを。
手が離されてギュッと抱きしめられる。ああ、震えて。年下の君は大人な私より大人な世界に生きてる。
「ただいまをいつでもじゃ。聞いてくれ」
もちろんだと広くなった背中に回した手のひらであやす様に優しく叩く。
震えるのは一体なんの感情なのか。君の思う苦労も不安も恐怖もわかる様で分からない。でも、伝えた様に君が帰ってきた時に私が仕事から帰ってきてたら、おかえりを言ってあげるし言いたい。君が先に帰っているなら、ただいまを伝えたい。壊した玄関を直して、その扉の合図で会えるように。願いを込めて強く抱きしめ返した。



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