噛み砕いたクルミの殻


パンクハザードの炎の大地にはあまり人が寄り付かない。ここで溶けた雪は水になって海に帰ることもなく炎で蒸発してしまう。高い上空を飛んでいても下からの熱気でお腹がチリチリと暑い。
ふと人影を見つける。凝視してみると暑い中を歩く彼女。
「なにしてるの?」
あまり下に降りない程度で声がお互い届く距離に留まる。羽根からの風で少し炎の先が揺らめく。私の声に反応した彼女がこちらを見て、モネさんだと呟いた。
「発電機確認です。異常ないと思いますけどね」
黒いTシャツに黒のショートパンツ。パンプスみたいな形をしたサンダル。腰には炎の反射で従来の朱さが透けて見える刀。持ち手に肘をついてのんびり歩いてた。私の声がけに立ち止まってくれて、報告してくれた。
「ご苦労様」
「とんでもないです。お役に立てそうでなりよりです」
ニコリと笑うけどどこか人間味を感じない。培養液の中で生まれて、試験管の中で育った。Dr.ベガパンクから盗んできた人造設計は完璧ではなかったみたいで何度も失敗を繰り返して、生まれたのが五人。そのうち一番成功したのをドレスローザに、不都合ないけど失敗してるのをここの強化においている。感情は埋め込められただけでどうにも張り付いた様な笑みに嫌悪感を拭えなかった。
「熱さはやはり感じないのね」
空を飛びながら言葉をかければ、特にはと淡々とした声で返ってくる。
なんとなく彼女が歩く上を飛行する。私がいるのに何もせず発電所にむかう。ここのエリア担当なのは、彼女には熱さを感じ取れないから。発電所について、扉を開けるから降りて一緒に入る。私が入ることに気づいたのか扉を閉めるのをやめて開けてくれる。
なにやらチェックし始めて、チェックシートにレ点をいれていく。正しく動くそれはロボットと同じ気がする。サイボーグとは違う。一度きりの命。でも、組み立て直すことはできる。
私の目線に気づいたのか、真っ直ぐこちらをみる。
「なにか?」
首を傾げて聞いてくる。なにもないわと首を振れば元の仕事に戻る。私たちファミリーのために生まれた。文字通り、若様のためならなんだってする。ディアマンテの剣術も、グラディウスの銃術も、ラオGの体術も、良し悪いがこちらに全振りだからトレーボルより効率的で悪どいことを思いついて行動してくれる。便利、だけど人の形をされると苦い。
「モネさん?終わりましたよ?」
実験で分かれてしまったオッドアイ。霞んだ黄緑みたいな色と白い濁った瞳。濁った右目は割と機能してないらしい。
従順な彼女。若様だって喜んでた。オリジナルを使い果たしてしまってもう作れない。ある個体を何度もリサイクルする、それは本当に元の彼女なのかしら
「行きましょう」
なんでもないと首を振って発電所から出る。ついてこない気配を受けて振り返る。
「空を飛ぶとは、どの様な感覚なのですか」
炎サイドの住民であるからローさえも彼女を知らない。
「そうね。心臓が少し浮いて空気に包まれはような、そんな感じかしら」
飛びたいの?と聞いてみれば、素直に頷く。あら、意外。感情をさほど作られてないから、興味ないと思った。
「飛びたいと、思うことくらいあります」
炎が燃え盛る空を見つめる。吹雪が舞う空が見える。厚い曇天で青空まで行くのに壁がある。
「どうして?」
なんとなく、聞いてみると空を見ていた顔がこちらを向く。オッドアイの瞳が炎で光る
「大地も海も、空から見てしまえばただの景色です。空を見て、いい景色とは言わないでしょう。空と共に在る何かを見て言うもんです」
「自由になりたいの?」
私の質問に数秒固まって口を開く。
「自由にさせてくれるんですか」
泥の厚みに足を取られる気分になる
「要りませんよ、別に。ただ、自由にさせるのが怖いのだなと」
貼り付けた笑みをこぼす
「人でないなら、人としての道理など私には通じませんから」
人が勝手に育たない様に、人造が勝手に育つことはないのだと思い出した。
貼り付けた笑みだと思っていたが、それが彼女の笑みで在るのだというのを知った。



HOME┃top prevnext戻る