自分自身が剣豪になったとき、そこらかしこから現れる腕たまに付き合うのが億劫になってきたため自分の拠点を決めることにした。
この前、シッケアールという昔滅んだ国があると聞いたのでそこに向かってみることにした。ついた時は雷が鳴るほどの大雨だった。その暗い世界に堂々とまだ綺麗な古城が建っており人を寄せ付けない雰囲気が気に入った。城に近寄るほど大きなヒヒが襲ってきたが、オレの剣術を見てから襲ってくることがなかった。
恐れ入ったのか、オレが通るたびにヒヒたちは下がるため歩くのも楽になった。城に着くと外の湿気を感じないほど冷えていた。雨だからだろうか。リビング、キッチン、バスルームなど見て歩いたが一つ不穏がある。まるで人が住んでいる中のような綺麗さを持っていたのだ。けれども、人の気配は感じない。使う部屋を定め、荷物を置きダイニングに戻る。暗くなってきた城に光は灯らず暗い中だ。長いデスクを見やって窓側の1人掛けのソファを見つける。うむ、良さそうだ
赤い生地を撫でていると、ペタリと音がして振り返る。人は見えないが、気配もない。何事だと剣に手をかければドアから現れたのはオレより一回りほど下の女。
髪の毛を下で括り、黒いワンピースに白いエプロン。まるでメイドだ。暗闇の中に目が合う。驚いたように開かれた瞳は暗闇に映えるブートゥーブルーの瞳だった。
お互い無言で立ち会う。先に口を開いたのはオレ。
「何者だ」
オレの質問に意識を戻したのか、綺麗に頭を下げる。
「この城で給仕をしていたものです」
「滅んだと聞いている」
「滅びました。でも、滅んでも、滅ばなかったのが私です」
「生き残りか」
「いえ、一旦死にました。再生というものです」
「悪魔の実か」
「左様でございます。モデルヤモリです」
「なるほど、だからここを守ってると」
「言葉の綾ではありますが、そうなったということでしょうか」
ふふと笑う。意外にも綺麗な微笑みだ。
「外にはヒヒか」
「ヒヒたちは友達です」
「ほう。ヤモリは言葉を使えるか」
「いえ、再生するのと私の餌やりです」
俺が来るまでにどれだけの年月があったのだろうか。
「ここではなにを」
「主人を待ってます」
ほう、と頷き見ると悲しそうな笑み。叶わないことを知ってのことか
目線を下に下げ困ったように笑う。誰も帰らないこの城でずっと待っていたのだろうか
「あなたはなにを」
わりと透き通るような声をしている。女を見ればキョトンとした顔。
「アジトを探していたのだ」
俺の答えに2回ほど瞬きをして、なるほどと呟く
「だが、ここには住人がいたようだな。お暇しよう」
手をつけていたソファから引いてドアに向かうと、ドアの前で立ち塞がるようにして女が立ち止まった
「雨が、ひどいです」
窓を見ればまだ嵐
「雨宿り、して行かれませんか?もし、お好きでしたらワインセラーがあるのですが」
魅力的な誘いだ。そうすると頷けば嬉しそうな顔してワインセラーに向かう。剣を置いてソファに腰掛ける。いい心地の椅子だ。
女が持ってきた赤ワインは熟成していて口当たりが良かった。うまいなと呟けばまた嬉しそうな顔をする
「よければ、お風呂が用意します」
「いや、流石に悪い」
「整えさせてください。久しぶりの仕事です」
そう言われて仕舞えば断れない。じゃあ頼むと願えればまた嬉しそうな顔。綺麗な笑みで子供のような可愛らしさを持つ。ベットの部屋に案内される前に女に問う
「これからも1人きりか」
オレの質問に少し驚いて固まり、悲しそうな顔をする
「自由だというのに」
「自由、は、自分を肯定してくれる世界でのみ発動するものです」
面白いことを言う。ベットに腰掛け、女が目の前に立つ。目線は相変わらず下を向く。
「自由の冷たさは、もう、思い知りました」
泣きそうに見える。海を彷彿させる青い瞳が揺れている。そっと頬に手を滑らせば海と目が合う
「では、この先どうする」
「主人を、まってます」
「もうおらん」
「知ってます」
白いエプロンを両の手で握る。皺ができる。
「久しぶりの仕事は楽しかったです」
また悲しそうに笑う。悲しみの青になってしまった海の瞳が少し、惜しい
「整えるのが上手いな」
ピクリと反応する
「飯もうまい、掃除も行き届いてる。ワインの選択も良い」
オレの言葉に瞬きを一つ。まっすぐ見る海の瞳は瞳孔と相まって深海にも思える
「いい城だ」
滑らかな頬を人差し指が滑る。手のひらが当たる。
「あの、もし、よろしければですが」
モゴモゴと頬を赤く染めながら言う。いじらしい
「主人になっていただけないでしょうか」
少し早口に言う。覚悟を決めたか。
「うむ。そうしたいところだ。だが、お前の城だろう」
目を伏せ首を横に揺らす
「私はメイドです。主人を待つだけ」
そうか、ならば。そうしよう。深く頷けば嬉しそうな顔。手のひらを当てれば頬擦りしてくる
そのまま指先で撫でてやれば溶けたブートゥーブルー。お互いに引き寄せ合うのは自然の流れだった。