深呼吸で浮かぶエアレーション


情を捨て去った弟たちは全く可愛くなくて、むしろ可哀想に思える。
「最高の出来だ!」
失敗作を産んでしまったと科学者としての悔いが残るのか父はまた同じことを繰り返そうとしていて、それを止めることは私にはできなかった。人として生まれて人として育ったサンジが母の命懸けの願いだったのに、それを全否定するから胸が痛む。
生まれて出来た妹は赤子の頃から外骨格を持ち合わせており、それが脱皮するように成長するもんだからまるで蝶のようだと見惚れてしまった。
大きくなった今も笑った顔を一度も見たことない。情を持たないというよりも、感情を埋め込まなかったような彼女。久しぶりに船が集まり国を作り上げた。夕食中も弟たちに話を振られても報告書を読むような口調で会話をしていて、なんだか気味が悪かった。ふと、対面で目が合うから微笑みかけた時。ふっと彼女の口の角が持ち上がった気がした。
私の毒も、イチジやニジの電撃やヨンジのパワーを元から手に入れている彼女はきっと本当に最高傑作で感情を持ってないから父にも反抗さえしない。はたして、それが本当に可愛いのだろうか。父に褒められて嬉しいと幼かった私たちは喜ぶという感情を出していたから可愛かったわけで、褒めても空虚を見つめるような瞳をしていたら父だってイヤになるんじゃないのだろうか。
朝から弟たちの相手をさせられ、折れ曲がった腕や足を面倒だとプレスで治して、自分の強化のために脳となってるAIで計算式をホワイトボードいっぱいに書いていた。夕食を解散するまでも弟たちに話しかけられて、ヤジを飛ばされても軽い相槌だけで済ませている。ため息をついて部屋に戻る途中、妹が窓の外を眺めているからなんとなく近寄った。
「私の部屋に何か、よう?」
私の部屋しかない通路で声をかければ、振り返り顔だけ窓に戻した
「お茶でもいかが?」
「いただきます」
無表情の彼女を部屋に招き入れて、お茶の用意をする。目の前に出してあげるけど、初めて入る部屋で目線がキョロキョロしてる。
「落ち着かない?」
そういえば。わりと会話をするのは久しぶりだった気がする。私たちが自分たちで任務を行うようになってから産まれたせいで、船が集まる時以外会話をした記憶がない
「レイジュの香りがします」
鼻がいいからか私の香りと言う。ふっと笑えばキョトンした顔
「そう。鼻がいいのね」
そのまま返して目の前に腰掛ける。私が紅茶を飲むから彼女も飲む
「変わりない?」
「はい。問題ありません」
ピクリとも動かない表情。お人形と会話してるのかと思うほど。綺麗な顔してる。さすが、お母様の死体からとったサンプルとお父様の精液で培養させただけある。お母様に似た瞳。
彼女を眺めていれば、何かを見つけて見つめる姿。何かあるのかとその方向に目線を飛ばせば、私のドレッサー
「気になる?」
声をかけてドレッサーに近寄る。動かないから、手招きする
「あなたの部屋にはないのかしら」
「ありません」
「では、用意させましょう。女性として必要よ」
そう伝えると彼女はドレッサーを見つめて、一点を見る
「ほしい?」
そう呟いて出したままにしてた指輪を一つ取って、細い指に差し込む。シルバーに光るそれにはアメジストが一粒。
「戦闘時には外しちゃうけど、レイドスーツに着替えれば勝手に取れて保存してくれるから」
アメジストを眺める瞳も青みが少し強い紫。
「気に入ったかしら?」
私より背の低い彼女の顔を覗くように首を傾げてきけば、ゆったりとこちらを向き、指輪をはめた指先を反対の手で優しく撫でる
「差し上げてるわ。妹だもの」
ふふと笑う。あ、また上がった。
綺麗な笑みを浮かべるから、少し呆気に取られる
「嬉しいです。大事にします」
なんて呟くから、頭の中がパニックになる。
弟たちのような外骨格を持ち合わせて、力もある。無表情で報告書を読むような口調。でも、ちゃんと中身はサンジのような柔らかさを持ち合わせてる。嬉しそうにアメジストを撫でる。嬉しそうに笑ったまま。久しぶりだからか、それとも私にだけ見せているのか、わからないけど。それがどうにも嬉しくて、頭を撫でてあげればこちらを向く。表情はなくなったけど、奥にあるものを見つけたから瞳が光って見える。
「また、来てもいいですか」
ちゃんと可愛いおねだりだってできるんだから、つい胸が高まる
「ええ、いつでもいらっしゃい」
嬉しそうな顔をする。
もしかすると、父が最高傑作というのはあながち間違えてはないのではないかと思えた。



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