式前アッサム


*現パロ

キリがいいところで顔をあげてみれば外は真っ暗で。やはり今日も最後かとため息をついて帰る支度をする。ガチャリと研究室の鍵をかけて手のひらに収め、下の管理室に向かう。
「あ」
短い声に振り返る
「お疲れ様」
「ええ、お疲れ様。遅くまで大変ね」
「ふふ。そちらこそだよ、いつも遅くまでいるね」
別の学科だけど、わりと共通点がある。
考古学を専攻する私と違って、文化学の彼女は民族服から国別の歴史を見るという面白いことをしている。クローバー教授からの紹介で彼女に民俗学を伝えたのが始まり。それからは、民族衣装を作る際のモデルに呼ばれることが多い。
「この前の衣装、どうだった?」
「ええ、いい出来ね。考古学のみんなも惚れ惚れしてたわ」
うれしーなんて呟きながら、手のひらで研究室の鍵を弄ぶ。
「見事なモノね。細かい刺繍が多くて」
「そーなの。国の文化よね、あんな細かいの。それが王族だけだとしても、国民の服にも影響があるなんて。当時はどれだけの価値があったんだろうなぁ」
ワクワクと語る彼女。ウェディングドレスやタキシードにしても国によって生地も襟の形もボリューム、チュールの使い方、刺繍の種類が違うのだと熱く語っていた。同じような熱量があると話が弾む。管理室に鍵を一緒に返して校門に向かう。
「今はどんなことを?」
「変わらないけど。ビーリングについて調べてるの。中東の国はやはり刺繍文化も相まってたくさん使うんだけど、サウジアラビアとトルコでは全く違うし、癖というか、その国がよく書き出す模様もやっぱり違ってて」
話し始めたら止まらないのが彼女の癖。楽しそうに話すから静かに聴く
「ロビンちゃんは?留学とかしないの?」
本場で学ぶことは大きな意味がある。クローバー教授にも誘われたし、いつかは行ってみたいなと思う。それこそ、お母さんと同じ隊に入って色々と学ばせてもらいたい。
「いつかはね。学生のうちはどうかしら。行けたらいいのだけど」
「えぇ、行きなよー。せっかくお母さんと教授が知りたいで、ロビンちゃんも気に入ってもらってるのに。使える人脈は使わないと、欲しいところに手が届かないよ?」
たしかに、彼女の言ってることも一理ある。
「あなたは行かないの?」
「ううーん、お金ないよぉ」
うぅと腕を目にやって漫画みたいな嘘泣きをする。可愛らしいと微笑むけど同い年だ。
「また、モデルやってよ」
「いいけど、次は何を作ってるの?」
私の質問に楽しそうに笑いながら、スマホをいじって、ジャーンと見せてくる
「あら、素敵」
「ふふ。今回はヨーロッパなの。今のビーリングもね、元は前期の論述でドレスに使われてた金糸について調べてて、それを辿って今に至るんだけど。その前期の集大成として。作ってるの」
いつもロビンちゃんに着てもらうからと私の体型に合わせた型紙をもういくつか持ってて、採寸するときに詰めることが多い。
「でもね、今回はメンズも欲しくて」
研究室でみんなで針をチクチクと縫っている姿はちょっと楽しそう。たまに通るけど、窓から見える雑談しながらの作業は文化祭みたいだ。
「あら、今回はペアなのね」
「うん。それでね、あの、ロビンちゃんにね、お願いがあって」
緊張してるのか唇を少し舐める。どうしのと首を傾げれば笑って
「ローくんをモデルにしたいの!声かけるの手伝いって!!」
なんてお願いしてくる。私はいいけど、あの気難しい医学生は言うこと聞いてくれるのかしら。
ルフィたちに紹介したときに、トラ男くんもいて、彼女にロックオンされてモデルの猛アタックをしていたのを覚えてる。
「聞いてみるわね」
「ありがとー!でも、嫌って言いそうだよね」
ちょっと悲しそうに笑う。似合うと思うんだけどな、ドイツ式のタキシードなんだよ。なんてちょっと不貞腐れたように呟くから可愛い。
「大丈夫よ。彼、押しに弱いから」
ほんと!?なんて飛びついてきて、顔の系統から肌の色など想像しながら服のことを話す。楽しそうな彼女をみて、こちらも笑顔が浮かぶ
「いつか、ロビンちゃのウェディングドレス作らせてね」
研究室メンバー総出で作るからと彼氏もいないのに意気込む。ありがとうと伝えれば、興味は他のことに写って、最近コンビニで紅茶の抽出機がでた話題になってる。
恋人なんていないのに、いる未来を簡単に想像しちゃって。あなたにはいないの?なんて聞いてもいるわけないじゃんと笑うのだろう。まさか、押しに弱い彼に密かに思われてるなんて、紅茶に夢中になって彼女には伝わってないんでしょうね



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