月だけが知っている


中庭の女たちを腰に添えながらソファでくつろいでいると給仕の女が1人入ってきた。
ほぼ裸族で形成されてるここに皺ひとつない明るいネイビーのシャツワンピースを着込んでいるから異質に見える。女たちに必要とされた酒などをバーカウンターに運んでいる。女たちが新しく来た酒に群がるようにバーカウンターに乗り出してメイドと会話をする。黒いネクタイとベストみたいな形した羽織がいいサテン生地を使ってるのがわかるほど太陽の光を反射していた。鎖骨下までストレートに伸びている髪を耳にかけながら女たちの相手をし、なにやらご所望のカクテルを作ってるのようだった。できた上がったピンクとオレンジのカクテル。女たちは楽しそうに盛り上がりメイドはそれを柔らかく微笑み返している。
知らない女だが、他の奴らと違う服ということはそれなりの立場であるのだろうと勝手に解釈する。
「ディアマンテ」
一際大きな黄色の声があちこちでしたと思ったら、我らが王の登場だった。
ドレスローザの太陽を反射させるサングラス、今日はコートはお休みらしい。くつろいでるソファの定位置であるど真ん中に、ドサリと腰掛ければ、俺についてた女が1人隣に腰掛けたドフィにもたれかかる。すぐドフィにお酒を持ってくるやつとおだてに行く奴。色男はいつでもモテるな。
ふと、バーカウンターをみればもう女どもはおらずメイドでの女が1人で作業をしているだけだった。ドフィに一礼だけして手元の作業に没頭している。なんとなしに眺めていれば、ドフィが楽しそうに笑う
「フフフ、何か気になることでもあるか」
ドフィの掛け声に視線をドフィと女を少し行き来する
「別に」
大したことじゃないと伝えるが、どこか楽しそうなドフィになぜか内心焦る
「なんだ、ああいうのが好みかと思ったんだがな」
「おいおい、やめてくれ」
別に言い当てられたわけじゃないが、少し焦って制すればまた楽しそうに笑う。
「声くらいかけてやれよ」
完全にバレているからチラリと女を見れば、氷を片付けて宮殿に戻る支度をしていた。ベビーとはまた違った服装。彼女は女のことを知っているのだろうか
「別に、メイドにしては服装が違うと思っただけだ」
「ああ、昼間の給仕キャプテンだからな」
「詳しいな」
「フフフ、俺の城だぞ」
それもそうかと、ああ、と鈍った言葉を出す。夜にいないのは珍しい。花形のディナー隊だ。もしかしたら、ベビー5は女のことをよく知っているのかもしれない。ジョーラやシュガーも知っているかもしれない。氷を詰め替えた銀の樽に空になった瓶などを詰め、両手いっぱいに荷物を持って帰ろうとしているから、立ち上がり女に向かっていく。
「いかがされましたか?」
俺の姿に気づいた女はこちらを向き、綺麗な笑みを向ける。ホテルとかに居そうな佇まいだ。
「いや、特に。荷物が多いな」
「一気に持っていってしまおうと思いまして」
横着しましたと笑う。
「手伝ってやろう」
特に気にかけず言葉が口から出た。驚いた女は、笑顔で首を振る。
「い、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」
分野は違えど雇い主が手伝うことになるから、焦ったように断る。シャツワンピースは襟まで皺ひとつなく、ノリが乗ってる。首元に漆黒のネクタイが太陽の光を拾う、裾下から見える黒ストッキングを履く足首は細く、黒いローファーは手入れされてるのだろうか艶が出ている。パッとみれば瞳とぱちりと目があった。意外にも鮮やかなネイビーであったから驚いた。あっちでみた時は黒だと思ったから。よく見れば髪の毛もマロンだ。
「断られるほうが、恥ずかしい。手伝わせろ」
言ってしまった手前引けない気がして、手を伸ばす。焦ったような顔をして柔らかく笑った。
「ふふ、では、こちらで」
そう言って銀の樽を渡してきた。重たい方を渡してくるなんて、地味にいいか性格してやがる。
バックヤード前まで歩いて、扉の前で回収される。
「ありがとうございます。助かりました」
特に何も言わなかったが、やはりホテルマンのような笑みを向けてくる。歩いてる途中も会話はなかったが気まずくはならなかった。女は受け取ると一礼し、バックヤードに引っ込んでいった。中庭に戻るとドフィは女から口渡しでフルーツをもらってた。口渡しした女は今日の夜を欲しがるのだろうな。俺の視線に気づいたドフィはフルーツを飲み込むと不敵そうに笑う。俺はため息だけついて、隣に腰を下ろせば何がいいたそうな顔。
「優しいねぇ」
フフフフフと笑う。よせやいと顔を顰めると盛大に笑う。女たちはよくわかってなさそうでよくわかってる顔をして、俺に呑みもんを持ってきた。女が作ったカクテルではなさそうだと、オレンジと黄色のカクテルに口をつけた

##

夜。夕飯も食べて風呂も入った。なんとなく夜娯楽室に向かってピーカたちとカードゲームを楽しみ、酔いも回ってきたのでぼちぼちお開きとなった。上機嫌で部屋に戻る途中、見慣れないネイビーのロングワンピースの裾を見つける。目を細めれば、前の方に昼間のキャプテンが歩いていた。夜に駆り出されてるのか、昼間の人間がいることに少し違和感を覚える。なんの迷いも無く、まっすぐ目的地に進んでいる足並み。いや、まてよ。そっちはドフィの部屋だ。
そう思ったのより少し先に女が部屋をノックしていた。どういうことだと思っていたら、女が中に入るから少し呆気に取られる。ドアが閉まる前にポケットに入れていたハンカチを飛ばし、ドアを少し開けておく。足音と気配を消してドフィの部屋まで行き中を確認してみる。
薄目でみてみれば、ちょうど角度的にドフィがベッドに腰掛けるのが見えた。胡座をかいてるのだろうか、その間に女が膝立ちして何やら話してる。会話は薄っすら聞こえるが状況判断に神経が持っていかれてよくわからない。
女の指さしが喉についてるネクタイを解く、ドフィは相変わらず前を開けたまま。唾を大きく飲んだ、気がする。自分の中にこだました。ワンピースのボタンを取りスラリと肩から落とす。肘に引っかかった時、ドフィの褐色の手が女のホックを外した。そのまま肩紐をゆっくりとたどり軽く引っ掛かるようにして肘に滑らせた。その行動よりも、女の背に広がる綺麗な五本線が目に焼き付いた。旋律のような、定規で引いたような大きな爪痕。白く細い背中にスパッと大きくあるそれに見惚れていれば、ドフィが女に近づき軽くキスをして、肩に顔を寄せた。
ピリッと視線が合った。バレたと思った瞬間、ドフィの長い舌が女の細い肩を舐め、笑った。声は聞こえてないのに、いつもの高笑いが脳内に小さく短くこだました。サングラスの奥の瞳が鋭くなった気がして、慌てて引き扉から離れる。
ドフィは最初からわかってたのだ。



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