急な大雨でせっかくの昼寝が台無しになってしまった。しょうがないからトレーニングルームで鍛錬することにしようと部屋で体を拭いて精神統一しようとした時、ドアの向こうに人の気配を感じた。
「何してんだ?」
扉を開けて中に入れてやる。使ってないタオルを放り投げるとありがとと呟く。
「スナイプの視覚を調整してたの。そしたら雨降ってきて」
天井を見上げるから俺も見る。なるほどこの一番高い場所で確認してたら雨が降ってきたのか。通りで俺よりもびしょ濡れで重たいスナイプも濡れてると思った。
「湿気ねえのか、それ」
銃のことはよくわからないから、知ってる知識で聞けば、自分を拭いたタオルでスナイプも吹き上げる。
「うん、これは大丈夫。弾薬も慣れてないし。火薬も大丈夫そう」
聞いたことあるけどよくわからない単語を並べながら確認していく。よくわからねえが無事ならよかった。
「ありがとう。助けてくれて」
下に降りるか迷ったんだぁ。なんて呑気に呟く。
「特に何もしてねえよ」
「鍛錬の邪魔しちゃう?出ようか?」
「いやいや、まだ降ってるし。それと、邪魔じゃねえよ」
今拭いたばかりなのにもう出ようとするから止める。そう?と首を傾げて、ありがとうとまた呟く。
スナイプを抱えて壁にもたれる。それを横目に胡座をかき精神統一をする。視線を感じるが、安心できる視線だ。いい刺激だと深い息を吐いて意識を整える。
何分かして目を開けば彼女はスナイプを肩にかけ頭を預けながら見つめてきていた。
「別に面白いもんじゃねえだろ」
「面白いよ。ゾロくんのルーティンは見ていてこちらも整う気がする」
なんだそりゃ。静かにしてくれてるからそのまま鍛錬に励むことにする。暑苦しいとも筋肉バカとも言ってきたことがない。たまに俺のダンベルの一番軽い錘を借りて両手で上げ下げしてるのを見る。こいつとほぼ同じくらいなんじゃねえのかと思うほどのデカいスナイプ。亜空間を作り出せる能力のおかげで持ち運んではないようだが、戦闘時はそれを担いで、時には脇にこさえて走り回ってるから余程体力と筋力があるのだろうと思っている。
筋トレの回数を数え、最後の腕立てが終わり。息をあげながら立ち上がり、タオルで汗を拭う。黄色の瞳がこちらを向いてるから、なんだと振り返る。
「ゾロ君の精神統一は、私のスナイプに似てる」
急によくわからないことを言うから、首を傾げる
「スナイプは、打つ前に息を必ず整える必要がある。一点を狙う時も、次々と定め打ちする時も。まずはひと呼吸。自分の乱れは弾線にも出てくる」
ふぅーと深い息を出し、いつもやってるだろう呼吸を見せてくれる。ルフィのガトリングガンみたいな打ち方とは真逆。ウソップのような一点集中型。オレやクソコックも瞬発で動くから2人も援護がいると安心する。
そうか。と頷きダンベルを用意して鍛錬の続きをする。降ってる間も見学するような意識が向いてるのがわかる。あえて見聞で拾って鍛錬の足しにする。この視線の刺され方に覚えがある。なんだったか思い出せないが、よく戦闘時にチリリとでも柔らかく刺さる。望む場所に飛ばしてる針を軌道修正してくれるような。
考え方をしながら振り落としていると、その視線が途切れ始めついには途切れてしまった。ダンベルを降ろしてタオルで汗を拭いながら振り返ると、自分よりも背の高いスナイプを抱えつつ顔をもたれさせながら眠っていた。
「おい、起きろ。まだ着替えてもねえんだから、風邪引くぞ」
オレより弱っちい身体。熱ほどじゃなくても咳や鼻風邪を拗らせやすい体質。チョッパーによく薬を処方してもらってるのを見る。軽く揺すると目を覚まして黄色の瞳がオレを見る。瞳孔が黒くて不思議な気持ちになる。
「ああ、ごめん。邪魔しちゃった?」
「いや。だが、そこで寝てたら風邪引くだろ」
だが、外はまだ大雨で降ろすのも忍びない。また寝落ちしそうになってる姿にため息をついて、抱き抱える。スナイプごと持ち上げたからか、思っていたよりも重たいそれに驚く。打つ時に振動がするとよく聞くが、この重たさで振動なんて、肩の骨が抜けしまうんじゃねえか。
床に寝かしてにクッションとタオルケットを用意し、スナイプを抜き取る。やはり重たい。そういや、初めて持ち上げたがしっかりとしてて、ずっしりしてる。筋トレ増やしたほうがいいじゃねえのか。これをブレずに撃つなんて。そりゃウソップが先生だと騒ぐのもわかる話だ。
「うーん、ぞろくん」
薄らと目を開けてオレを確認する。いるから寝とけとスナイプを隣に寝かせてやると視線で追い俺に戻す。広げたままの見聞で刺さる視線。そこでふと先ほど感じていた視線を思い出す。思い出した時、ふっと柔らかく笑って眠りに落ちるから視線が途切れた。
昔感じたことがある、危なっかしいと見守る視線。その時危険が近くにないか気づかない程度に飛ばしてる目線。オレが全力を出せるように軌道修正する視線。なるほど、持ち主はお前か。
ブランケットからはみ出る手はスナイプを触れていた。安心するんだろうな。わかる
遠くから援護するのがこいつの役目だと思っていたが、オレや無茶ばかりするクルー全員を視界のうちに収めて目的ではなく、周辺全域を守備範囲とするのは伊達じゃないだろう。
先ほど見せてくれたひと呼吸には、たくさんの意味があるのだと。俺の見聞はまだまだだなと鼻で笑えば、寝ている顔が柔らかく笑ったような気がした。