カサブランカの雄大さを知る


パリンと音がした。雨が降ってきてナミが嵐になりそうと報告してくれたから鉢植えを部屋に移動させようとして手を滑らせてしまった。
「大丈夫?」
目の前で手をクロスさせて咲かせた手たちに瓦礫を集めてもらっていると、ひょこっと黒い傘が見えた。その下から大きなお目がぱちくり動く
「ええ。大丈夫よ、鉢植えを落としてしまったの」
「大変だ」
散らばった土と花たちをみて階段を登りきり私に傘を差してくれた。私のために傘を持ってきてくれたみたい
「ありがとう」
「新しい鉢はあるの?」
私より背が小さいからつま先立ちして傘を差してくれる。ほんとに、優しい子
「あるわよ。お部屋に」
「たくさん?」
「3つくらいからしら」
「どれがいい?取ってくるよ」
当たり前のように言ってくれるからつい頬が緩む
「じゃあ、赤色のやつ。お願いしてもいいかしら」
頼まれて嬉しそうに笑い、傘を渡しに渡す。手をクロスさせてるから、もう一本生やしてその手で受け取る。女子部屋にかけていく。せっかく傘を差してきたのに、それじゃあ、あなたも濡れちゃうわね
伝えた赤い鉢を見つけて両手で抱えて持ってきてくれた。はいどーぞと下に置いてくれたから、生やした手で土を入れて根っこが千切れないように花をもう一度植える。彼女も屈んで手伝ってくれた。濡れてきた服は数滴の跡を作る。髪の毛も水の粒を作っていて、今度は私が傘を差してあげる。
「ロビン、濡れちゃうよ」
下から覗く瞳が揺れる。腰を折って頭は一緒に入ってるけど、私の服に今度は跡ができ始めた
「いいのよ。すぐ乾くわ」
私の言葉に満足したのか、せっせと土を白くて薄い手のひらで入れていく。彼女の指は関節が大きくて、側から見たら細身の男性かと思う時がある。身長に対して意外にも大きな手。白い手に黒に近い土がついている。
「ありがとう。手を洗わないとね」
無事入れ替え完了した鉢を持ち上げ、彼女に伝える。彼女は自分の両手をみて、そうだねと笑った
「本についちゃう」
「本を読んでいたの?」
「ロビンの。借りてたの」
好きに読んでいいと伝えてある本たち。
その中にある神話をもとにした考古学の本があって、それを読んでいたらしい。
確か、半身の彼が住んでいた国が神の怒りに触れてしまい滅んでしまった。行き場所をなくした彼は自分の母親に国を戻すよう伝えるが、禁忌だと言われそれを犯そうとしたとして追われてしまう。行き場所も変える場所も無くした彼は彷徨い朦朧としていると、そこに1人の娘が現れる。娘は彼にご飯と水、寝床を提供した。お礼として彼は畑仕事を手伝ったりして、国の滅んだことを伝える。娘は彼を慰め朝を迎える。共に食事をし、畑を耕し、寝る。その生活を続けていくうちに2人の仲は深まり彼は生きていく場所を見つけたという話だ。
「まだ、途中なんだけどね。続きが気になるから。手を洗わないと。汚しちゃう」
部屋に鉢を置き、2人で手を洗いにいく。手洗い場を順番待ちしている彼女を鏡越しで見る。土のついた手を開いたり閉じたりして手を見つめている。なんだか可愛らしくてくすりと笑ってしまった。
「どうぞ」
「ありがと」
蛇口から出る透明の嫌いな水が土色に変わる。黒が取れた白い手を目で追う。タオルで水分を拭き取った手は少し水気で柔らかくて冷たそう。
その手を自分の手で包む。ちょっと冷えてて指先が今度は桃色
「ロビン?」
「冷えちゃったわね」
包まれたまま私のことを見つめる。大きな瞳はずっとキラキラしててムーンロードを彷彿させる
スッと私の手から抜けた彼女の手が今度は私の手をそのまま包む
「ロビンも。冷えちゃった」
ねー。と笑う
「温めないと」
「温めてくれるの?」
「もちろん。サンジくんに紅茶、もらいに行こ」
自分じゃなくて、サンジの力を頼る。可愛らしいとつい笑う
「鉢。割れちゃって悲しいね。また、今度一緒に素敵なもの探そう」
キッチンに向かって歩く途中、少し下に頭がある彼女が言う
「付き合ってくれるの?」
「うん。だって、あそこはロビンの庭でしょ?ひとつ使ったならひとつ増やして元に戻さないと。欠けてたら、寂しくない?」
まるで鉢が仲間であるように言うから、面白くなる
「ロビンの大切なものなんだから、欠けちゃダメだよ」
柔らかくて笑う。なんだかその言葉が嬉しくて、ありがとうって伝えると。彼女は嬉しそうに笑った。
「きちんと揃っていた方が、安心するでしょ。帰ってきたなって」
帰る場所。あの日失ったものは多いけど、好きな場所に自分の世界がきちんとあるということがどれだけ美しいものか、彼女は知らない間に私の身体に染み込んでくれたのだ



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