君に伝える2往復


出勤して誰かが入れてくれてるコーヒーポットから自分カップに注ぐ。うん、今日もいい香り
カップを片手にデスクに戻る。海軍・政府と分けた書類を各々整理していく。海軍のは後でいいからとりあえず政府かな。
ここはエニエスロビー。CP達が法の下に取り締まるこの地は海が上から降っていて不思議な場所。黒いスーツがたくさんいて、私もその1人だ。でも、CP達のように戦闘できる側ではなく。書類を整理する側であるから、嵐脚も剃も使えない。指銃なんて恐ろしすぎる。
もちろん、私のような書類専用の人はたくさんいて。私は人事部に所属している。また、新しいCPの編成だ。CPが上になるということは危険が増すということで。強さと共に上がる。近年、海賊が力をメキメキとつけているため入れ替わりが早い。悲しいことだ
あちこちの部署を経由して仕事を進める。お昼を回っていたが、食べる時間が惜しい。今日はお昼食べれたらでいいかな
「お。久しぶりじゃの」
のんびりと古い方言のような言葉が上から聞こえる。任務遂行率90%を誇る、鼻の形が特徴的なカクくん。
書類を見つめながら歩いていたから、わからなかった
CPになってまだ数年しか経ってないのに、彼の実力はどこの部署でも話題だ。人懐っこさも相まって人気もの。
「覚えててくれたんですか?」
「わぁ、敬語とか。やめじゃやめ」
嫌そうな顔をして手を払いのけるように振る。
「カクくん、もう立派なCPだからね」
「おーおー、そうじゃ。わしゃ、立派じゃからな」
カクくんとの初めての出会いは、それこそ彼が研修生からCPに引き上げられる時に私が伝えに行ったのがはじめ。鼻が特徴で人懐っこさをその時に体感した。でも、その瞳は笑ってなかったのを私は見逃してない
「何か用かの?」
CPの廊下を歩いていたから、きっと疑問に思ったのだろう。
「えぇ。辞令を」
「もしかして、ワシか?」
鋭い。笑って目で伝えると、そうかそうか。と頷き顎先まであげているジッパーを片手でいじりながら腕を組む。
「ゆっくり話すやつかの?どうじゃ、今からコーヒーでも」
「ありがとう。そうしようかな」
別に話すことはなかったし、移動の報告は彼のリーダーに伝えるものであるけど。なんとなく話した方が良さそうな気がしたから誘いを受けることにした。
「ほれ」
手渡されたコーヒーを飲む。うちの部署より濃い。いい豆使ってる
2人で人気の少ない廊下を歩き壁につくように設置されてるベンチに座る
「それで。わしはどこにいくんかの」
ううん、私が話した方がいいのだろうか。まあ、数日経たないうちに彼のリーダーから伝わると思うから、いいかな
「9だよ。昇格おめでとう」
ホットコーヒーを両手で掴み、告げる。
9。法律を超えて市民までも殺害を良しとされる。暗殺部隊たち。法の下で動いているのに、おかしな話だ。
暗い部門に行くということは、私の管理下から離れることを意味する。彼と会うことはきっともうない。
「また、リーダーから伝わると思うけどね」
カクくんは何も言わずに前を向き、コーヒーに口つけていた。キャップのつばのせいで瞳も見れない。長い足は前に投げ出して爪先が天井を向いている。嵐脚が得意の彼。その脚でこれからどんな人たちを殺すんだろう
「嬉しくないの?」
意地悪したかもしれない。そう思って、遠慮気味に顔をのぞいてみた
「そうか。わしも出世したもんじゃのぉ」
何を思っているのかわからない口調。読まさない。正解だ。でも、私は人事部。見逃さない
「少し、戸惑ってる」
視線を彼から正面の窓に向ける。空は蒼くて終わりなんてなさそうだ
「・・敵わんのぉ。どう受け止めるのが正解なんじゃろうな」
独り言のように呟く。君の実力は知ってるし、だからこその抜擢だ
それでも、暗闇に行けと言われて何も思わない人なんているのだろうか
「行くしかないがの」
ため息をつきつつ壁にべったりもたれる
「9になれば、私の管轄外だから。もう会えないね」
先ほど思ったことをそのまま伝えてみれば、カクくんは少し考える顔をする
「そうか。それは、寂しくなるな」
最後が小さくなる。そう思ってくれるなら、嬉しい限りだ。たった1回しか、会話してなかったのに。今も覚えてくれてるのだから
「覚えておるか。アンタがオレをCPに上げたんじゃ」
辞令通知を渡す時を思い出す。通知の紙を渡し受け取った彼が少し固まっていた。幼いながらに努力した彼を私は少し笑って伝えた
「君の脚は鋭い。だから、頭も鋭い。そういう人を世界は欲しがる」
カクくんが同じセリフを言う。覚えていたのか。ふとした会話だったのに
きっと、研修生をみる先生たちからの方がいい言葉をもらっただろうに
「今も、欲しがってくれるんか」
飲み終えたコーヒーカップを片手に私を見つめる。飲み込まれそうな眼に喉で息が止まる
カクくんはカップを右横に置き、両手をこちらに向けてきた
長くわりと厚い指先が私の心臓近くを通る
「欲しがってくれるんなら、行かなきゃな」
若い口調で、私のネクタイに触れて離す。ネクタイをみる
「少し、曲がっておった」
カップを口につけ傾けながら、教えてくれた。ありがとう。でも、その中身は空のはず
「エニエスロビーにはおるんじゃろ」
たぶん。
「その時、会えたらいいね」
私も中身を飲み干して立ち上がる。この辞令はまた後でリーダーに渡そう。カップを彼に返して部署の前では別れた。


配置換えで久しぶりについたのは、マリージョア。人事の仕事として聖地にあげてもらうのは2回目。今日は世界会議のことであげてもらった
相変わらず綺麗な建物たち。そして、少し目を逸らしたくなる奴隷。人を犬のように鎖で繋いで散歩させてる。天竜人と目が合った。やばい
なんとなく目線を外す。近寄ってくる気配がする。冷や汗が出る。あの笑顔、よろしくなさそうだ
バッと布がはためく音がして目を瞑って開ける。首を下にしていたから目線は下。磨かれた白い綺麗な革靴が目に入る
「久しぶりじゃの」
聞き覚えのある声がして目線を上げる。特徴のある鼻だ
「びっくりしたわい。天竜人が妻探してしているあるのに女が1人突っ立っておるから、誰かと思えば」
なるほど。世界会議で質のいい王族を狙っていたのか。なんてことだ。
私を抱えてどこかの裏路地に着地してくれたみたいだ。抱えていた荷物を少し直して向き合うと、首から垂れる彼のスカーフが目の前に広がる。あれから身長が伸びていた。彼はわりと近くにいて驚いて踵が上がる。そこで気づく。白い制服、片手には仮面
「・・イージスになったのね」
私の管理下から外れて、何をしているのか。生きているのかもわからなかった。
「大出世じゃ」
あの頃より声も少し落ち着いてるように思える
私が関わることさえも許されない。ましてや、仮面の下を見るなんて。それでも伝えたいことは一つ
「生きてたのね」
安堵の口調で伝える。彼は少し黙って笑う
「当たり前じゃ。誰だと思っておる」
相変わらずの調子に胸が降りる
「まだ、必要としておるらしいからな」
簡単には死ねんわい。キャップからハットに変わったツバを整えて、仮面を付け直す。線引きだ
「また、ね」
きっとないとわかっていても、伝えたかった。彼は少し黙る。生理現象の瞬きをすれば、彼はいなかった。質のいい靴なのに音さえ一つもない。また実力が上がったみたいだ。人事部として嬉しいことない。誰もいなくなった路地から見える空は蒼くてやっぱり終わりがなさそうだった。



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