青いトランシーバーの先で待ってる


昼食後のコーヒーを飲み、香りと口に残る風味の余韻に浸っているとドアがノックされる。
返事を後に入ってた彼女は少し神妙な顔をしてる。言いたいことはわかっていた。
「海軍に、なるんだって」
聞きまして。小さな声で呟くように話す。目を合わせないのは気まずいからか。
「ああ、潜入だ」
「そ、れは」
あなたじゃないとダメなの。話してないのに聞こえてくる。ドフィの案を蔑ろにしないのはお互い様だ。だから最後まで話せない。
「お前は、ドフィの元で」
「はい」
短く返事をするが、いつもの覇気は全く感じない。強姦に襲われていたところを助けた。気づけば俺のそばにいて、俺の覇気を伝授されて、俺の補佐をしていた。
こいつと俺の根本的違いは、ドフィへの崇拝だ。
ドフィがボスだから言うことを聞くのと、ドフィが王だから言うことを聞くのは全く違う。ドフィを見つけた俺とは違って、俺に助けられ、俺のために動く。ドフィはこいつのために使えそうな超人系の実を食わせた。覇気も相まってそこそこ強くなった彼女は、いつだって俺の役に立とうと今もここにいる。
コーヒーを飲む。香りが深い。ドレスローザの豆は酸味が強いものが多い。太陽が強いからだそうだ。彼女が教えてくれた
何も言わないから、目線だけ彼女に飛ばす。伏せ気味の瞼の奥には瞳が光ってる。話したい言葉を飲み込んで唾が喉を通ってるのを眺める。
「いつから」
「割とすぐだ。また入隊書類が届くはずだ。見習いからする」
「ヴェルゴさんのような新人はきっといません」
「だろうな」
「貫禄が違います」
ふふと笑う。この部屋に来て初めての笑みだ。いつも気にしてなかったが、笑顔なしで過ごすの初めてではないだろうか。
コーヒーカップが半分になったのを見て、部屋にあるポットを温め直し、お湯を作る。その間、新しい受け皿を用意して濾紙を用意して豆を落とす。
「ヴェルゴさんの好きな豆は、オーガニーナです」
コーヒー豆の香りが漂う中呟く。背中が小さく見える
「ドレスローザ特有の酸味が特徴です。さっぱりしてますが香りが深い。ちなみに、あなたが好きな飲み方はブラックではなく、エスプレッソです」
柔らかく微笑みこちらを向く。
「エスプレッソの入れ方、教えましょうか?」
悲しそうに笑うから、少し止まる。
「向こうにも、マキネッタがあればいいのですが。持っていきますか?水洗いのみです、香りが全て落ちますから」
カポンと蓋のような部分を開ける。それを使って、どれくらいの年月が過ぎたのだろうか。
まだ少女だと思っていた彼女がいつのまにか、女性になっていた。その台に立つ姿を見て気づく。彼女の背に見える台はそんなにも低かっただろうか。
「いや、いい。また帰った時、淹れてくれ」
俺の答えに驚いてからすぐ笑って、承知しましたと呟く。豆をセットして抽出して俺の前に出される。長いようで短く感じた時間は、こんなにも特別なものだったのか。
デスクの上に置かれたコーヒー。エスプレッソは相変わらず香りが高い。口に含めば、クレマがそっと口に溶ける。ああ、美味い。
「惜しいな」
俺の呟きに瞬きをしてる。
「お前のコーヒーを、毎日飲めないなんて」
下を向き固まる。下を向いたことで瞳が下を向く。光っているのは相変わらず。
「ひとつ、わがまま言っていいですか?」
珍しい。なんだと聞いてやれば、潤んだ瞳でこちらを向く。なぜか時が止まったように思えた
「私のこと忘れないで、ください」
悲しそうに呟く。忘れるわけない、ファミリーだ。ああ、と短く呟けば少し口元を閉じては動かして頑張ったように言う
「私こと、いつでも必要だと言ってください」
二つ目だぞ。野暮なことは言わなかった。ただ、その言葉が、その言葉を言う彼女がなぜか脳裏に焼き付いた気がした。いつの間に、そんな綺麗になったんだ。
「もちろんだ。今も、これからも、お前が必要だ」
俺にとってドフィは王である。お前にとっての王は俺なんだろう。王を持つ俺が王になるのもおかしな話だが、嫌な気はしない。ふっと微笑めばたらりと一筋の涙が頬を滑った。あまりに綺麗なそれを落としてはならないと席を立ち、彼女のそばに近寄る。拭ってやればいつかの面影を思い出す。その時から変わらない瞳の光。ドフィが俺の希望のように、お前は俺が希望なんだな。



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