「あの」
女の声がして振りかえれる。大きな瞳がこちらを見つめている。目がハートになりそうなのを抑えて、なんだと伝えれば
「あなたのですか?」
差し出してきたのは俺の指。ん?落としたのか。両手をポッケから出して目の前で広げれば、薬指がない。左手の
「ああ、悪い俺のだ」
受け取った時に触れた手のひらの柔らかさにときめく。白い肌だ、黒いシャツとスーツが肌の白さをもっと強調してる。首元に垂れるピンクのネクタイにはモルガナイトが光る。あまりにも見つめていたからか、恥ずかしそうにラウンドバンクの薄い前髪の裾を人差し指で払ってる。下を少しついてるのがいじらしくて胸が高まる。
機械の指が落ちたことを驚かないとは、肝の座ったいい女だ。顔周りの髪の毛から見える頬が紅い気がする。絶対そうだ。俺の視界が間違うわけがない。イチジやニジはこの高なる胸を知らずに生きてる。故障を疑うんだから、笑っちまう。
「機械、なんですね」
スッと通る声だ。女の声だが、低めで耳が痛くならない。柔らかく微笑む姿にまた、胸が鳴る。
「ああ、俺の最高傑作だ」
自分で生み出し組み込んだサイボーグ。伸びる腕も指も便利で、パワーも出して仕舞えば向かう敵はない。
「興味あるのか」
「えぇ、まあ。知り合いに義手がいて」
「そうか、かわいそうにな」
鼻で笑ってやれば、女はまた柔らかく笑った。なんだ、怒らないのか。拍子抜けしていると、手のひらに転がした欠けた指を見つめてくる。
「配線など工学は苦手なんですけど、面白いですね」
珍しい女だ。怖がりもせずに見つめてくるなんて。大きな瞳が俺の手のひらを重視する。少し前屈み気味になってるからか、こいつより背の高い俺からはつむじと背中に組んだ指先が見えた。ミディアムヘアの小さなローポニーテールの毛先たちが背中のスーツに擦れて跳ねていた。
「どんな義手なんだ」
「いつも革手袋をしているので、詳しくはわからないんですけど。メタル調のだった気がします」
それだけの情報じゃなにもわからないが知る気もないから、そうかとだけ伝える。
「なにか好きになることはなさそうですが、戦闘時をみたことないものですから」
ほう、戦いとは言わずに戦闘を使うか。伊達じゃないのか。シワひとつないスーツを着てる時点で一般人ではないだろう。世界政府のものでも、海軍でもなさそうだ。となると、裏の住民か?
それではと一礼しそうになるから、拾い物のお礼でもと誘ってみたが、柔らかく笑って首を振る
「嬉しいですが、もう行かなければ。主人が待ってるんです」
怒られちゃう。なんて可愛らしく言うから抑えていた目がハートになった
「素敵な人に誘われたのに、残念です。また、会えましたら、その時に」
ふふと笑って一礼する。サイドバングがたらりと揺れる。俺を横切って通るとき、微かに、いや俺の鼻だと明確に甘い香水とタバコの匂い。おいおい、いい香り纏ってんな。俺の鼻が鳴ったのを聞き取ったのか横で俺を見る。わかっているのか、癖なのかチロッと舌先を見せて唇をなぞるように舐めた。いい女だ、スーツ越しで見える細い腕を掴もうとしたら手のひらに感触。俺の薬指。これは、運命なのか。そう思った時胸の鼓動がドグンと大きく唸る。なんだ、エラーか。胸に手を当てた時女はもう遠くて。ああ、いい女だったのに。また、会えたらそのモルガナイトとネクタイをエメラルドとグリーンに変えてやる。