「忘れたくないことほど、夢に出てくるの」
他人の記憶を書き換えは私を兄弟は便利だと笑った。
「やだなー、もー」
ため息一つ漏らせば遊びに来てた姉が私のチョコを食べながら首を傾げる。
「また、記憶を消して作り直していくなんて。スッゲェめんどくせぇ」
「プリンちゃんだけができることだよ」
頬杖つきながら私のチョコを頬張る。柔らかく微笑んでくれる。ママが他の兄弟たちとワノ国に乗り込んでいった。ママがいない時に起こる面倒ごとを兄弟たちで解決していく。その時に起こる記憶を消したり消さなかったり。本当に面倒。
「でも、プリンちゃん。自分のことは消さないのね」
今度は私が首を傾げる。姉さんは柔らかく微笑んでまた、チョコを頬張る
「自分にだって、嫌な記憶たくさんあるでしょ?それを消さずにいるんだもん。いい子よね」
「は、はぁ〜?私がいい子〜?バッカじゃないの?」
「照れなくていいよ。ほんとのこと。私はお姉ちゃんだからね」
「なんだそれ。自分の記憶を消すのは難しいからイヤなんだよ」
「じゃあさ。簡単に消せるとしたら、消したい思い出は何?」
そう言われると黙ってしまう。揶揄われた過去、ママの言葉で傷ついた過去、失敗して恥ずかしかった過去。イヤだった過去。忘れた方が幸せな過去。
「たくさんあるわ。でも、それって消していいものなの」
「たとえば?」
「例えば、意地悪されたこととか、イヤなこと言われた時とか」
「消したくないの?」
「消したら、消したら私じゃなくなっちゃいそうで」
「プリンちゃんは強い子ね」
「は?」
「普通は消すものよ。でも、自分であるためにそれらを全て抱えていくなんて。強くないとできないわ」
「強くなんか、ないわよ」
「どうして?」
「だって、私。一番大切なこと消したもの」
消えそうな声。あの時の判断が合っているかなんて私にはわからない。
「それは、プリンちゃんが忘れて欲しかったことなの?」
「わからない。でも、消さなちゃって」
「どうして?」
「どうしてって、そうしないと前に進めないと思って」
「ん?それはあなたが?相手が?」
「サンジさんが・・あっ」
ついうっかり溢した単語。咄嗟に口を覆ったけど遅くて。姉を見つめると、少し驚いた顔をして、フッと息を漏らしたのを合図にハハハっと笑った。
「そう、そうなのね。プリンちゃん。アナタ、大事な人ができてたのね」
「な、なによ!」
「ふふふ、ちょっと安心」
「は、はぁ?」
「バカにしてないよ。姉として安心したの。人を好きになれる子でよかった」
紅茶を飲んで落ち着いたのかいつもの柔らかい笑みをこぼす。
「黒足の記憶を消したのね。何かあったの?」
「別に、なにもないわよ!」
「そう。まあ、内緒よね。そういうのは」
ごめんごめんと軽く謝ってまたチョコをひとつ
「大事な思い出よね」
姉の言葉はなんだか猫じゃらしみたいでくすぐったい。少し俯いて、チラリと姉を見る。相変わらず私のチョコを食べながら私を見つめる
「大事な、思い出」
「そうよ、そういう記憶って自分が思ってる以上に厄介で面倒で愛おしいのよ」
「なによそれ」
鼻で笑ってやったのに、姉は変わらず微笑んでる。膝の上を見つめて、手を握る。そういう記憶が私だけに残ってる。
「忘れたくないの」
ポツリと溢した私の言葉を姉は言葉にせずに姿勢で拾ってくれる。
「でも、忘れないといけなくて。そう考えると夢にも出てくるの」
姉は何も言わない。握り合った手のひらを見つめる。自分の手同士じゃなくて、彼とこうしたかった
「忘れたくないことほど、夢に出てくるものよ」
姉の声がして頭を上げた。紅茶をゆっくり見つめながら呟く。
「忘れたくないと、脳に焼き付けようとしてるから出てくるものだと思うの」
紅茶から姉に視線を移す。目が合って柔らかく微笑まれる
「誰かを思ってのことなら、尚更。プリンちゃんは優しいね」
同じセリフなのに、顔が熱くなってニヤニヤする口を押さえるの必死で口を閉ざしてしまった。言い返したくても言い返せなくて。でも、私のこの思いと姉の言う言葉が今の私には羊の毛で編まれたブランケットみたいで。あの日の私のことを少し、慰めてもいいかな。なんて、初めて自分のことを大事にできた気がした。
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