「ねえ、ちゃんとこっち見て」

柔らかい雪が降る海域に入り、寒いと身震いをひとつして手のひらを空に向けた。やはり雪が降ると人は手のひらに結晶を乗せざるを得ないのかもしれない。ふわりと舞う雪を目線であっていれば、甲板の手すりに座って見上げてる浅瀬色の瞳。グレージュの髪の毛が風に煽られて曇天に馴染む。
「雪は久しぶりかしら」
私の声で私の存在に気づいた彼女はゆったりとこちらを見る。やはり冬島出身だからかこの冷え切った空気をものともせず上着一つ羽織ってない。薄手のトップスにあったかそうなカーディガン。でも、それだけじゃこの雪を乗り越えれないでしょ
「風邪ひくわよ」
全くとため息ついて上着を取ってこようとするけど、私の話を聞いてなさそうな彼女は空ばかり見てる
「なぁに。降ってる雪は珍しい?」
「はい。珍しいです」
あら、意外な答え。積もりすぎて本当の地面の低さに驚くくらいな場所で生まれ育ったのに。ふわりと舞う雪を変わらず追いかけては眺めてる姿で話す。
「柔らかく降るのは珍しいです」
「あぁ、そうね。吹雪だったものね」
「痛くない雪は初めてかもしれないです。それくらい昔のことです」
話すたびに鼻が赤くなって息が白くなる。白くなった空気が曇天を舞っては消えていく。まるで幽霊みたい
「昔って、そんなに老いてないでしょ」
腰掛ける隣で腕を組んで甲板に乗せる。マリンブルーは深く、冬島が近くなってきたのがわかる。
「冬島は好き?」
「べつに」
「ルフィは好きよね、冬島」
いやっほーいと伸びて楽しんでる船長を眺める。
「ルフィはなんでも好きです」
「そうね。じゃあ、あなたは?好きなものは何?」
「なんでしょう。考えたことないです」
「なによそれ、つまらない。サンジくんのこのご飯が好きとか、この時間が好きとか。そういうのないの?」
「そういうのを作らない環境にいましたから」
「そうね、でも、作っていいのよ?いまは」
呆れちゃう。頬杖ついて斜め下から彼女を見れば、意外そうな顔をしてこちらを見る
「いまは」
「そう。どんどん作っていかないと。楽しいことも見逃しちゃうわよ」
浅瀬色の瞳は今日も綺麗。薄いグレージュの髪の毛と白過ぎる綺麗な肌が相まって今すぐにでも消えちゃいそう。血色だけはサンジくんのおかげで映えているからなんかの芸術品みたい。
「ナミさんにもあるんですか?楽しいこと」
「そりゃ、あるわよ。あのアホどもみてるとやっぱり楽しいし、ロビンとお買い物するのだって楽しい。アンタ綺麗だから着せ替えするの楽しいし」
ふふと笑えば首を傾げる。甲板ではチョッパーとウソップがルフィと一緒に降り注ぐ雪を追いかけてる。あんな口開けちゃって、食べれないでしょーに。昼寝するゾロ、読書を楽しみながらブルックの音楽に酔いしれるロビンにホットドリンクを差し出すサンジくん。操縦席で語り合うジンベエにフランキー。
「いつもほんっとにぎやかね」
そう言うけどやっぱりこのスタイルが安心する。ああ、と短く声がして浅瀬色を見れば目が合う。
「見つけましたよ、好きなの」
「え、なになに」
ちょっと乗り上げて問い詰める。浅瀬色が深くなって溺れそうだ。
「ナミさんのその顔」
「へ?」
「みんなを見つめる時、呆れてるのにふわっとしてる。この雪みたいです。これは冷たいから違うけど」
それ、どういうこと。なんていうのは彼女より世界を知ってる私に取ってはすんなり理解できて。でも、やっぱり理解ができない。わかってるのにわからないと脳が叫んでてパニックだ。溺れそうな浅瀬色がこちらを深く見つめてくるから、咄嗟に目を逸らす。
「ねぇ、ちゃんとこっち見て」
もう一回見たいなんて、なんて。今ぜっったい顔が赤いからムリ!!!