「案外優しいのね」
海底監獄から抜け出してダズと航海をするようになって2年経つ。あの穴蔵では吸えなかった葉巻を存分に吸えるようになって気分がいい。
またまた立ち寄った島に葉巻専門店なんて珍しい店があったもんだからダズをお供にふらりと立ち寄る。バーガンディの絨毯に淡い黄色の光、試しができるのか少し煙が舞う店内。見渡せばわかるほどいい葉巻が置いてある。奥から店員が現れて綺麗な一礼をする。
「いらっしゃいませ」
「おすすめの葉巻はあるか」
「好みは?」
「深いのがいい、香りは格別。苦味より渋みだ」
そう伝えながら自分のシガーケースを取り出す。いつも吸っているのを見せれば、なるほどと呟き
「良い舌をお持ちで」
柔らかく微笑む。光が柔らかく反射して仕立ての良さがわかる。バーテンダーみたいな格好してベストからはみ出るベルトに掛けたポーチからは葉巻に使う鋏がちらりと見える。
「お待ちください」
そう言って奥に引きこもっていく。少し待てば店内を象徴するバーガンディ色のベロアが敷いてあるトレーに数本葉巻が乗っている。目の前のローテーブルに置いて膝を折る。ブラックオニキスが光を全て反射している。
「お待たせいたしました。こちらから、ノーバンデリー、グロ・ムージュ、レッケロン・ドゥロチェバーナ、ヤフェットになります。先ほど拝見しました愛煙と同じブランドのもご用意しております。こちらのが少し渋みが強いですが香りはお客様のが一番です」
「ほう」
「試されますか?」
「ああ」
「ちなみに、当店のような葉巻専門店には行かれたことがおありで?」
「いや、ねえな」
「でしたら、最初からお伝えいたします。まず、吸わず手に取っていただき、葉巻の感触、そのものの香りを楽しんでいただきます。そのあと、お試ししていただきます」
「手順があるのか」
「まず、そのものが大事です」
女は軽く俺の方にトレーを向けてくる。紹介があった順で手に取り鼻に寄せる。
「今の中でなら、この香りだな」
「ノーバンデリーですね。さすがです。一番香りが芳醇です。鼻筋にスッと入るようなスパイシーが特徴です」
試しますかと聞かれて頷く、先ほどから覗く鋏を取り出すとテキパキと葉巻を切り揃える灰皿やトレーを側から取り出し、パキンと切り落とす。上手だ
「どうぞ」
受け取り口に加えればマッチを擦る音。目の前に持ってきて葉巻に火をつける。ひと呼吸してまず火を灯す。その後もう一度深めのひと呼吸。なるほど、美味いが香りだけが舞っていて味がしっくりこない。
「いかがですか」
「香りだけが口に舞ってるだけだな。肺に入ってるのも、吐き出すのも軽い」
「なるほど。次はどれにされますか」
「順にもらう」
「承知」
次のを準備してもらってる間、ダズに話しかける
「お前も試したらどうだ」
「オレですか」
「さっきのやつ、残ってんだ。勿体ねえ。オレには合わなかったが、そこらのより上等だ」
「はぁ・・では」
女は俺とダズのやり取りを微笑みながら見つめて、ダズに灰皿を向ける。
「ケッホケホ」
「ハハハッ、お前にはまだ早かったか」
「ゲホ」
恥ずかしいのか咳払いなのか咳をする。女は黙って灰皿をダズに差し出して葉巻を受け取る。
「オレは無しで大丈夫です」
「ハッ、そのうちだな」
「どうぞ」
会話が終わりそうな頃を見て葉巻を渡してくる。渋いが香りが消えそうなモノ、火をつければ違った香りだったモノ、味が好みではなかったモノ。俺の感想を聞いて新しく取ってくる。
「これだな」
「かしこまりました。何本ご用意致しますか」
「航海に尽きるからな」
「必要でしたらこちらに電話ください。ご用意します」
「船の上でか」
「今時、空の便があるのですよ」
「ほう。それは便利なこった」
「ビブルカードが顧客控えの代わりとなります。いかがされますか」
「頼もう」
俺の言葉に少し目が開く。見逃すほどの変化だが
「なんだ」
「元王下七武海様が居所を知らせるモノを渡してくれると思ってませんでした」
「ハッ、よく言うぜ。俺の腕に何も言わなかってくせにな」
「大事なお客様です」
「口達者だな」
「商売ですから」
「ビジネスが通じる奴は嫌いじゃねえ」
「光栄です」
「今回は5ダースもらう。減ったら連絡する」
「かしこまりました。ただ、空便の場合は数が限られますので、お早めに」
「ああ」
ダズにビブルカードの制作を目線で寄越す。頷き用意を持ってくる。女が準備を他の店員にお願いしてベリーの支払いをする。
「お待たせしました」
「ああ。おい、これだ」
「ありがとうございます。こちらが当店へのログポースとなります。何かありましたらお立ち寄り下さい。待ってます」
女は一礼して奥に引っ込んでいく。並べられた残った葉巻の数。勿体ねえな。どれも上質だ
「オレも吸えればよかったのですが」
「無理すんな。味わえるようになった時に付き合え」
女は準備ができたとダズに伝え、ダズが奥に受け取りに行く。暗めの店内では女の瞳は黒くて何色かわからない。立ち上がった拍子に俺を見上げる形になってやった女の瞳がネイビーであることを知る。
「案外優しいのですね」
「ハ」
「彼にです。吸えない人に気を使うとは思えなかったので」
「言うじゃねえか」
「あなたの株が上がってます。おまけしますよ」
そう言って俺が選ばなかったが気に入っていた葉巻を1ケース入れてくれる。
「さすがだな」
俺の呟きに瞬きして、柔らかく微笑む。
「商売ですから」
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