「あんたといると、退屈しないな」
海列車に乗り込んで降り着いた駅は水の都。島全体が噴水みたいになったここは造船が有名で、あちこちから船を作る音が響く。
「で、何しに来たんじゃ」
街の広場を見渡せるテラス席でランチのサンドイッチを頬張っていたら久しぶりに出会う鼻の長い彼がドカリと目の前に座った。
「ん?聞いてない?ああ、君に用じゃないからね」
「なんじゃ。ルッチか」
「いいや?2人とも関係ないよ。任務ご苦労様」
「監視がてらと思ったんじゃが」
「んん。そんな暇じゃないんだな。これが」
「ワシらが暇みたいに言うな」
「失礼しました」
たまごサンドを飲み込んで、口を拭う。ご馳走様。食後のコーヒーを嗜んでいれば目の前のカク君は腕を組んだまま動かない。長い脚が私の足の間に交互に挟むように伸ばしてて、いざ動きたくても片足を捕まえるのが見えるから長居することにした。さすが、CP-9さん。管轄外だけどね
「それで?ほんとうに何しに来たんじゃ」
「言わなちゃダメ?」
「命令してやろうか?」
「君から命令ってされたことないな」
「場所が違うからの」
「してみてよ」
お行儀悪いけど両肘ついてコーヒーカップを両手で持ち上げる。フーフーと冷ましながら伝えれば、なにか困惑した顔。元上官には言いずらいのかな
「どんな命令でもええんじゃったら」
「ん〜?たとえば?」
「それを聞くか」
「無理にしなくていいけどね。一応聞いておこうかな。最近どう?」
「ボチボチじゃ。まだなぁんの手掛かりもないわい」
「そっか。大変だね」
「なんじゃ、ワシらの任務内容を把握はしてるのか」
「いいや?任務でこっちにいることだけは勘でわかるよ」
「いい勘をお持ちじゃ」
「君には敵わないよ」
「そうかそうか。それで、話を逸らしてるようじゃが、何しに来たんじゃ」
「あら、話戻しちゃう?」
「確かに、命令を出すことはあまりないな。いつも上官からのお達しばかりじゃ」
「一番下っ端だと苦労するね」
「まだまだ若いからの」
「期待の新人だもの。頑張ってもらわないとこちらが困る」
いつのまにかカク君は自分のコーヒーを頼んでて、店員さんが持ってくる。食べ終わったお皿を下げてもらってコーヒーソーサーを手前に持ってくる。
「では、命令してみようかの」
カクくんがポツリと呟く。帽子をかぶって首までジッパーがあって、目線だけしか見えない。何を企んでるのかな。言ってみなよとコーヒーカップを移動させたソーサーに戻して、片肘で頬杖をつく
「何しに来た」
腕を組んだまま呟く。君の命令初めて受けたけど、さすがCP-9さん。貫禄が違う。君、私の手元離れてからそんな経ってないはずなんだけどな。
目線はズラさない、姿勢も。口は見えない、瞳の形だけ見える。微笑んだままの口を保って君の命令を聞く。ふふ、降参。
「カッコよくなったね」
「は」
呆気に取られたような声がジャージからくぐもって聞こえる。
「君の様子を見にきた」
「なんじゃそれ」
「ほんとだよ。今日は休暇。君たちの任務状況じゃなくて、君のことを見つけにきたの」
頬杖ついて瞬きをゆっくり一つ。スローモーションに見えるように。口元も同じくらいゆっくり動かす。カップの縁を人差し指でゆっくりなぞる。彼の目線は私からそこに映る。
「会えてよかった」
笑って伝えれば、数秒して彼からため息。そして笑い声
「ハハハッ!敵わんな、ほんと。なんじゃ、ワシに会いにきたんか」
ハァーとひと呼吸して私を見る
「あんたと居ると、退屈せんわい」
「それはよかった」
彼のコーヒー代もついた伝票を片手に立ち上がる。彼はコーヒーがまだたくさん。私はカラ。
「君の笑顔が見れて満足。またね」
手を振れば軽く振られる。
さて、彼は私の内情をどこまで把握できたかな。
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