「約束は、必ず守る」

「何事だ」
騒ぎを聞きつけてその場に向かってみれば、フランペの右頬が真っ赤に腫れ口内を切ったのか血を流していた。吹き矢を得意とする細い腕は肘から下が折れて見える。スムージーが焦り、ペロス兄が何やら落ち着かせようと叫んでいた。泣き叫ぶフランペを見てから対極面にいる妹を見る。不思議そうに首を傾げる妹の両手にはフランペの吹き矢が真っ二つに折れており、折った先端をフランペに向けている。
俺と目が合えば嬉しそうに笑って近寄ってくるから、刺激しないように片膝ついて目線を合わせる
「カタクリお兄ちゃン」
「何があったんだ」
「悪イことしカラね。叱ったノ、妹を叱ルのは姉の務メでショ?」
「フランペは何をしたんだ?」
「カタクリお兄ちゃンに、意地悪したでショ?」
「おれに?」
「麦わラとの闘いを邪魔しテ、お兄ちゃンの顔を笑っテ、ばら撒こうとしたでショ」
「そうか、俺のために怒ってくれたんだな」
「そうなルの?妹が悪イことしたラ怒らないと」
ねー、なんて相変わらず舌足らずの口調にギザギザの歯をニヒと見せながら俺に笑う。ペロス兄に目線をずらせばアイコンタクトが飛んでくる。小さく頷いて目の前の妹の頭を撫でる。
「そうか、ありがとう。だが、やり過ぎだ」
「そうカな」
「ああ、武器を壊すのは良くない。俺だって自分の武器が壊されたら困る」
「困ルの?」
「ああ。とにかくそれはもう使えないだろうから捨てておけ」
俺の言葉に両手の折れた武器を見つめて、ポイと捨てる。ペロス兄が安堵の息を漏らしたのが覇気で分かった。俺も少しため息を出した時、ふと思う。いつ俺の素顔を知ったんだ?
「俺の顔を知っているのか」
「知ってルよ。いつも美味しそうにドーナツ食べてル。いいなア、私モ食べたい」
「まて。ブリュレなら鏡でわかるが、なぜお前が」
「リユウ、聞くの?」
ふふんと変わらずの笑みを向けてくる。
「知ってルことは知ってルよ。私、お兄ちゃン大好きだカラね」
「そ、れは」
「ブリュレお姉ちゃンが鏡でお兄ちゃンのメリエンダ覗いてルのも。マスカルポーネお兄ちゃンとジャスカルお姉ちゃンが一緒にお風呂入っテ一緒に寝テるのも、クラッカーお兄ちゃンの素顔モ。アマンド姉ちゃンがいつかナッツ島を国ニしたいことモ」
それカラと続けようとするから慌てて撫でてた手で口を覆った。冷や汗が出る。集まってた兄弟たちも焦っているのがわかる。だが、俺が焦るのはそこじゃない。なぜ、覇気が通じない。この暴露がわかっていれば抱きかかえて連れ帰ったのに。妹を見るが不思議そうな顔をして、大きな瞳を俺に向けてる。目があったから嬉しそうに笑う。背筋が少し凍る。まるで溶けた苺ジャムみたいな、どろりとした何か。抑えてた手を叩かれてどかしてやる。ニヒと笑う。
「私、なんでも知りたイ。みんなのこト大好きだカラ。ね?今度ネ、みんなの味ヲ知りたいノ」
スムージーにその瞳が向けられてスムージーが固まる。意識を俺に向けるように肩を掴めば俺を向く。
「そうか、なら。まずは俺のメリエンダを味わうことだ」
そう伝えて抱き上げる。同じくらいの目線になった妹は嬉しそうに笑う
「嬉しイ。一緒に食べテいいノ?」
「ああ。今日は特別だ」
「ドーナツ、大好きだカラ嬉しい。そのあと一緒ニ昼寝シヨ」
「昼寝か」
「いつも横ニなっテ食べてルよね?」
なんでそんなことまで。いや、とにかくだ。耳元で会話していたからいいものの公に話されては困る。抱きかかえてそのままその場を離れる。ペロス兄が冷や汗かきながら頷くのを見て俺も頷く。ああ、任せろ。
「私とノ昼寝いやダ?」
「いや、そんなはない。俺が寝かしつけしてやろう」
「ほんと?約束ネ」
「ああ、本当だ。約束は、必ず守る男だ」
俺の返答に満足したのか嬉しそうに笑って俺の首元に抱きつく。かわいい手には真っ赤な血。
まずは食べる前に手を洗うことから教えてやらねば。