「必要としてくれるなら、どこへだって行く」

愛しいの彼の元へ急ごうとドレスローザから出航しようとしたら嫌な影を見つけて立ち止まる
「ちょっと、邪魔しないでよ」
「もー、ベビちゃん。勘弁してよー」
めんどくさそうに腰に手を当ててこちらに向き直る。急いでるのにこんなところで足止め食らうなんて。くそ、もっと慎重に動くべきだった。若様に悟られないように頑張ったのに
「ベビちゃん、彼はダメだよ。君のこと愛してないよ」
「なによ!失礼じゃない」
「失礼じゃないよー、もー、何回目だよー。彼はベビちゃんを利用して若様に近寄りたいだけだよー。なぁんでわからんのー」
至極めんどくさそうに語尾という語尾を伸ばしながら話しかけてくる。
「あなたこそ、何がわかるのよ!」
「わかるよー、その相手のこと調べたの私だもん」
「なっ!プライバシーよ!」
「いやいや、ベビちゃん。そのまま向かってたら君はいつか後悔してるよ。若様に感謝しないと」
「ハァ!?あのクソ野郎、また私の彼にっ」
「まだでーす。そうならないためにここにいるんですー」
「私がどこの誰と幸せになろうと関係ないでしょ」
「だから、幸せにならないから止めに来てるんだって」
「ふん!そう言って前回の彼諸共町を吹き飛ばしたくせに」
「若様の命令には逆らえないよ」
「裏切り者!」
強行突破と片手を槍にして突っ込むけど、鉄が焦げたような煙を出して黒から赤とグラデーションを起こす白かった腕が熱されて私の槍に触れる。掴まれて逃げるように腕を引っ張れば勢いに負けて尻餅着く。ああ、もうほんと熱いんだから!
「えーん、聞いてよー、頼むからぁ」
「うるさい!あぁ、もう、船が出ちゃう」
「いいよ、出て。どうせ行かせないんだから」
「なんでそんなイジワルするのよ」
「意地悪じゃないよ、君のこと思ってだよ」
「嘘つき!いつも邪魔するくせに」
「邪魔、ねぇ」
私の言葉を鸚鵡返しして少し考え込むように黙るから見つめる。ああ、彼女越しで船が出航の準備してる。武器になってもいいけど、彼女のほうが強いから無理だと思う。なんでも溶かしちゃうなんて私と相性悪すぎ。
「ベビちゃんはさぁ」
地面に座ったままの私に目線を合わせるようしゃがみ込む。折り曲げた両膝に肘をつけて頬杖着く。
「私が行かないでって、素直に言えば行かずに居てくれるの?」
なんのこと?首を傾げて見つめ返す。眉を寄せて不思議そうな顔をする。
「一回でも私が邪魔をする理由をきちんと考えたことはある?」
「どういうことよ」
「なんで止めるのかとか、さ。考えてたことあるの?」
「無いけど」
「じゃあ、今考えてみて」
「は?」
「今。答え合わせもしてあげる」
よくわからなくて目線をなんとなく下に向ける。艶出しされたショートブーツが光ってる。たしか、それ。いつか買いたいと目標にしてたブランドのブーツ。革に型を直接押し付けて模様を作るからなかなか手が出せなくて。お金を貸すと伝えたけど、それは違うと断られたやつ。買えてたんだ。知らなかった。そういえば、初めてお金関係で断られた気がする。かなりびっくりした記憶がある。
「なんでって、敵に情報が渡ったら困るからとか?」
「ううーん、それは心配してないかな。ベビちゃん、それはしないと思ってるし」
「じゃあ、私に彼氏ができて悔しいからとか?」
「それは、全く無いね」
「鼻で笑って答えるんじゃないわよ。そしたら、なに?得体の知れない男の元に行くのが嫌とか?」
「あー、それもあるね」
「なによ、ちゃんと答え決めてないの」
「決めてるよ。あるから言ってるんだ」
わからない?って首を傾げてくるから、わからないと伝えれば頬杖ついたままため息つかれる。なんなのよ
「心配」
「シンパイ」
「君が、よくもわからない男に騙されてお金とか身体とか無理に要求されて、無理を知らないから無理をして心も壊れてしまうんじゃないかと心配なんだよ」
ふふと笑う。柔らかい笑みに呆気に取られる。
そっと頬杖ついてない方の腕を私の前に持ってきて、パチンとおでこを弾かれる
「ッタ!」
「だからね、君のこと本当に必要としてない人の元になんて行かなくていいんだよ」
「な、でも。必要としてるんだから」
「わからない?必要ではないんだよ。必要としてるのは君自身ではなく、君が持つ人脈と情報」
言い切る彼女にムッとするけど、ため息ひとつで片付けられる。
「ベビちゃんは必要と言われたら世界の果てまで行きそうだよね」
「そりゃ、ね。必要としてくれるなら、どこへだって行くわよ」
私の返答をまっすぐの瞳で見つめてくる。あまりにも深く見られるからちょっと身体が引いちゃう
「な、なに」
「じゃあさぁ。ベビちゃんは誰に必要って言えるの?」
「は」
呆気に取られる私を見つめて数秒、フッと笑って立ち上がる。タイトミニのスカートを少し直して私を見る。
「誰かれに言わないでしょ。そばにいてとか、離れないでとか」
「そ、そりゃ」
「でもね、君が私にそう言えば私は世界の果てでも海底監獄でも。迎えに行くよ」
「な、なんでよ」
見上げる私。長い髪を首の後ろから広げるように腕で持ち上げて落として首を振ってる彼女。私の言葉を聞いて少し考える
「んー?そりゃ、他でもないベビちゃんが必要としてくれてるからだよ」
へへ、なんて照れたように笑う。綺麗な笑みだ。夜の港の光が彼女のシルエットを浮かべる。
「誰に言われるか。が大事なんだよ」
くるりと背を向けるからなんとなくその奥を見れば、乗る予定だった船が動き出していた
「あーー!!」
「今回は吹き飛ばさずに済みそうだね」
背中に手を組んでこちらを覗くように振り返る。やられた。ハハハと軽快に笑う彼女、ため息をついて立ち上がる。私だって、貴女に言われればどこにだって行くわよ。海の中だとしてもね。
つい溢れた笑みに反応されるから何もないわよと首を振る。なんとなく並んで王宮に帰る。港の光に照らされる影は手を繋いでいた。