お菓子が3つ

「さあ。17時になりました。下界におります」

各自、カゴの中にラッピングをした手作りのお菓子をパンパンに入れて、ローブを着て、魔法帽を被っている。私も全てロッカーから見つけ出した。
校長がマイクもないのに、声が届く。まるで向かい合っているように。これもなにかの魔法かな。

「今日は嫌味な門番もいません。全て解放されるのです。お菓子は、心を込めて作りましたか?ならば、よろしい。大変、結構。男性のたくましい魂を集めましょう」

はい!と返事をした。そして、黒く大きな門がギギーと音を奏でながら開いた。
門の外に向かって歩いて行く。マイさんとサラさんたちとは

「また、後でね」

「じゃあ」

とお互いに声をかけあって別れた。
濃い霧が体当たりしてきて目をつぶりながら歩けば

「あれ」

なんで、地元?しかも、通学でも使っていた交差点。夕暮れどきの学校から真っ暗なネオンが光る街に変化した。
秋の夜は寒くて、セーターの他にローブを切る理由がわかった気がする。
とりあえず、良さそうな男性を探す。ただ、自分が話しかけないと認識されない。

「こんにちは」

「え?」

仕事帰りのサラリーマン。まだ、若そう

「トリック オア トリート」

「え、あ、じゃあ、と、トリート」

いきなり女子高生に言われて、驚きながら言った男性。
私は、カゴの中から透明の袋に入れてリボンで結んだカボチャのタルトをあげた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

そう言って男の人と別れた。
今日の夜はよく冷える。風が吹く。人が私に当たる。信号が赤から青になって人の波が荒くなる。風で帽子が飛ぶ。人の波に当たる。なぜ、前を見ない。なぜ、ぶつかる。なぜか。私が見えてないから。声をかけてないから。
どんどん当たる。いたい、声を出せない。まるで、世界においていかれたような気分だ。だれか、だれか、私を、私を見つけて

「なぁにしてるの?」

耳に馴染む弾んだ声。
人にぶつかり倒れないと気を配っていたのを、やめたせいで転けそうになった。後ろによろめいた腕を引っ張ったのは、

「律」

黒色のセーラー服。真っ赤な線が目立つ。真紅のリボンタイが揺れる馴染みのある制服。

「なぁに。その服。あの映画みたい」

でも、ブレザーかわいいね。とローブをつまんできた。
私はなんだかよくわからなくて

「なんで、わかったの?」

私の姿は声をかけない限りわからないはずだ。声もかけてないのに、なんで、

「美味しそうな匂いがしたの」

そういうと彼女は、私のカゴの中身を見た。

「なにこれ。あ、カボチャのタルトじゃん」

うまそー。と言いながら1つ取った。

「うまいね。これ」

なんだか。全てが嫌になって。俯いた。

「どうしたの、こんなの作って」

ハロウィンだから?と聞いてくる彼女にこのよくわからない不安を、モヤモヤとしたものをぶつけたくて

「美味しくないでしょ」

といった。彼女、少し固まってから

「うまいよ。うまいから食べてるんじゃん」

と言った。
なんだかそれが面白くなくて

「美味しくないよ!!」

と声を上げて、カゴを地面に叩きつけた。
カゴから落ちたタルトを眺める。ふと、自分はなにをしてるんだろうと思い、やってしまったとよくわからない恐怖が襲ってきた。

「もぉ。なにしてるの?ああ、もったいない」

そう言って地面に落ちたタルトを彼女は拾ってカゴに入れる。
なんだか泣きそうになって帽子が飛んで行ってしまったことに後悔をした。

「ほら、どうぞ」

立ち上がって渡してきたカゴを受け取れなかった。なんだか、体を動かしたくなかったから。律の顔が見れない。全く見れない。

「なあに、怒ってんの?」

と律が私の顔を覗く。
どんな顔をしているのか、私もわからないが

「なに。泣きそうなの。どうしたの?」

ここでちゃんと始めて、律の顔を見た。
あんな冷たい目をしてない。優しくて空洞じゃない律の瞳に涙が溢れそうになった。目が水溜りでなにも見えなくなる。ボヤけてきて律の顔がわからなくなる。

「泣かないで」

律の優しい声がする。律の細い指が私の涙を拭う。

りつ

温かな何かに包まれる。なぜか安心して目を閉じた。それをはなさないように抱きしめようとしたら

「みつけて」

まるで切実だった。みつけて欲しかったのは私なのに。泣きそうな声で望むように言った。
律の顔をみようと思い目を開けば

「あれ」

「随分、魘されてたけど」

大丈夫?と言いながら私のカボチャのタルトを食べているサラさん。

「あ、起きたの?」

とどこかへ行っていたマイさんがいた。

「えーと、」

「ほんと、大丈夫?最近疲れすぎじゃない?」

「ハロウィンパーティーがあるから誘いに行こうとしたらいないんだもん」

「そしたら、ベンチで寝てるし」

クッキー食べる?とマイさんが渡してきて受け取ろうとしたが、媚薬を思い出してやめた。

「パーティー用だから、媚薬入ってないよ」

と言ったのだ食べてみる。バターとココアの味が絶妙だった。

「ハロウィンが終わるまでまだまだあるよー」

とサラさんは言って私の手を引いて噴水近くで行われてるパーティーに向かう。
パーティーには、みんな薬を入れてない、祭り用のお菓子をお互いに渡したりもらったりしている。
私もマイさんたちに習って交換しようとしたら、なにか騒ぎが聞こえる。

「リツだね」

サラさんの言葉にハッとした。
なんだか、暖かい夢を見ていた気がするのだ。リツという言葉に引っかかるから律でも出ていたのだろうか。

「欲しいんだよ。みんな、リツのお菓子」

「そして、あげたい。リツって全く受け取らないんだよ。カボチャのタルトを作っても。これじゃないって。見た目なんてほとんど一緒なのに。そして、誰にもあげない。前にね、リツのお菓子を勝手にとったくせにもらったって自慢した子がいて。ガチギレしたの。お前みたいなのにあげるために作ったんじゃない!って。怖かったよー」

「ねー」

マイさんたちはあまり興味がないようで、私のタルトを食べていた。

「それにしても、うまいな」

「美味しいよ」

と2人が褒めてくれるのは素直に嬉しい。
照れていると、ざわめきが少しやんだ。なんだ?と思ったとき

「それ・・」

リツだ。冷たい顔もせず、驚いた顔をして何かを見ている。

「ああ、これ?彼女の」

サラさんは元々知り合いなのか。気軽に声をかける

「た、食べる?」

となんとなく、渡す。でも、リツは受け取らない人なんだったけ。じゃあ、意味ないかなと思ったとき。

「あ」

マイさんが声を発したと同時に周囲からよくないざわめきが起きた。

「・・」

リツはラッピングされたタルトを眺めながら固まった。細くて綺麗な指で優しそうに持ち上げて、瞳をまぶたで伏せめがちのせいで長い睫毛がよく見えた。綺麗にカーブした睫毛。スンと通った鼻筋。形のいい唇が心地の良い音を奏でる。

「これ」

リツは私のようにパンパンではなく、わりと少ないお菓子が入ってるカゴの中から簡単にラッピングされたお菓子を出した。

「え?」

「食べてみて」

マイさんもサラさんも驚いている。周りの騒めきは大きくなった。
リツが作ったのは、ガトーショコラ。一口サイズに作られたガトーショコラは白い粉砂糖がまぶしてあって可愛らしかった。

「い、いいの?」

恐る恐る受け取って、一口。
ほろ苦いビターなチョコ。でも、ほのかに甘みがあって美味しい。ふんわりと少しバターの香りがする。私の好きなガトーショコラ。甘いガトーショコラよりもビターチョコを使用したガトーショコラの方が好きだった。

「美味しい」

私はそう言って、リツをみた。リツは黙って私をみていた。

「なんだか。知ってる気がする。この味。でもなんで、ビターチョコ?君もビターの方が好きなの?」

私と一緒だね。と笑えば、リツは空洞の瞳を輝かせた。

「見つけた」

ポツリと呟いた言葉の意味が理解できなくて、フリーズしていたら。周りの騒めきとサラさんたちの驚きの顔が一瞬にして見えなくなって、目の前がリツの顔でいっぱいになった。

「待ってた」


はじめてのキスの味は、ビターなガトーショコラの味ではなく。食べてもないのに、なぜか、私のカボチャのタルトの味がした。