第4話
よく晴れたこの頃。初夏のエメラルドグリーンの葉が目にしみるようになった。空には長い飛行機雲がうっすら見える。
「おはよー」
「おはよー」
彼女に挨拶をすればそう返ってきた。
彼女との生活には変化があまりなかった。ほうこうが違うから元々別々に登校していたし、彼氏さんとはクラスが違うから放課は私と一緒に移動したりする。
お昼も最初のうちは一緒に食べていたのに、今ではもう別々で食べるようになってる。
「きいて」
「なに?」
可愛く楽しそうに話を切り出すときは、決まって私の聞きたくない話で
「昨日ね。一緒に帰ってたんだけどさ。こけそうになって。そしたら繋いでいた手に力を入れて、こうグッとね。引っ張るとかじゃなくて優しくよろけたりしないようになんてかな。添えるっていうか」
楽しそうに話す彼女は可愛い。可愛いけど笑顔が攣る。
よろけそうになったら私だって助けてあげられるし。とか色々対抗してしまう。
「でもさ、その後。彼が今度はつまづいちゃって」
かわいいよねーなんて笑う彼女はとてもほっこりするオーラを飛ばしていた。
かわいいなんて。あなたの方が可愛いのに。
「それで、まあ、今度は私が手を引いたんだけどさ。思いっきりすぎてめちゃ痛かった」
楽しそう楽しそう楽しそうに、笑う。
綺麗な歯並びをした歯が見える。喉がなっている。私だって手を差し伸べられたことなんてないのに。
「どうぞ」
彼女の長い指がこちらに向いている。
「お嬢」
不機嫌な私に彼女は困った顔をして私を呼んだ。
「困ります。なにを怒っているのか教えていただけないと」
ため息をついて屈んでいる足に差し伸べていた手を置いた。
「嫌なことは嫌と言っていただかないと」
困る彼女をみて、申し訳ない気持ちと言いたくない気持ちが交差する。
私の気持ちをスラリと掬った彼女は優しく微笑み。
「どうぞ、仰ってください。私はあなたの味方です」
その笑みにつられて、口が動く。
「私のモノにならないから、嫌なの」
私の言葉に彼女は驚いた顔をして少し苦い笑みをした。
「申し訳ありませんが、私は私のモノです。あなたのモノにはなりません」
それを聞いた私は、頬に一筋の雫を流す。
それをみて、彼女は困った笑みをみせて。
「申し訳ありません」
と言って長い指で掬った。白い手袋にシミを1つ作る。
「でも、あなたは大切です。なによりも、大切です」
彼女からの愛を知らないわけじゃない。でも、全てがこちらに向かないことに私は嫌になった。
優しく包んでくれた彼女に小さく伝えたかった。でも、小さく伝えることなんてできなくて、涙しか流せなかった。いつしか、涙が彼女のスーツにシミを作る。
そっと離れた彼女の顔を見て、私は、口を動かして、
「す・・」
「すき」
私の声じゃなくて彼女の声に反応した。
「焼きってさ」
わざと切りながら言ったわけじゃないが、わたしには切れて聞こえた単語にとても驚いた自分が恥ずかしくなった。
「関西風と関東風があるじゃない?」
「あー」
「わたしは、関東風よりも関西風が好きなのよね。肉が食いたいから」
「あー」
「でも、野菜が食べたいときは関東風が好ましいのよ」
「難しい問題だね」
「そうなんだよねー」
「今度、しゃぶしゃぶでも食べに行こうか」
食べ放題の。と言えば
「いいね!行こう。明日は?」
「暇だね。行こうか」
私の了承に喜んだ彼女は、やはり可愛い。先ほどの大人びた優しい彼女も魅力的だが。こちらの方がやはりいい。可愛らしい。
「しゃぶしゃぶって、ポン酢派?ごま派?」
「混ぜるかな」
「天才かて」
単純な発想に目からウロコの彼女は、やはり可愛い。
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