第6話
雨が止むのを合図に季節は夏に変わっていく。
夏。それは学生にとって大きなイベントが盛りだくさんの季節。
「というわけで」
どういうわけなのかわからないが、彼女は追試無しで夏休みを過ごすために勉強に励む。もちろん、その理由は
「浴衣なににしようかなぁ」
勉強の息抜きと言ってスマホで今年の浴衣の流行りを見ている。
彼氏さんとの初夏祭りに気合を入れている彼女を見て、去年までは一緒に行っていたのに。と一回しか行ったことない夏祭りの思い出に浸る。
「これ、可愛い」
そう言って彼女か見せてきたのは、白い生地に淡い青い大きな花が二、三輪車咲いている大人っぽい浴衣。帯はあえて真っ赤にすることでおしゃれな感じがした。
「わあ、大人っぽい」
「でしょ?」
「いいなぁ」
「ふふふ。でしょー。はやく、彼氏作りなよ」
何気ない一言に私は心をギュッと握られながら、そうだねと返した。
もっとも、私のいいなあ。はその浴衣を着ているところを観れる彼氏さんに対しての言葉であるのは秘密である。
祭囃子がチラホラと聞こえてくる。
淡い光がその場を盛り上げているように思える。変なところないかなと新しく買った髪飾りと今日の日のために凝った髪型を触る。
「おまたせ」
なんて言って現れた私に彼女は息を飲んだ。でも、それをバレないようにする。
「まった?」
「ううん。大丈夫」
そう言って笑う彼女を見て私はなんで綺麗だろうと今度は私が息を飲んだ。
真っ赤な帯は夏の日差しを象徴していて、青い花が夏の涼しさを表していた。
「素敵ね」
「ありがと」
私の言葉に照れる彼女は可愛い。私は彼女の細っこい綺麗な白い手を握って
「いこ」
と引っ張る。お互いいろんな話をしながら食べ歩いた。
「もうすぐ花火が上がるね」
そう言って地元民ならではのスポットである高い住宅街の坂道を登る。そこには誰も知らない花火スポット。私たちだが。通学路である私たちだけが知っている場所。
「あと、何分?」
「うーん。あと、2、3分?」
と適当に言う。チラホラと適当な会話をしていると、ヒューと独特の音が空に響いた。
「きれー」
とすかさずストーリーにあげて満足してあとはゆっくりと花火を楽しむ。
私はこっそりと花火を見て楽しむ彼女を見る。
私の視線に気づいて私を見つめる彼女。
「なに?」
照れ臭そうに笑う彼女は、ほんとうに可愛い。
どうしようかなと思うくらい可愛らしい。
涙が出そうになるくらい愛おしい彼女の頬に触れて仕舞えばもう、引き返すことはできない気がした。
頬に触れると学校とは違う、化粧が指にハラリとつく気がした。
息をお互いに飲んだ。ゴクリと音がする。
ドンッと大きな音が響く。まるでライブ会場にいるような気がする。彼女の髪飾りが揺れる。
化粧を乗せて大人っぽくなった彼女の唇に目を奪われる。いけないことをしているとわかっているのに顔がとまらない。顎を前に出して仕舞えばくっつくことがわかる。それでもそれをしたくてしょがない。それは間違えている行為でありしてはいけないのにしたくてしょうがない。それが愛を証明する行為であることがわかっているからこそ、なおさらそう思うのだと自分に言い聞かせる。
ドンッと一際大きな音が響いた。その赤い唇に優しくそして、欲深く押し付けるかのように、
「いやぁ、どーしよう」
彼女の話を全く聞いていなくてなにがどうしようなのか全くわからないが、それっぽく笑っておいた。
相変わらずの想像癖のせいで彼女の話を聞けなかったが、その写真の着物を着ている彼女は美しかった。
「それ」
「へ」
「さっきの写真のやつ」
「ああ。浴衣?」
「うん。すごく似合うと思うよ」
「ほんと?」
嬉しそうにする彼女にやはり先ほどのほうがいいと伝える。
ついでに髪飾りを探す彼女。楽しそうに探す彼女を横目に私は暑い日差しをにらんだ。
「これ、似合いそう」
彼女が画像を見せてくる。紫の簪。大人っぽい簪は可愛かった。
「ほんと?」
「だって、大人っぽいじゃん。あんた。絶対似合うよ」
ありがとと言えばなにやら満足げな彼女。
雨とともに流れることはなかったこの感情の行き先を私はどうすることもできないのだろうなと自分を締め付けるには十分な束縛を作り上げた。
夏が始まる。
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