103



雷門中の修学旅行は毎年場所が沖縄か北海道と場所が違う。去年の先輩たちは沖縄に行ったらしいので今年は北海道。思わず士郎くんを思い出してしまった。元気かな。
ちなみに日程は来週の月曜日から木曜日までの四日間。金曜日は休み。
一日目は半日を移動に使い、後半は牧場に行くらしい。
二日目は札幌市内の自主研修。これは一日を使った自由行動と言っても過言では無く、楽しみにしている生徒も多いようだった。
三日目はスキー体験教室。そして四日目はさっぽろ羊ヶ丘展望台で写真撮影と、なかなか充実した四日間になりそうだった。

「とりま薫はウチらと班組むっしょ?」
「そうだね」

今行っているのは自主研修の班決め。男女自由の八人組を作って欲しいらしく、クラス内は見事騒がしくなっていた。とりあえず私はこの三人と一緒に回ることは決定。あとは四人だ。

「あ、秋ちゃんも引っ張り込んで良い?」
「いいよ!」

のっちから力強い肯定をいただいたのでありがたく秋ちゃんのところへ。秋ちゃんもまだどこのグループか決めかねていたらしく、声をかければすんなり私たちのグループへの所属が決まった。さっそくグループに向かおうとすれば、ふとそこでクラスの男子に呼び止められた。

「え、円堂さん、あのさ…」
「どうしたの?」

数回程度しか話したこともない男子だったけど、呼び止められたので立ち止まる。やや緊張気味なその顔は強張っていて、私も思わず真面目な顔になってしまった。いったいどうしたんだ。男子の向こう側では、何故か彼のお友達が固唾を飲んでこちらを見守っている。だからいったい何がどうした。

「よ、良かったらなんだけどさ、俺らと…!」
「悪い、こっちが先約だ」

…するとそこで、どこか焦ったように誰かが私の腕を掴みながら、何かを言いかけた男子の言葉を途中で遮る。…振り向くとそこにいたのは豪炎寺くんだった。思わず目を瞬くものの、先約とは。何かしら約束した覚えは無いけれど、豪炎寺くんがそう言うのならきっと私が忘れているだけなのだろう。何せ、つい先程までビックイベントであるはずの修学旅行の存在を忘れていたほどだ。
なので、申し訳ないが何か言いたそうだった目の前のクラスメイト男子にはお断りの返事を入れておく。

「なんかごめんね。そうみたいだから」
「あ、お、俺こそごめん…」 

…んん、少し申し訳なかったな。引き返していく背中から哀愁が漂っているし、やはり用件だけでも聞いてあげるべきだったかもしれない。まぁでも先に豪炎寺くんの先約とやらを聞かなければ。

「何か約束してたっけ?」
「……悪い、でまかせだ」
「わぁ」

目を逸らしながらの小さな謝罪に、とりあえず脇腹チョップを入れておく。なんでそんな嘘つくの、まったく。先ほどのクラスメイトくんへの罪悪感もあって、ジト目で豪炎寺くんを見つつ問いかけた。私は怒っている。

「なんでそんな嘘ついたの」
「…目の前で先を越される訳にはいかなかったんだ」
「先?」

意味が分からず首を傾げれば、豪炎寺くんは聞き返されるとは思っていなかったのか僅かにたじろぎ、しかしやがて意を決したようにやや視線を逸らしながら口を開いた。…その声は、いつものハキハキした豪炎寺くんらしくない、絞り出したようなか細い声で。

「…自主研修、一緒に回らないか」
「あれ、豪炎寺くんまだ班決めてないの?」
「…あぁ」

学校内でもモテる豪炎寺くんなら、お誘いが選り取り見取りな気がするけれども。
しかしよく見れば、向こう側にこちらを見ている守と半田くんがいる。守は不思議そうな顔してるけど、半田くんはげんなりとした、何やら物言いたげな顔だ。まるで甘いもの食べ過ぎて吐きそう、みたいな顔。今日の給食に甘いものなんて無かったぞ。
…でもたしかに秋ちゃんのことを考えれば守が居た方が楽しいのでは?それにみんなサッカー部だから気兼ねしないで楽しめそうだし。それに豪炎寺くんが誘いに来たのも、私や秋ちゃんという顔見知りがいるのはもちろん、のっちたちとも交流が多々あるみたいだし気を楽に出来そうだからなのかもしれない。

「豪炎寺くんたちが良ければいいよ。のっちたちも多分大丈夫だから」
「…良いのか」
「うん、楽しみだね、自主研修」

じゃあさっそく、と遠くで見ていた守たちも呼び寄せて元の席へ帰る。三人で自主研修先の話をしていたらしいみんながこっちを向いた瞬間、のっちとまきやんは爆笑し、しののんは少し呆れたような目をしていた。

「木野さんは四人だった…??」
「違うよ」
「よろしくな!」

どうして秋ちゃんの他に守たちがいるのか、について訳を説明するとさらに爆笑が酷くなった。豪炎寺くんの顔が引きつっているから止めてあげて。

「ヒィ、豪炎寺ウケる」
「男見せたな」
「…うるさい」

やや興奮気味なのっちとまきやんに挟まれてバッシバシと背中を叩かれている豪炎寺くん。痛いと思うから止めてあげて。

「…それにしても、なんかすごくいつものメンバーになっちゃったね」

とりあえず班長と副班長を決めろ、ということで班ごとに集められたのだけれど、やはり誰も進んではやりたがらないのでじゃんけん大会が始まった。結果は半田くんが班長でのっちが副班長。事務仕事が苦手そうな二人に見事的中してしまったせいで、二人とも軽い悲鳴を上げていた。

「そういえば、守たちは本当にここのグループで良かったの?他のところは男子と女子で固まってるけど…」
「俺は別に良いぜ!」

守はそこまで気にしない方なのでいつも通り良い返事。豪炎寺くんは微妙に目を逸らしており、半田くんはそんな豪炎寺くんをジト目で見つめている。どうしたんだ。

「豪炎寺、今度奢りな」
「…分かった」
「なんの話?」
「男同士の話だよ」

よく分からないが、どうやら豪炎寺くんは半田くんに恩ができたらしい。気になったから詳しく聞こうと思ったのだけれど、豪炎寺くん本人に話を有耶無耶にされたのと授業が終わってしまったのとで結局は聞けなかった。残念。





TOP