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テスト明け初の部活を行うサッカー部内でも、やはり今日の話題は修学旅行について。話を聞く限り班はやはりそれぞれサッカー部で固まっているらしく、例外なのは目金くんくらいだろうか。オタク仲間と早々に班を組んで固まったらしい。

「先輩たち羨ましいです…!」
「春奈ちゃんたちにもお土産買ってくるから待っててね」

一年生たちもこの浮ついた校内の雰囲気が羨ましかったのか、少々拗ねたような顔で騒いでいる。いや、君たちだって来年は修学旅行なんだし多分沖縄だよ?十分楽しみじゃないか。
そう嗜めると「そういうことじゃないんです!」と怒られてしまった。

「私は!木野先輩や薫先輩、夏未先輩たちと!行・き・た・い・ん・で・す!!」
「…そっか、そうだよね」

可愛いな、春奈ちゃん。そんな嬉しいこと言ってくれるなんて。お礼代わりに抱き締めれば、春奈ちゃんも歓声を上げて抱き締め返してくれた。こっちを見ている秋ちゃんも夏未ちゃんも微笑ましげな顔。いつか四人だけで女子旅行しようね。男子禁制のやつ。
たしかに沖縄はともかく、北海道は私だけ不在だったし寂しい思いをさせてしまったのだろうか。そうだと不謹慎だけど嬉しいね。

「そういえば他のみんなはどんな班になったの」
「俺たちは染岡と松野と組んだぞ」

風丸くんは染岡くんたち、鬼道くんは影野くんと闇野くん、そして土門くんはいつも通り一之瀬くんと組んだらしい。…そして何と意外なことに、そんな土門くんたちの班の中には夏未ちゃんも組み込まれていた。

「わ、私は良いって言ったのよ」
「けどさぁ、理事長代理として先生たちと行動するーだなんてそれも何かアレだろ?」
「夏未ちゃん…」
「…よ、余計なお世話よ!」

仕事熱心なのは良いのだけどね、夏未ちゃん。中学校生活で一生に一度の修学旅行なんだから、この四日間くらいは子供でいたって許されると思うな。それに夏未ちゃんが先生側に居ると一緒に過ごしにくいし、そのことを考えると夏未ちゃんを引っ張り込んでくれた土門くんたちには感謝しかない。

「写真、いっぱい撮ろうね夏未ちゃん」
「…仕方ないから撮ってあげるわ」

何なら、いつでも良いからみんなで記念写真を撮ろうということになった。二年生組が仲良しで私はとても嬉しい。

「じゃあ、今週の休みにみんなで買い物に行かない?音無さんも一緒に」
「良いんですか!?」
「あら、良いじゃない。送迎ならするわよ」
「あ、それ日曜日でも大丈夫?土曜日はちょっと用事があって…」

秋ちゃんからの楽しそうなお誘いに思わず心が跳ねたものの、今週末の用事を思い出して慌てて都合を尋ねる。幸い、今週末は二年生の準備のために自主練になっているから大丈夫だとのこと。思わず胸を撫で下ろしてしまった。前々から楽しみにしていた約束だというのに、反故にしてしまっては申し訳が立たない。

「用事ってなんですか?」
「ん?…ふふ、友達と出かけるんだ。他校のだけど」
「…佐久間か?」
「はずれー」

もはや大親友と言っても過言でないのでは?と言えるほどに仲良くなってしまったあの子と一緒に。佐久間くんも大親友の域と言っても可笑しくないけど、残念ながら今回は彼じゃない。佐久間くんならこの前放課後ばったり出くわして、一緒に居た源田くんと三人でお茶したしね。

「その後ね、成神くんたちも来たんだ。さながら帝国お茶会」
「お前は雷門だろうが…」

何なら今度は鬼道くんと土門くんも連れて来いって言ってたよ。みんなで行こうね。





「やぁ、薫。待っていたよ」
「照美ちゃん!」

やって来たのはショッピングモールのカフェ。待ち合わせ時間の十分前を目処にしてやってくれば、そこには既に優雅にソーサーを傾けて紅茶に舌鼓を打っている照美ちゃんが待っていた。どこにでもあるチェーン店のはずなのに雰囲気がそこだけ上品ですごい。

「久しぶりだね照美ちゃん、もう怪我の具合は良いの?」
「ふふ、心配症だね君は。この通り、もうどこも悪くは無いよ。練習にだって本格的に復帰したしね」

エイリア学園カオスとの戦いで負傷した照美ちゃんは、途中でキャラバンから離脱してしまったのだけれど、勝利報告を兼ねたお見舞いに訪れたところ自分のことのように喜んでくれた。そこから電話やメールを重ね、もはや佐久間くんと同じく性別の垣根を超えた親友と言っても良いほどに仲良くなった私たちは、今回はこれまでの慰安会を兼ねてお出かけすることになったのだ。

「行きたい場所は決めたのかな?」
「決めたよ!」

お会計を済ませてから店を出てすぐにそう尋ねてきた照美ちゃんにブイサインで返す。男の子にショッピングはつまらないだろうし、映画もせっかくのお出かけなのに喋れないのも私が嫌。照美ちゃんが楽しめて、私も一緒に楽しめること。それは。

「照美ちゃん、サッカーしよう!」
「…良いね!」

サッカーボールは一応持ってきていたので、公園で二人蹴り合うことにする。照美ちゃんとサッカーをしたのはあの時の一回きりだったけれどとても楽しかった。だからもう一度どんな形でも良い、また照美ちゃんとボールを蹴ってみたいというのが私の本音だ。

「薫は、本当に、強いね…!」
「照美ちゃんこそ、前より、速くなったんじゃないのッ…?」

意外と技術派でもある照美ちゃんとのサッカーはとても楽しい。凌ぎを削り合う、というのはこういうことだろう。私の取ったボールを取り返されて、また私が奪って奪われて。一時間も蹴り合う内にどちらともなくその場に座り込んで、顔を見合わせるや否や笑い出してしまった。

「ふふ、はぁ…これじゃいつもと変わらないじゃないか」
「休みの日までサッカーって…ふふふ、私たちらしいね」

そこでサッカーは十分満足できたので、互いに好きな飲み物を買ってベンチに移動する。話すことは近況や、これからのことまで。私もタイムリーと言わんばかりに修学旅行の話をしておいた。お土産何が良い?と尋ねたら、とても澄んだ瞳で「熊の木彫り」って言われたんだよね…キーホルダーにしとこう。

「北海道といえば、吹雪くんの出身もそうじゃなかったかい?」
「うん、さっそく連絡したら『会いたい』って言ってたよ。でも士郎くんの地元とは少し離れてるし、平日だからなぁ…」

もう少し士郎くんの地元と近かったら会うことも出来たのだろうけど、物理的な問題はどう足掻いても解決できない。そう言って窘めたらなんだかしょんぼりしてしまったので、少々罪悪感がすごいのだが。

「楽しんでおいで。また帰ってきたら話を聞かせてくれるかい?」
「うん、またお茶会しようね」

…それにしても、本当にお土産は熊の木彫りで良いのだろうか。





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